それは誰の命か
もうそろそろ始めて一ヶ月です!
ゆったり頑張ります!
嘔吐した。
頭の中が真っ白になった。ひたすら胃の中の物を出そうとした。何も出てこなくなっても口に指を突っ込んだ。次第に体力がなくなっていくのを感じた。周囲が悪臭で包まれていった。全部自分のせいだった。後ろの中年が心配そうに声をかけた。が、何を言っているのか聞き取れなかった。
何をしたかったのかは自分でも覚えていない。ただ、戻せば許されるのではないかと思っていた。
そんなことをしても、自分が人間を食べたということには変わりはないのに。
そのまましばらく身体から体液を出していると、頭だけではなく視界も真っ白になり、気づけばその場に倒れてしまった。
声が聞こえた。
気がつくと俺は全く知らない場所にいた。さっきまでの俺の頭みたいに真っ白で、何もない空間だった。
立ち上がってみると、やけに涼んだ風が俺の体を通り抜けていく。そしてその風が形を作るかのように背後から気配を感じた。
声が聞こえた。その声は俺の背後から聞こえてきた。振り向いてみると、一組の親子が泣いていた。
母親は子供を抱きしめようとしていた。しかし、右腕がなかった
子供は親に抱かれようとしていた。しかし、左腕がなかった。
お互いにお互いを求めあっていた。しかし、2人は抱き合うことはなく、涙を流しながらお互いを見ているだけだった。しかし、2人は俺に気付いた。ゆっくりとこっちへ歩いてくる。何かを求めるように片腕を出しながら。
「なんだよ」
次第に距離が詰められる。身体が思うように動かなかったのか、単純に向こうが早かったのか。
そんなことはわからないが、とうとう2人の手が俺の腹に触れるところまでやってきた。
「俺が何をしたって言うんだよ」
何かを探すように二人は俺の腹を撫でまわす。
「知らなかったんだ。人間の肉だなんて」
見つけた、そう呟いたように聞こえた。
「俺は悪くない、俺のせいじゃないんだ!」
2人はニコっと笑ったかと思うと、俺の腹をその片腕で貫いた。
そして、俺の腹から自分たちの腕を引っ張り出し、欠けた胴体にくっつけようとした。しかし、そんなものがくっつくわけもない。腕は無残にも地面に落ちる。
2人は再び泣いていた。さっきと違うのは、俺のことを見ていたことだ。その眼は憎しみで満ちていた。
2人は何かを呟いた。そして先ほど食べてしまった料理へと姿を変えた。匂いも見た目もあの美味しそうだったときと同じだ。しかし、どうしても食べることはできなかった。
「食べない、もう食べないから。許してくれ」
その場から逃げるように走り出した。またあの2人が現れるような気がしたのだ。
しばらく走り続けると、一つの扉があった。息を切らしながらその扉に入ると、真っ黒い闇に包まれた。そして気が付くと、俺は最初に目覚めた真っ黒のださい部屋に倒れ込んでいた。