お供え物は「肉を焼くこと」
再び広場へ戻ってきた3人。
手にはフライパンと皿、肉、カトラリー3セットずつ。
中央に例の角柱。
周囲の木々から枝を集め、魔法で火を点ける。
調理担当はマスター。餅は餅屋ってね。
肉はフライパンの上で弱火でじっくり焼かれていく。
これらが何処から来ているのかは、内緒の話でしょう。
そして僕は何をしていたのかというと、結論から言うと「何もしていない」。
何もしていないというより「何もさせてもらえない」が正しいのかもしれない。
ただマスターの横で肉が焼けるのをひたすら見ていただけ。
マスターはしきりに裏返したりしていたので得意分野は焼き魚や肉を焼くなど直接熱を加える調理方法より、一般的に面倒と言われる湯煎や蒸したりと湯を使ったものが得意かもしれないと思った。
ので直接訊いてみた。
「マスター」
「ん?なにかな。今集中してるんだが……」
「肉を焼いたりするのは苦手?」
「あー……そうだな。苦手といえば苦手かもしれないな。だができないわけではない。むしろ焼くほうが集中する。
直ぐ火が通るからな。肉全般に言えることだが強く焼きすぎると固くなって美味しくない。それにこのあたりじゃ鳥ばかりが穫れるからか蒸し鶏が一番美味しい。次に香草焼きだな。」
曰く調理そのものに時間かかるものが得意らしい。
そう口にしつつも目はフライパンから離さないのでなんだかんだ料理人なマスター。
肉が焼き上がる。付け合せは何もない。焼けた肉が一人一枚あるだけの質素そのもの。いや、肉自体そこまで普及していないのかもしれない。
「それじゃ食べようか」
マスターは声をかける。
そして僕は手を合わせる。
「……リース君、それは一体……?」
マスターが尋ねてくる。
「えーっと……儀式……みたいなものかなあ。手を合わせて『全ての命にありがとう』みたいな……」
師の受け売りである。
なお肉の味付けは塩と胡椒だけなのだが、普通に柔らかく美味しかった。
マスターの腕がいい。
その後、小さな角柱は何かを放つようなことはなく、普通に手に取ることができた。
手に取った角柱は「小さな柱以外形容できない鉄の塊」といったところで
ただの小さな角柱でしかないのだが、何処となく懐かしみ覚える鉄の塊だ。
眺めているとマスターが一旦宿へ戻ることを催促する。
そのまま3人でくぐった入口から出ようとすると一瞬入口の前で鉄を持った方の手の甲が強烈な熱で焼かれる痛みで思わず角柱を落してしまい、もう片方の手で手を握る。
手には何もない。火傷や何かの跡すらないのだ。
落ちた筈の鉄の塊はそこには無く、落ちたであろう場所には跡は残っているものの痛みを感じたほうの手首に鉄の輪のようなものが填められていた。
輪には様々な意匠が施されていた。
形は何の変哲も無い輪だが、三編み状、彫刻、角の取られた端のない板状、鏡面仕上げされた部分、その全てが輪の内側まで施されていた。




