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幻想と幻糸  作者: 春風
荒野へ飛ばされましてね
20/26

砂漠街、宿の外

 部屋の中も外もは変わっていなかった。

変わったものは何もない。

これから変わらなければ忘れてしまうのだろう。

鏡の中の僕の首についていたシールのようなものはなくなっていたが首飾りは首にかかっている。

ベッドで寝ているリズさんは一向に起きる素振りもない。

そして体の何処かに縦に線を一本入れると起きたのを思い出し、リズさんの脚にスッとなぞる。

すると"何もなかったか"のように起き上がるリズさん。


 前世ではそういう系の能力持ちの人が居たけどこの世界では魔力を少しだけ込めてなぞるだけで成立するようだ。

内容は「止める、止まる」こと。

固形物、非生物になぞると、その場所から動かせなくなるが壊れたり老朽化したりしなくなる。

生物になぞると生命活動が一時停止する。簡単にいうと肉になる。生きているのにシンデルみたいな仮死状態みたいな感じになる。

1日以上止めてるとそのまま亡くなるらしいが実際は知らない。

前世での僕の能力は違うから。


 起きたリズさんはボーッとした表情でいわゆるハイライトがない。

たぶんしばらくこのままだろう。

糸を作って遊ぶことにする。


 そういえば、自分の中で何かが勝手に動いてるような感じがあるんだけど、何なんだろう?

とにかく今は、意識が戻ってくるのを待つ。


 待てど暮せど帰ってこないのでマスターの居るカウンターへ向かう。



「おや、あの人は起きたのかい?」

「起きたけど……なんかどっか行ってる」

「ふむ……見に行こう」


二人で部屋へ戻ることになるが結局のところリズさんは何も変化がなかった。

マスター曰く、

「お嬢さんは見ておくから何処か街を見てくるといい。最近は特に目立った話は聞かないから平和だろう」

とのことなので、宿の外へ出ることにした。


 こういう時こそなんかあるのが前世の記憶なのだが……ここではどうなのだろう。


ここは、砂漠だ。水、食料や服などだいたいのものは手に入りづらいはずなのだが、勝手が違うのか肉屋など各種お店が並んでいる。


鮮魚店は無いけどね。砂漠だもん、仕方ないさ。


だけどこれが名前が無い故のことなのか?


 手元には荷馬車から降りた時にくすねた価値がバラバラの貨幣が数枚。


まずは……何か食べよう……。







 ケルピットに比べて約10分の1くらいのこじんまりとした規模の露天が立ち並ぶ通り。

規模が小さいとはいえ、それなりに並んでいる。


 それは服飾のみならず、食べ物にも言えることだ。

 眼の前には鶏肉を扱う露天商。

現在、串を焼いているようだ。

前世風に言うと、5cm角のもも肉4つくらいを竹串に刺し、濃口醤油にみりん、酒とにんにくのすりおろしたもののタレに漬け込み、それを一度炭火で焼き、焼いた後もう一度タレに漬けて、お客さんが来たときに再度焼いて提供する時間差蒲焼きスタイル……。


とか言いそう。前世では養父とも言える人が二人いて、片方は医者で、片方はいつも誰かに追いかけられていた記憶がある。

共通することは飯の拘りが強いことと力の強さ。

飯の拘りはその人の力の強さに通ずるところがあるのかと思うほど。


それはさておき。

店の前でそんなことを思っていると串を焼いている人がこちらに気づいた。


「おう、なんだボウズ。串、買ってくか?今なら安くしとくぜ?」

「じゃあ2本頂戴、幾ら?」

「なんだ2本か、もっと食えよ?80セルだ」

「えーっと……お金、わかんないや」

「おいおい……そんなんでこの先、生きていけねーぞ」


お店の人曰く、青銅一枚が1セル、銅一枚が10セル、銀が100、金が1000だそうだ。


「ありがとう!」


店先で串に齧りつく。行儀悪いとか言ってる場合じゃない。


皮はこんがり焼けていてカリカリで、肉は醤油ベースの濃い味付けでところどころある焦げ目が美味しい。

肉をつつくとぷるぷるしている。

焼いているのにぷるぷるしているのは何故?

考えを置いてきぼりにして無心で齧り付く。

あっという間に2本とも無くなってしまった。


さて、何をするにしても刃物はいるので武器屋へ行ってみることに。


探すこと数分。鶏の露天商の真後ろだったのはびっくりだった。


看板は盾をバックに剣と杖が交差する形。

こういうのはギルドじゃないのかなと思いつつ店先を見る。


店そのものはケルピットの店と似たような感じだ。共通の作りがあるのか?


入口の奥に見えるいかつい男の人、店主だろう。

前世でもこういういかつい人居たなあと懐かしさを覚えつつ店に入る。

店に入ると店主らしき人の眉間は元々あった皺が更に深くなった。

それはまるで――


「ここはガキの遊び場じゃねえんだ、と言いそうな感じの顔」


それに店主らしき人はわかってるじゃねえかと半笑いで応える。


「それで、何の用だ」


元に戻ったがやっぱりいかついままだ。

持っていたナイフを差し出す。


「このナイフを研いでほしい。あと被せる袋みたいなものがあれば」

「わかったが、金はあるのか?金が無きゃこっちはタダ働きで損だからな」

「これでいいかな」


持っていた銀貨を手渡し、店主は手渡された銀貨をまじまじと見つめた。


「ほう……いいもん持ってんじゃねえか……いいぜ、やろう。袋のほうもつけといてやる。」


店主は指を差す。その方向には大小様々な剣や槍など種類別に分けられて入っている箱があった。


「もう一本その辺に差してある武器何か一つだけやろう。何、適当に作った武器じゃない、一本一本丹精込めて作ったからそこらの魔物には折れんさ。

……これなら明日には上がるから、また来るといい」


そう言うと店主は奥へと引っ込んでいった。

改めて武器の入っている箱を見る。

大きいもの、長いもの、細いもの、短いものと様々だ。

中には棒だけのものもあったりする。

物干し竿みたいな長い円柱の棒とか三節棍みたいなものまである。

槍も長いものから短いものまで色々。


その中から一本、ただの木の棒を手に取る。取った瞬間これだっていう感じがした。

長くもない、短いわけでもない、腕の長さくらいのただの木の棒。

をまた元の場所に戻し武器屋を出た。

外は既に太陽が傾いている。宿に戻ろう。




その日の夜、リズさんの意識が帰ってきた。

ただ時間が時間のため、また明日の朝、言えばいいかな。

とうとう前世を省みながら生きることになりました。

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