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α空間の狂ってない彼女  作者: 6月32日
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シズカちゃんに会いたい 

 ドジョウはキング・クリムゾンをBGMにすごい勢いでドッグフードを食べていた。

 時々、喉に詰まらせてゲフッゲフッと咽せ込んでいるが、死なないのだろうか?

 ボクに餌を盗られないか心配で、命がけでがっついているようにしか見えない。時々、チロチロとボクを伺う目には猜疑しか感じない。


 ドッグフードは看護師に頼んで買ってもらった。買いたいものは、希望さえ伝えれば、メモをして買ってきてくれる。細かい注文をしてもその通りの品物というわけにはいかなかったが、だいたい“そのようなもの”を買ってきてくれた。今、ドジョウが食べているドッグフードも“そのようなもの”の一つで、ちゃんと「成犬用」と頼んだのに、パッケージにはしっかりと「子犬用」と書いてあった。まあ、そんなに悪いことはないはずだとは、思う。とにかく、ドジョウは喜んで食べている。

 些細なこと、生きていくのに必要なことでいっぱいになっていく。

 これ以上状況に流される前に、ここから出ないと、どこにも行けなくなってしまう気がした。


 “シズカちゃんに会いたい”

 

 会ってどうにかなるものではないかも知れない。しかし、格好をつけている場合でもない。どんなに格好悪かろうとできることは何でもしなくてはならない。

 考えてはいけない。迷ってはいけない。とにかく止まったらそれきりだ。

 ひたすら自分に言い聞かせた。


 その日は一日中、テレビに向かって“モアイ像”の一人になったり、廊下をさまようウォーキング集団に入ったりして過ごした。


 “方法はないか?”


 繰り返し考える。

 やっと思いついたのは、あまり冴えたやり方とは言えないものだった。

 昨日、いたずらで非常ベルを押した患者がいたことから思いついた手だ。看護師が確認のために詰所からいなくなる隙はわずかで、うまくいく可能性はとても低い気がしたが、追いつめられている分、いつもより大胆になっていた。時間が経てば経つほど、こんな危ないこともできなくなる。


 就寝時間になって、タイミングはいつが良いかと悩んでいた。

 5分が永遠のように長く感じた。


“どうして、こんなこと思いついてしまったのだろう”やる前から、後悔していた。

“やめるなら、今だ”断念のための常套句が何度も頭をよぎる。

 

 これ以上待てばできなくなる。

 とても最適と思えないタイミングだったけど、ふらふらとベッドから起きあがった。

 

 廊下には誰もいなかった。

 がっかりした。

 これで本当に計画を実行しなくてはならなくなった。

 自分の呼吸する音がやけに大きく聞こえる。

 長い間強く目をつむっていたせいか、全てのものが二重に見える。

 赤いランプを頼りに、つまづきそうになりながら消防装置に近づく。

 

 そして、震える手で非常ベルのボタンを押した。

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