白と黒の安堵。
白と黒の安堵。
別れはふとした拍子にやってくる。
ぴぴぴ、と小さく携帯がメールが届いたことを知らせてくれた。
「…あ、美幸」
俺の兄貴は美幸と書く。
美幸と書いてヨシユキと読む。本人は面白いだろ、と気に入ってるみたいだった。
「…は?」
いつだって、別れはふとした拍子にやってくるんだ。
かつて母がそうだったように。
「…あ、トモ…?俺、さきだけど‥‥どうしよ、兄貴が事故ったって…俺…」
俺、最後に美幸に何ていっただろう?
『さき?さき落ち着いて、僕、今外だから少し時間かかるけど、すぐ行くから』
待ってて、いいね、と言って幼なじみは電話を切った。
えっと、俺、どうしたら…父さんに連絡するべき?
どうすればいいかわからなくて、外で立ち尽くしていると、後ろから声を掛けられた。
「はあ、はあ、はあ…さき、大丈夫?」
ゆっくり振り向くと、汗だくになってる幼なじみがそこにいた。
こいつは昔から変わらない。いつだって俺を心配して、駆け付けてくれる。
トモの後ろの時計を見ると、ゆうに一時間近く立ち尽くしていたらしい。
「トモ、俺、美幸に最後に何ていったか思い出せない‥‥」
「さき……とりあえず家に入ろう?飲み物入れてくるから」
「うん‥‥」
トモは俺の部屋まで手を引いてからそっと俺の頭を撫でて部屋から出ていった。
「…美幸」
携帯を開いても事故にあったとしかないメールにまた心が抉られた。
マグカップを2つもって戻ったトモからカップを受け取り、温かさに自分の手がひどく冷えていたのだと気付いた。
いつもトモの入れる紅茶にはイチゴジャムが入っている。いつだかロシアンティーっていうんだよ、と教えてもらったのを思い出す。
「ね、さきメールで連絡がきたんだよね、見せて?」
携帯を開いてトモに渡した。
眉を潜めて読んでいたトモは、ふと優しく笑った。
「なんだ…よかった、これ美幸さん自身からきたメールなんだね」
「ん…でも電話しても繋がらなくて」
トモは携帯をゆっくりとふりながら笑った。
「大丈夫だよ、だって美幸さんてさきに嘘ついたことないじゃない」
携帯を返されて、最後までよくみてごらん、と言われた。
メール文をもう一度よく読んでみる。すると、下の方に改行が続いていた。
『わるい事故った
すこし遅くなるけど大丈夫だから
すぐ帰る。愛してる』
「あ…?」
「ね?きっとすぐ帰ってくるよ」
そういってトモは得意げに笑った。
僕たちは帰りが待ちきれなくて2階へ続く階段のすみで待っていた。
温かかった2杯目の紅茶がすっかり冷えた頃、家の扉が開いた。
「ただいまー」
「…っ美幸!」
さきはすぐに美幸さんに飛び付いてゆく。
怪我もないみたいで安心した。
「おわっ?さき…ただいま、ごめんな?携帯の電池切れちゃってさぁ」
「…おかえり、おかえり美幸」
僕も静かに玄関先へ歩いていく。と美幸さんの後ろに人影があった。
…あれ、は
「先生…?」
「‥‥甲斐崎‥‥?どうして‥‥いや、とりあえずリビングに行こう。詳しく話すよ」
さきと美幸さんが入っていく。先生がお邪魔します、といいながら靴を揃えてあがってふと目があった。
苦笑気味に頭を撫でられる。
…やっぱり大好きですと心のなかで小さく思った。
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