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α空間の狂ってない彼女  作者: 6月32日
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帰還


 部員たちは昼休みに学校内のあらゆる場所に出没してパフォーマンスを行い、それを“奇襲”と呼んでいた。不幸にも“奇襲”を目撃してしまった者は、その精神に深刻な傷を負い、学校内で“負傷者”と呼ばれた。

 奇襲の準備や後片づけのために奇抜な格好の部員たちが右往左往する。その中で、ボクは自分で作った弁当を食べる。それは派手なラッピングの電車が通り過ぎる駅の構内で駅弁を食べているような気分だった。

 その日も、下々の者たちが汗する姿を眺めながら、ボクは彼らをねぎらう笑みを浮かべ、ランチをしょくしていた。


「少年!」

「なんですかあ!?」

「また、教室の孤独に耐えきれずに逃げて来たかあ!」

「それを言うなあ!!」

 教養の足りない輩は時に根拠のないことを言うものだ。


 このアフロ野郎が演劇部の部長だということは最近知った。こんな人物が部長だということが、この部の低レベルと狂った性質を如実に語っている。


「その後ろ向きなのが良いぞ! 良過ぎるぞ!」

 犬が仲間の臭いを嗅ぐように、部長がボクの周囲で跳ねる。シズカちゃんではなく、コイツに通電すれば良かった。


 いかん。ここの空気に馴染み始めている。こうやって、ダメになるのだ。人は。

 危険な人間が集う安全地帯。

 明日から、ここに来るのはよそう。そもそも、なんでボクはこんなところに毎日通ってるんだ?

 同じ穴のむじなになってしまう。

 母親と失踪中の父親が泣くぞ。

 

 部長がボクの顔をのぞき込む。

「どうした? 鼻の穴をピクピクさせて。 そういうパフォーマンスか? なら、俺も!」

 ……ピクピク

 後で知ったが、この人はすぐに他の人の真似をしたがるのだ。人が上手いことやってるとそれを許せず、自分でコピーしたくなる。大して上手くないくせにシズカちゃんの芸である“クルリン降臨”を模倣したのも、いやらしい感じの負けん気からに違いない。


 部長の鼻腔のけいれんを茫然と眺めていた。

 いきなりガラっと大きな音がして、勢いよく部室の入り口が開いた。

 逆光を浴びてアイツが立っていた。


 そして、扉を開けた関係のない部員が、“ごめんねー”と言いながら通り過ぎていった。


「ドジョオオオオ!」

 ドジョウは嬉しそうに全速力でこちらに向かってくると、ボクの脇を通り抜け机の上の弁当を猛烈な勢いで食べ始めた。

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