表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
α空間の狂ってない彼女  作者: 6月32日
21/46

ここにいる彼女

 彼女は確かにそこに存在していた。少し微笑んでこちらを見ている。

 

 本当に、いた。いてくれた。

 それだけで十分だった。


「どうしたの? 座りなさいよ」

 “どこに? どうやって? どれくらい距離なら良い?”

 

 彼女は黒いワンピースを着ている。裾がベッドの上に広がって、黒と白のコントラストが鮮やかだった。


 ボクは思わず彼女に尋ねてしまう。

「ドウシテ?」

 

 ドウシテ? ナゼ? 自分に禁じていた言葉だ。

 色んな意味があった。倒れた日のこと。ドウシテあんなことをしたの? ドウシテここに入院したの? ドウシテ部屋から出て来ないの? ドウシテ今ボクの目の前にいるの?……

 

 彼女は何も応えず、さっきよりは首を少しだけ傾けた。

 頭の中の彼女と話すことに慣れていた。沈黙が長過ぎることに気がつかない。


「ドウシテって、何が?」

 疑問に疑問が返される。彼女の瞳は何も映していない。


「あなたもわたしが狂ってると思ってるんでしょ?」

 唐突に彼女が尋ねる。何を訊かれたのか、分からない。

「あなたもわたしがオカシイと思ってるんでしょ?」

 重ねられる質問に、どんなことを応えたらいいのか、見当がつかない。

 いきなり過ぎて、意味がつながらない。


 きっと、何か誤解しているのだ。

「ドウシテ、そんなこと……」

「わたしに、“ドウシテ”って訊かないで!」

 頭を振りながら、質問を鋭くはねつけた。

 強い拒絶の意志が込められている。

 彼女の反応の激しさについていけない。


 なんとか話題を変えられないだろうか。

「前に倒れたときに……」

「ボクはこんなに反省しているのだから、きっと許されるはずとか、そんなふうに考えてる?」

 彼女の言葉に、ボクは固まってしまう。

「……ウソよ、全く気にしてないわ」

 左右アンバランスの笑みをさらに強くして、ヒステリックに笑う。

 

 途方に暮れて、さらに他の話題を探す。

「家には帰らないの?」

 ボクは何を言ってるんだろう? 帰れることができるのならとっくに帰ってるだろう。

「帰ったら何かあるの?」

 何もないのか……。

 ボクの選択は間違っている。

 それは分かるのに、どうすれば正されるのか分からない。グルグル同じところを回っている。

 


“頭のやまい”の意味が徐々に染みてくる。

 彼女が浮かべている微笑みは不自然で、左の眼だけがアンバランスに大きく見開いている。

 言葉や口調、表情や仕草、放出される雰囲気も含めて、確かにオカシイと思う。

 

 遂に彼女は泣き始めた。まるでこの世で一番ヒドイことを言われたみたいに。

 実際にボクはヒドイことを言ったのだろう。

 泣く続ける彼女をどうして良いか分からなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ