表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

横着な僕

作者: 柚子

「まぁーだーなーん?」

「んー」

「なぁー、聞いてる?」

「聞いてるよー」

「もう終わりそうか聞いてるんですけど」

「終わるかどうかは別にして、ここは図書館なのでもう少し

静かにしましょうか?・・・お嬢さん」

「おっ、じょっ・・・後10分なら待ってあげてもいいよ」


そう言って机に突っ伏したり、ちらちらこっちを見てきたりする。


そんな可愛い顔で睨まれても、全然怖くないし、むしろ

可愛すぎて口元が緩んでまう。

10分で終わらすにはもうちょっと集中しなアカンねんけどなぁ。


「そんな難しそうなん読んでて何を笑うことがあるん。

気持ち悪いで」

「いや、相変わらずのツンデレやなーおもて」

「うるさい。デレなんてないわ。」

「そんな所も可愛いで、って話」

「っ・・・うるさいなぁ。もぉー喉乾いたから向こうで待ってる。」

「はいはい」

「・・・・早く来てな」

「ふふっ、了解です」


ちょっと特殊な仕事柄なもので、日々勉強や調べものは尽きない。

せっかくの休み、しかもデートを仕事関連で潰してしまうのは

確かに申し訳ないと思う。(たまーにやけどな)


暇やろうし、付いてこんくてもええよって言うんやけども


「確かにせっかくの休みをちょっと潰される、しかも仕事でっていうのは

理解し難いところはあるけど?でも、早く終われば出掛けることだって

可能やしそうなった時の時間のロスは少ない方がいいと思うし、

まぁ別に横で見てるだけでも結構満足やったりするから・・・

だから付いて行くの。それに眼鏡かけてる章ちゃんはっ!

カッコ良いから変な虫ついたら困る。」


って文句なのか何なのか分からへんこと言いながらも付いてくる。

あんなプリプリ出てったように見えてちゃっかり僕を捕らえられる範囲に

しか動かんし、手振ったら振り返してきたりもする。



そもそもの出会いもここ図書館なわけで。

やらなアカン課題が迫ってた僕は身体の割に大量の本を抱えてて。

どんくさいことにつまづいてそれをばら撒いてしまったんやけど、

恥ずかしい思いしながら拾ってたら一緒に拾ってくれたのが彼女で。


「いつも頑張ってるのは感心するけど、横着せんかったらええのに」


と笑いながら言うてくれた。


「あ、ありがとう」

「それで全部?」

「うん、多分。大丈夫。」

「もし良かったら半分持つよ?・・・窓際3列目、やんな?」

「え?」

「ほらほら」


何で知ってるんやろ?とか、いつも見てんの?とかそういうことは

あんまり思わず(不審者やと通常なら疑うべきところやろうね)

ただただ人懐っこい笑顔してるなーってところに親近感を覚えていて。


「ありがとう。重たかったやろ、ゴメンな」

「いやいや。あのまま見て見ぬフリは出来ひんかったし」

「はい、お恥ずかしい限りで・・・・・」

「そんないっぱい何の本持ってんの?めっちゃ難しそうやねんけど」

「あ、仕事で使う本でな、これは・・・・・・」


そこから色んな話をして、そこから行けば毎回会うようになって、

どんどん親しくなっていって。

読んでる本の趣味は全然違うし(そもそも合うはずはないんやけど)、

話の共通点も少ないし、聞いてみれば年下やし(思いっきりタメ口

やったけど・・・)

でも、そんなことも感じひんくらい惹かれていくのが分かっていった。

というかただただいつも眩しいくらいの笑顔を向けてくれるところに

はまってしまった。


向こうが笑って僕が笑う・・・・・・

こんな幸せをこれからも一緒に共有していきたいな、って単純に思ってて。

(向こうの気持ちは知らんけどさ)

まぁ、そこから3年も付き合えばさっきみたいにブー垂れることも

毒吐いてくることも少なくないけど。

それすらも愛しいと思ってる僕は、もうだいぶとハマってもうてるんやろな。


さーてともうそろそろ時間やし、拗ねられすぎても困るし(←)、

本返して向かってあげるかな、っと。


「いつも頑張ってるのは感心するけど、横着せんかったらええのに」

「え?」

「いつぞやみたいに恥ずかしい思いしますよ?お兄さん」


あの時と同じセリフで、あの笑顔で近付いてきて、本を何冊か持ってくれた。


「あ、ありがと」

「待ちくたびれたんですけどー。お昼章ちゃんの奢りなー」

「ほとんど僕が払ってるやんか」

「えー、あたしもこの前のケンタッキー出したし」

「それは威張るところじゃないです」


そんな他愛もない会話をしながら本棚に向かう。


あー、そう。この感じ。

こういう空間が一生続けばいいな、ってあの時から思ってる。

だから、先に本を戻し始めてくれてる後姿に耐えきれんくなって、


「七海?」

「んー?」

「結婚しよか」

「・・・・・・え」

「結婚、しよ?」

「しょっ・・・・・」

「僕、あの日からそうやって笑ってくれる笑顔が好きで。

こんなんがずっと続けばいいなーって思ってて。

最近退屈させてまうことも多いからブー垂れることも多いお嬢さんに

なってもうたけど(笑)

でも、やっぱりその笑顔が大好きやから。

これからも一生ずっと僕の隣で笑っててほしいし、そんなほんわかした

家庭を築いていきたいんやわ。・・・・・・どう?」

「どう、て」

「お返事聞かせていただけますか?」


手が止まってしまった七海の代わりに本を戻しながらプロポーズした僕。

その手を止めて、七海からの返事を待つ。


「あの日・・・・・」

「ん?」

「章ちゃんが本ばら撒いてしまった日。気付いてはいたかも知れへんけど、

あたしはもっと前から知ってて。

図書館に通う用なんて特になかったけど何か惹かれて。

いつも熱心に何か調べてて、色んな表情してて、何か見てて楽しい

なぁーって思ってて。

気付いたら毎回同じところに座ってるし、そんな章ちゃんを見るために

あたしも同じところに座って。

ばら撒いた時、不謹慎やけどラッキーやと思ったから声掛けて。

そのまま話すようになって、付き合うようになって、あたしは日に日に

自分の気持ちが膨らんでくのが嬉しくもあり怖くもあったんやけど。

初めて見た時から『この人とずっと一緒に居りたい』って考えてた。

だから、その、返事はっ・・・・・」


付き合ってまぁまぁ経つのにあの日のことについて聞くこととか今まで

したことなくて、そんな事思ってたんやなあーって思うのと、一生懸命

早口で言い訳じみたような返事をしてくる七海が可愛くて。

耐えきれんくなって力いっぱい抱き締めた。

(本間はチューしたいけどそれは絶対怒るから)


「返事は?」

「はい、って言うに、決まってるやん、か」

「ふふっ、決まってる、か」

「章ちゃんが思ってる以上に章ちゃんのこと好きやからな、これでも」

「はい」

「返事してんから離れてよ。恥ずかしい」

「まぁ、家帰っていっぱいくっつけばいっか」

「・・・っ、ほら帰ろ」


そう行って手を繋いで図書館を出て、家路に着く。


「帰りにゼクシィ買って帰ろか。ほんで来週は指輪でも見に行ってー」

「え、早くない?」

「善は急げ、って言うやんか」

「そういうなら親への挨拶とかが先やろー」

「絶対どっちの親も反対せぇへんって」

「分からんでー?」

「え?」

「父ちゃん、心の底では章ちゃんのこと歓迎してないかもよー?」

「そんな怖いこと言わんといてや」

「へっへーん」


こんな何気ない毎日がいつまでも続くように、

この笑顔をずっと守れるように、

繋いだ手を強く握り直して、


「まぁ、でもとりあえず・・・・・・」

「ん?」

「幸せになろな」

「うんっ!」


僕らの未来に幸あれ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ