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α空間の狂ってない彼女  作者: 6月32日
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ジョセフィーヌの開口


 ランドセルの中を覗くと、カメは「妙なことしやがったら、またやっちゃるぞ」と威嚇の表情で見返してきた。とにかく、ランドセルさんのためにもカメが生きてて良かったと安堵した。


 部長が脇から「いい子だねえ」と言いながら、また指を入れようとする。メッとたしなめるようにランドセルさんが部長の手を打った音が部屋中に響いた。部長はハハハハハと笑いながら打たれた手をブンブン振って、まるで反省した様子がない。


「君たちに私の友人を紹介しよう」

 細葉巻をくゆらせた後、Dr.がそう言ってボクたちを案内したのは専門ペットショップ顔負けの飼育室だった。その一画、強化プラスチックで作られた飼育スペースの中に、尻尾まで入れたら3メートルはありそうなイリエワニが口を大きく開けて鎮座していた。


 Dr.はその飼育スペースに金網でできた扉から中に入ると、得意げにボクらのほうを向いた。そして、

「ジョセフィーヌ、ごはんの時間だよー。は虫類でも、私くらい扱いに慣れてると、ほらっこんなことも……」そう言ってワニの口に頭を入れた。

パクリッ

“当然でしょ?”とでも言いたげに、間髪入れずにジョセフィーヌが口を閉じた。


「抜けないよう。助けてよう」

 そう叫んで助けを求めるDr.に、さっきまでの威厳や余裕はなく、ただひたすら情けないだけだった。両手両足をバタつかせているその姿は、どうやら本気らしく、いつまでも情けない姿を鑑賞しているわけにもいかない。

 部長を振り返ると……ヒーヒー言いながら腹を抱えて笑っていた。一応ランドセルさんも振り返ると……猛烈な勢いでヘッドバンキングしていた。


 ジョセフィーヌはブルッと体を振るわせた。それは獲物を本格的に飲み込む体勢を整えているように見えた。

 いっただきまーす!

“待った”がききそうな気は全くしなかった。

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