魔界へようこそ!
三話です!まだ細々と続けています!
手にしていたフォークとナイフが落ちる。目のまえの景色が白くなるのを感じる。立ちくらみに似たその感覚から現実に戻してくれたのは金髪男の声だった。
「おう、大丈夫か」
確かにここは日本らしくはない。それどころか地球らしくもない。
歩いてきた道に窓はなく、明かりは蛍光灯でも電球でもなかった。
すれ違うモノに人間はいない。自分と共通しているのは言葉くらいだ。
「嘘だ…」
「何がだ」
でもそれが本当だとしたら?俺はどうやって元の世界に戻ればいい。
もしかしたら二度と父さんにも母さんにも会えないのか?ジュンとユウスケもどうなったんだ。
俺はずっとこの世界で生きていかなきゃならないのか?こんな気色悪い外見な奴らと?
嫌だ、嫌だ、嫌だ!!
そう思うと居ても立ってもいられなかった。俺は目の前の料理を思い切り払い落とした。
「会わせてくれ!その人間に!早く!」
「どうしたんだ、急に」
「いいから!」
金髪は人を小ばかにしたように息を吐くと黒服中年に指示を出した。
「連れてけ」
「いいのですか」
「会いたがっているんだ。会わせてやろう」
「承知いたしました」
金髪に向かって会釈をすると中年は「ついて来てください」と俺に声をかけてきた。
中年は俺が来た道を戻ると、途中にあるおどろおどろしい螺旋階段を前に止まった。
「しばらく降ります」
その言葉通り、俺たちはしばらく階段を下った。降りるごとに薄暗くなっていく。ただでさえなかった光が届かなくなっているのだ。しかし不思議なことに視界は悪くならない。寧ろ良好な状態になっていった。暗くなればなるほど、周りに何があるのかが理解できる。
不思議な感覚に襲われていると、あるフロアで中年が立ち止まった。
「ここです」
「ここって…」
先ほど自分たちがいたフロアとは全く異なる、殺風景な扉だった。しかも匂いがきつい。牧場に近い匂いがした。
「どうぞ」
「どうぞって…、開けていいんですか」
「どうぞ」
分かっていたことだが、この男はとても口数が少ない。何が言いたいのかがところどころわからないところがある。
とりあえず、殺風景な扉に手をかける。押して中に入ってみると、そこには人間がいた。
男が四人と女が二人だった。しかし、全員が服を着ておらず、首輪と手錠をつけられていた。
「何だこれ…。どういうことだよ…」
「いかがでしょうか」
中年が相変わらずの無表情でこちらを見てくる。
「いかがでしょうかって、どういうことですか!何で彼らは捕まっているんですか!?」
「これは家畜です。我々の貴重な食料の一部です。貴方も先ほど召し上がっていたはずでは」
「はぁっ…!?」
何を言っているんだこいつは。俺が人間を食べるだと?いつ、どこで食べたというんだ。
「先ほどの食卓で、貴方は美味しいと」
先ほどの食卓?歓迎会のことか?
美味しいって思ったのは?最初に食べたのはステーキだったはずだ。あのステーキは脂身がさっぱりしていてとても美味し
あの肉は何の肉だ。
牛?鳥?豚?この世界にそんなものがいるのか。いたとして、食べれるのか?
じゃあ何の肉なんだ。この男は彼らを家畜と言った。人のことを、食料と。
食べたのか?
俺は、人間を食べたのか?
お読みいただきありがとうございました!