生誕祭
なんとか初週で終わりにはなりませんでした!
「おう。来たな」
部屋には大きなテーブルの上に豪勢な料理が並んでおり、手前に一つの空席がある。その向かいには目覚めた時に手を振っていた金髪男がおり、俺を出迎えた。男のそばには先ほどの黒づくめの中年が立っていた。
「座れよ。これはお前の歓迎会だ」
「歓迎会?」
気が付いたら話せるようになっていた。おそらく、目の前にいるのがこの男と、黒づくめの中年だけだからだろう。こいつらは今のところの見た目が人間と変わらなかった。
「…そんなことより聞きたいことがあります」
「あ?」
「色々聞きたいけど、まずは一つ。ここはどこなんですか」
ゾンビに引っ張られてここの部屋に来るまで、様々なモノとすれ違った。そこに人型はいれど人間はおらず、ただの化け物の集まりだった。
「あー、質問が良くわからないな。どう答えればいいんだろうな」
「ここに人間はいないんですか」
「あー。そういうことか。それを聞いてどうする?」
「安心したいだけです」
「へー」
男はどうでもよさそうに返事をして目の前の肉をフォークで突き刺した。
「おかけください」
黒づくめの中年が指を鳴らすと、空席が動いた。文字通り『座れ』の合図なのだろう。出された椅子に腰を掛けると、中年はもう一度指を鳴らした。俺を乗せた席は元の位置へ戻っていく。
「いる」
「え?」
肉を次々と食べながら男は答える。
「いる。人間が」
「どこに。会わせてください」
「話が違うな。安心したいだけなんだろ?会う必要があるのか」
「あなたの話が信用できないだけです。」
「あ、そ。お前が何をしたいのかはわからないけど、会わせてやるよ。この歓迎会の後でな。お前も食え」
男は顎を動かし、食事を促した。
「…食べたい気分じゃない」
「酷いことを言うなぁ」
笑いまじりにそう言うと、男はフォークを料理に向けた。
「いいのかよ。これ全部命だぜ。お前のために用意されたものだ。お前が拒むなら、この命ぜーんぶ無駄死にってわけだ」
そう言われると心苦しい。仕方なくフォークとナイフを手に取り、一番目の前のステーキのようなものに手を付けた。
「あ、美味しい」
「だろ?遠慮するなよ。これはお前の歓迎会なんだから」
そうだ、この男が繰り返している歓迎会という言葉の意味がよくわからなかった。
「歓迎って、どういうことですか」
「お前が生まれてきて三年。そろそろだと思っていたぞ」
「だから、何が」
「お前が完全に一人の生物として行動できるようになったってことだよ」
その後も男の話は続いた。要約すると、今日この日、俺に物心がついて自分で考えて行動でき、会話もできるようになった。赤ん坊ではなく、一人の生物として行動できるようになった。
つまり、この世界で生きていけることになったことを歓迎するということだった。
「さぁ、どんどん食えよ。ようこそ魔界へ」
「はぁ」
奥の方から更に料理が運ばれてきた。先ほど並んでいた肉料理ではなく、良い香りのするスープや色鮮やかなサラダのような物が中心だった。
…待て。今、こいつは何て言った。
さらっと言われたので流していたが、かなり重要なことを言われたような気がする。
「すみません。今、何て言いました?」
「あ?どんどん食えって」
「その後です」
「ん?あぁ」
「ようこそ魔界へって言ったんだよ」