アナザー・ポイズン・ボール
ゴールデンウィークですね、僕は移動だけで一日潰れました。
かなり遅れての平成最後の更新です。良い平成を。
「隊長、着きました」
長いこと過去の嫌な思い出に浸っていたおれの意識は、イオマの呼びかけにより現実に戻ってきた。目の前には、あの時とあまり変わらないリコの故郷がある。
「リコ」
「はい、大丈夫ですよ」
そう言って笑うリコの瞳は、今も迷いが写っていなかった。強い人間だな、お前は。いつまでも過去のことを引きずるおれとは大違いだ。
リコの言葉に頷きで返し、おれは改めて目の前の景色を見つめた。応援の要請があった割には静かだ。やはりミロが暴走して出動した部隊と交戦してしまったのだろうか。それとも、単純に討伐しにいった魔族に全員やられてしまったとか。
……落ち着け。悪い方向性にしか考えられないのはおれの悪い癖だ。少なくとも相手にする数が多いわけではない。強力な個体が数頭いるのだろう。それならば叩き潰すまで。
おれは車のトランクからいつも使っている愛用の拳銃を取り出し、例のごとく開発中の二重爆裂弾が入った弾倉を詰め込んだ。
「行くぞ」
各々が武器を構え、頷く。一つ深呼吸をして胸の中にある恐怖心を抑え、車の中で伝えたことを復唱した。
「さっきも言ったが、応援があったってことは強力な奴が相手だと思われる。固まって動くぞ」
「はい」
慎重で、それでいて迅速な対応が求められる。
魔族か出動した部隊の人間か、さっさとどちらかを探して救助しなければならない。とりあえず建物の陰に隠れつつ進んでいくが…。
「…何もいないな」
そう。余りにも静かで、何もいないのだ。人や魔族どころか生物がいる気配すら感じられない。一体どういうことなんだ。
…ろくでもない予感がする。さっさと動こう。
そう思って少しペースを上げて動き出すと、風を切る音が聞こえた。何の音だ?辺りを見渡してみるが、特に何も見当たらない。…やっぱりろくでもない予感がする。
「うぉっ!?」
そう思っていると、再び風を切る音が聞こえ、それと共にディスが吹き飛ばされた。この感じもしかして。
「…くそっ。最悪だ!」
姿が見えない敵ということか。厄介な相手だ、確かにこれならば相手にするのは骨が折れるし、増援を要請する理由もわかる。わからないのは未だ部隊の人間が見えないところだな。
とはいえ、一度ここにいる姿が見えない魔族たちを相手にしなければ。
「キド!」
「わかってますって!」
キドは重そうなアタッシュケースから黒い物体を人数分取り出すと、素早い動きで組み立て始める。出来上がったのはガスマスク、キドはそれをおれたち一人一人に投げ渡した。
急いで受け取ったマスクを装着し、キドの目につくように大きく手を振った。
「大丈夫な人は手を上げて!…よし、全員オーケーっすね」
再び重そうなアタッシュケースを漁り始めたキドは、中からドクロマークが刻まれている赤い球を取り出す。
「服が汚れても、保険は降りないっすよ!」
そう叫ぶところが本当にキドらしい。
叫びながらその赤い球を地面に叩きつけると、その玉と同じ毒々しい色の粉が辺り一面に広がる。姿が見えない敵が相手用の兵器、通称『赤毒粉球』だ。…誰が考えたんだろうな、この名前。
赤毒粉球は名前の通り、赤い毒の粉を辺り一面に撒き散らせる球だ。毒ガス球の類似品だが、大きな違いが2つある。
1つ目は噴き出すものが粉であるため、物体の上に乗っかるということだ。故に今回のように姿が見えない敵でも、攻撃する目印にすることができる。
2つ目はデメリット、この粉は人体に悪影響を与えるということだ。毒ガス球は改良が進みマスクなどがなくとも使用できるようになったが、こっちは未だマスクがないと使用することができない。故に先ほどのように組み立て式のガスマスクを使う必要があり、やや面倒くさい代物というわけだ。
それでもガスマスク共々改良され、ある程度視界はあるし、これを付けたままでも十分に戦うことができるようになった。ほら、今まで見えなかった敵も、今ならシルエットがバッチリ映っている。
「よし、始めるぞ」
「はい!活動開始ですね」
リコの元気な声と共に、魔族との戦闘が始まった。




