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α空間の狂ってない彼女  作者: 6月32日
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母と語る(ツヨシ編)

 ツヨシはDr.の言うことを理解できていない。特にどうして、Dr.が妹を殺す必要があるのか、どうしてそれが彼女を救うことになるのかが分からなかった。

 いつもはどんなことでもツヨシに分かりやすく説明してくれるDr.も、今回は言葉が少なかった。

 もし、Dr.が文字通りシズカを殺すならば、ツヨシはDr.をどんなことをしてでも止めなければならない。


 母にはどのように話したら良いだろうか。ツヨシは母に隠し事ができない。でも、シズカのことだけは別だった。


 シズカにとって母は死んだことになっている。

 彼女がそれを本気で信じていたかどうかは分からない。

 しかし、ツヨシは、シズカに母についての話をすることを禁じられていた。ツヨシは母のことを信頼していたが、どうしてシズカについては頑なになるのか分からなかった。

 普段なら、ツヨシからシズカのことを話すこともない。しかし、今回はどうしても話しておきたかった。


 ツヨシは思い切って母にシズカの病気のことを話した。彼女はそれほど驚いた様子を見せなかった。

 母はツヨシが言いたいことを言って落ち着くのを待って、ゆっくりと諭す調子で言った

「シズカのことは、先生に任せておきなさい」

 ツヨシは固まったようにじっとして、考え込んでいる。

「……でも、あなたは一度言い出したら聞かないわね」


「それじゃ、お母さんもシズカに会わせてもらえないか先生に頼んでみる」

 ツヨシは驚いた。今までどんなことがあっても、シズカに会おうとしなかった母が彼女に会いたいという。母の中でどのような心境の変化があったのか推し量ることが難しい。


 母が思い詰めた表情で語り始めた。

「ツヨシにどうしても言っておかなくちゃならないことがあるの。おまえが妹を思う気持ちが強いからこそ、今伝えておかなければいけない」

 母が深呼吸する。大事なことを言うときの癖だ。

「シズカはね、お母さんの本当の子供じゃないの。昔から家族として暮らしてきたし、あなたの妹には変わりはない。ただ、お母さんは別の女の人なのよ」

 ツヨシには言葉の意味は分かるが、内容が実感として掴みきれない。どうしてそのようなことが起こってしまうのかも理解できない。ツヨシにとって母と呼ばれるべきは独りであり、それは自分とシズカの母であるはずだった。

「だからと言って、お母さんはシズカとおまえを分け隔てるようなことをした覚えはないよ。だから、家を出るときにも、自分の子として育てるつもりで一緒に連れて出たの。でも、お祖父様はそんな甘い方ではなかった。あの子が連れ去られた後、何度も迎えに行ったけど、会わせてもらえなかった。最後には、あの子に本当のことを話すと言われてしまった。……お父さんが亡くなってから、よけいにお祖父様のあの子に対する執着は強くなった。何度もお祖父様には掛け合ったけど、内緒で会うようなことだけはできなかった。それはしてはいけないことだと思ってしまったの」

 会いたいなら何故会わなかったのか? ツヨシには母がとらわれているもの、母が守ろうとしているものが理解できない。

「でも、今となってはシズカは自分について本当のことを知る必要があると思う。このまま、何もしらないまま、あの子を死なすわけにはいかない。お祖父様のやろうとなさっていることが成功して、死から逃れても、スミス先生のいうことが正しければ、シズカはシズカではない、別のものに変わってしまう」

 ツヨシにはどうしても細かい事情は分からない。でも、母の苦しさ、悔しさ、焦り、そういったものは伝わってくる。それだけが、母の本当のことだと思った。

 自分にとっては妹を守りたい気持ちだけが確かだった。


「お母さんはシズカの本当のお母さんじゃない。でも、あの子を救いたい気持ちは一緒なの」

 この言葉でツヨシはやっと安心した。 

 そして、母は祈りを捧げるように言った。

「ツヨシとは違う理由で、お母さんもシズカに会いたい。会って、彼女が本当に独りじゃなかったことを伝えたい」

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