彼らは死ぬ 1
「こちらケルヴォリオン。任務完了」
「了解、すみやかに通信機を遮断せよ」
本部に報告をすませて帰路につこうとしていると、背後から気配を感じる。
「まだいたか……」
「ガラあきだぜぇ!!」
魔物の下卑た笑い声とともに、穢れた力の余波を受ける。
昼間だというのに突然視界が真っ暗になり、背後からの敵を仕留める構えができずにいた。
「神よ!」
浄化の力を持つ清廉な女の声がすると、視界が明るくなってくる。
目の前には団員制服を着ているが見覚えのない少女がいた。
「お前は……」
彼女が何者かはすぐ理解できたので、魔物を始末してから向き合うことにする。
魔物を視界の端でとらえて足に1撃入れて行動を制限し、左右の眼球と頭蓋でとどめだ。
「横目で倒すなんてすごい……!」
「俺はケルヴォリオン」
「本日配属になりました。ミカンルーヴともうします!」
「おかげで倒せた。礼を言うよ」
「光栄です先輩」
◇
「おかえり」
「飯くうか?」
団員のシスルーとマイソが甲斐甲斐しく俺をきにかけてくれる。
「お二人はコンビですか?」
「特にそういうわけじゃないわ、彼に用があるから偶然」
基本はツーマンセルでないとだめなんだが、事情があり特例で単独行動だ。
俺と親しい人間はほぼ不幸になる不吉さから組みたがるやつはいないし、来られてもジンクスのせいで頭の中がもやもやと邪魔くさいので断る。
「えっとさ、一緒にいる子は?」
「新入りだ」
「もしかして二人で戦ったの?」
「ピンチに表れた」
「そうなんだ。あたしとも今度一緒に組んでよ」
「いや、上層部が指示しない限りは組まない」
「あたしは気にしないよ!」
「俺が気になる。お前の気持ちはありがたいが」
「呪いなんて強いあなたに嫉妬してるだけよ」
「もしも俺が呪われているなら責任はとりようがない」
「まあまあ……こんなに親しいのに俺ら生きてるんだし、新入りちゃんも平気そうだしよ」
「ご挨拶が遅れてもうしわけありません。ミカンルーヴです! よろしくお願いします!」
「シスルーよ。よろしくね」
「おう、俺はマイソだ」
◇
食事を済ませたところで、ちょうどよく携帯が鳴り、上から呼び出された。
「ケルヴォリオンよ、ミカンルーヴと組みなさい」
「え!?」
上層部がそんな指示を出すのは相当珍しい。
「新入りの強化には1人の君に適正だと思うのだよ」
「今は天仕長とエフェメルイアは不在だからな、しゃあねえさ」
「彼女がジンクス通りになろうとそれまでだが」
「わかりました」
長居したくないので退室する。
「近頃はなぜか団員が失踪している。くれぐれも目を離すなよ」
◇
「というわけだが、組みたい相手がいるなら言ってくれ」
「先輩にご指導いただけるなら本望です!」
「明日の朝9時に練習するから迎えにいくまでには部屋にいてくれ」
「はい!」
◇
「ちょっといいかなぁ?」
「あの、あなたたちは?」
「さっきケルヴォリオンくんが今すぐ森に来てほしいって探してたわよぅ」
「わかりました」
◇
「えっと……先輩?」
「団員のやつだな……本当に来たか」
「魔族! どういうこと?」
「俺はなんも知らねえな」
「先輩をどこへやった!」
「そんなやつしらねえが冥土の土産に教えてやる。団員のヤツが金ほしさ、あるいは嫉妬で仲間のお前を売ったのさ」
「そんな」
「へたりこんじまってカワイソウになあ」
「ミカンルーヴ!」
「シスルーさん!」
「あなたが外出するのが見えて、どうしてこんなところに?」
「よく知らない団員に騙されて……」
「仲間がきたか、飛んで火にいる夏の虫とはこのことだな」
「最近団員がいなくなってるのって、お前のせいね!?」
「そうだよお嬢ちゃん」
「きゃあああ!」
「シスルーさん! しっかりして!」
「無事か!?」
◇
俺がかけつけると二人が座り込んでいた。魔族の痕跡はあれど、逃走されてしまったらしい。
「おい! シスルー!」
「武器、持ってなくて……」
せき込みながら傷をおさえている。魔族に抵抗できず不意打ちだったそうだ。
「あたし……一度でいいから、二人で任務に行きたかったな」
まるで死ぬみたいなことを言わないでくれ。傷はそんなに深くないし、きっと助かる。
「わかった。今度組もう、だから今は医務室へ行くぞ」
「ありがと……嘘でも約束……し……」