死に際の記憶
プロローグです!読み飛ばしてくれても構いません!
「コーウー。無理だって、諦めようぜ」
「そうっすよー。オレら素人なんすから。猫探しとか無理無理ですって」
後ろから声が聞こえた。随分と疲れた声だが、それは仕方がない。時刻は17時を過ぎ、日が沈み始めている。昼を食べてからずっと動き続けていると声だって疲れるだろう。
「だから、ずっと言ってるじゃん。先に2人で帰ってなって」
「いや、それをしたら俺らの罪悪感パないじゃん」
「別に頼まれたことじゃないじゃないっすか。そんなに頑張らなくていいっしょ」
「でも」
俺たちがやっていることは迷子の猫探しだ。雑誌を買いに本屋に寄った時に『猫、探しています』の貼り紙が貼っており、行方不明になった場所がその近くだったため、探してみようということになった。
「でも、ほら。わざわざ貼り紙を用意するってことはそれほど大事なんだよ」
「だからってこんなに探すかよ。しかも当てもなしに」
「いやー。ずっと思ってたけど、コウってお人好しっつーよりバカですよね。あと頑固」
「いいんだよ、それが俺なんだから」
「あ、そ」
そんなやりとりから数十分後、完全に空が暗くなったため探すのは断念した。
「いなかったっすね」
「公園全振りで探したのが悪かったんじゃね?」
「でも他にいそうなとこある?」
「だから、オレら素人だからわかんねーって」
「まぁそうだよなぁ。もっとちゃんとしたとこに頼もうぜ。市役所とか?」
「市役所っつーと見つかった瞬間殺処分じゃ?」
「違うよ、それは保健所」
「あれ?そーだっけ」
「まぁググれば出てくるだろ。方法とかコツとか。寧ろなんで最初に調べなかったんだろうな」
「うん、確かに」
やり取りをしながらスマホで検索を行う。隣を歩いていた幼馴染のジュンとユウスケも同じことをしていた。
「市役所じゃなかったね」
「動物愛護センターだったな」
「似たようなもんっすよ」
しばらくそんな中身のないやりとりをしていると、今度は前の方から大きな騒ぎ声が聞こえた。何故だかそこには人だかりができていた。
「なんだろ」
「酔っ払いがゲロでも吐いたんじゃねぇの」
「いや、何だかもっと深刻な感じ」
「あー、今逃げたって」
ユウスケの言葉を、俺は最後まで聴くことができなかった。男が一人、人だかりから出てきて俺にぶつかった。その次の瞬間、視界がブラックアウトした。
腹が熱い。いや、体が燃えるように熱い。なんでなんだろう。そう思って腹部に手を当てるとぬるりと嫌な感触がした。
「コウ!おいコウ!」
目を開けているはずだが、視界は真っ暗だ。代わりにジュンが俺を呼ぶ声がこれでもかと言うくらいに聴こえてきた。
「おいしっかりしろ!コウ!返事をしろって!」
「救急車来るまで3分ですって!」
「わかった!聴こえるか、コウ!すぐに助かるから!」
助かるって、何が?
何が起きたんだ?
疑問ばかり浮かび、質問しているはずだった。しかし、返事はなく、ジュンはひたすらに俺を呼んでいる。
次第にその声は小さくなっていき、同時に熱かった体が冷えていく。感覚という感覚がなくなる代わりに、思考だけが冴えていった。
あぁ、そういうことか。
倒れる間際を思い出す。俺にぶつかった男が持っていたのは刃物だった。きっと俺は刺されてしまったのだ。
人間って意外と脆いな。そう心の中で呟くと、そこで俺の意識が途切れた。
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