街へおでかけ-上-
魔法はあっても科学技術が発展していないので江戸時代の農村地帯みたいになる
以前母が頭を抱えて悩んでいたが、何があるのかと思えば何も起こらなかった。
気のせいなのか。
今日は大きめの街へお出かけらしい。
最近、母は裁縫にも目覚めたらしく生地や糸を買いに行くようです。
他に日用雑貨なども買うとのこと。
……喜色満面でとてもいいご機嫌の様子。
今日の空は雲一つない空で、木の枝が揺れる風と仄かに肌に感じる熱と光。
それでも前世と比べると非常に差はあり、寒いくらいで長袖の服を着ないと体が冷える。
家を出て、母は兄と姉に挟まれて並び、兄のトルクの手と繋ぎながら歩いていく。
日は近くの森の影がら顔出す頃。他の村人たちは既に畑を耕すなどみんな作業に集中している。
こちらに気づいた人はあまり居らずみんな黙々とやっている様子。
そんな光景を横目に村の道を歩いていく。
林を抜け、気づけば森の中。
ただただひたすら森の中の馬車の轍を踏んで歩いていく。
一言に森と言ってもそんなに鬱蒼とした雰囲気はなく、「大きいの林」のほうが見た感じは近い。
特にこれといった出来事も無く森を抜け、街へたどり着く。
太陽は真っ直ぐ頭上にあった。そして四人のお腹もうるさいくらいに鳴っていた。
お目当ての町の名前を”ケルピット”というらしい。
黄色い外壁と頭上を流れる水道。そして異世界独特というか欧州的なレンガブロックが敷き詰められ舗装された道。
この町では生産物はなく市場を主軸とした集合住宅のようだ。
糸、布、鉱物、食料品などは全て周囲の大小さまざまな村から運び込まれているよう。
というのも、大体母の受け売りなんだが。
町へ入り4人とも、ふうと一息つく。
お腹すいたわねという母の声に連なるお腹と背中がくっつきそうだという姉の声。
ひとまず近くの飯店に入り、舌鼓。
味の面で母の手料理に劣るのは何故だろうと感じたのは内緒。
昼ごはんを食べた後、街の中央にある噴水へ。
噴水からは向かう時に頭上に見えていた水路が足元から各家へと伸びている。
まるで噴水が小さい山の頂上のよう。
家へ流れた後は何処へ流れていくのだろう。前世と同じように下水から上水へと流れるのかな。
母は僕たち三人を前にして、三人で行動することを前提に5枚の銀貨と自由行動を許された。
許されたといっていいのかはわからないけれど。
門限というか時間は”鐘が3つ鳴るまで”だった。
未だ時間の感覚が掴めていない。
母は街へ来た目的である買い物に人混みへと消えていった。
「さあて、どうする」
兄は頭に手を当てながら聞いてくる。
「リースは初めてだから、とりあえず図書館に行こうよ」
姉の提案は「ひとまず図書館」。
分からなければとりあえず図書館とは母の言葉。恐らくほぼ全てにおいて母の受け売りになってるに違いない。
図書館の場所は噴水の後ろのさらに後ろ。来た方向から逆の位置で街の高さから中腹辺りになる。
向かう途中にも露店が並ぶ。中には建物を借りてお店を開いている人もいる。
食料品は違う方向なのか見えなかったが、衣料品、服や生地、糸を売っている人が多い。
中には宝石、装飾品を売ってる人もいたがいつもの光景なのか二人とも素通り。
素通りしていく数々の店の前。その中で、一軒の衣料品店の前で僕は足を止めた。
そこは建物を借りてやっているようだった。店の外まで出ているたくさんの生地や糸。
他の店は屋根の影から出ない程度の品揃えだったがこの店は屋根の影からはみ
出るくらい、多い。
太陽の日差しで布が煌めいている。
何気なしに店へ入る。中もたくさんの生地。壁の棚にも机の上にも。店の上からもかけてある絨毯のような生地。それらも少し煌めいて見えた。
奥にはカウンター。カウンターの横には一人のおばあさん。
おばあさんは綿を糸にするため黙々と紡いでいた。後ろには山積みの綿。
手捌きはとても速かった、そして優しいといっていいのかそんな感じがした。
「あら、いらっしゃい。ようこそ可愛いお客さん」
声のする方へ向くと店員であろう女の人が立っていた。
「ずーっと見てるものだから声を掛けちゃった」
「おや、何処の坊やかい? まあ何処でもいいがね玩具は置いてないよ。玩具が欲しいのなら他をあたってくれ」
見ていたおばあさんまで気づかれた。
「い、いや。なんとなく入ってしまって」
「へぇ……『なんとなく』ねえ」
それで面白そうなものはあったかい、と作業の手を止めておばあさんは尋ねてくる。
「えっと、それです」
指さしたものはおばあさんが使っていた糸を紡ぐためのもの(紡車)。
これかい、と驚きつつ笑うおばあさん。
「ちょいとこいつは早いかもしれんね。リサ、古いやつがあったろう? あれで試しにやらしてみたらどうだ。古いがあれもれっきとした基礎中の基礎ともいえる一品さ」
「あれですか、店の奥のほうへ仕舞いこんで何処へあるか……。まあ探してみますけど」
リサと呼ばれた店員は渋々カウンターの奥へ入っていった。
「さて面白いこというもんだね、この坊や。この時世、糸作り布作りがめっきり流行らないのに」
此方を一度向き直し、カウンターの方へ向きつつ鼻でため息を付きながら話すおばあさん。
しばらくおばあさんと話していると
奥から「ありました」と声がした。