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α空間の狂ってない彼女  作者: 6月32日
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カメ屋の一発

 カメは結局外れなくて保健室に行った。保健室では、保健教諭に悪態をつかれただけで解決するはずもなく、ランドセルさんの行きつけの病院に行った。


 病院は“スミス・メンタルクリニック”といった。

 Dr.スミスは元帰国子女で、先生自身がスナイパーに狙われているという妄想を抱えている。

 今回と同じようなときに救急病院の医師に「獣医に行け」とか冷たく言われて困って電話したら「来ていいよ」と言われたらしい。ランドセルさんがどんな病気でかかっているのかは分からないが、あまりにも思い当たる節があり過ぎた。


「また、来たの? 日本人はアホだねえ」

 Dr.は開口一番にそう言うと、足を組んだままの姿勢で、部長の指を汚いものをつまむような手つきで持ち上げた。確かに、この人たちと縁の切れないボクとこの人たちは、世界で一、二を争うくらいアホかもしれないと思った。


「ハ虫類はもっと繊細に扱わないとダメだろ?」

 Dr.の説教っぽい口調がこたえたのか、ランドセルさんは、また“ばかばかばかばかばかばかーっ”て部長を叩き始めた。「ハッハッハッハッハッハッハッハー」部長は叩かれて笑っている。


 スミス先生はひとしきり日本と日本人の悪口を言った後、さらに高く部長の指を持ち上げ、カメの甲羅をちょうど視線くらいの高さにまで持ってくると、

 アタァァァーッ!!

 人差し指でカメの腹部に強烈な一発を見舞った。

 秘孔を突かれたカメはクパーッと口を開け、四つの足が全部ピーンと伸びたまま固まっている。

 Dr.は慣れた手つきでカメを掴み、甲羅の中央を軸に指先でくるりと一回転させた後、ランドセルの中にそれを納めた。そして、「餅は餅屋、カメはカメ屋」と意味不明の自画自賛をした後、うまそうに葉巻に火を付け、煙を吐き始めた。 


 ランドセルさんはいつのまにか“見ザル”のポーズになっている。ツンツン頭の先っちょが秋のススキのように垂れ下がって揺れていた。

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