偽りの妖魔 1 刻め、その名を
「彼のものにやどりし土陽の力よ彼のものを蝕みし水陰を祓え!」
少年が札を投げつけると怨霊に憑りつかれた男に貼りつく。肉体を乗っ取る怨霊がたちまち苦しみだした。
この器を手放すほかないと黒い魂が抜けだす。意識のない男はその場に倒れた。
「おつかれ」
少年は人間の生気を確認して今日は問題はないだろうと判断する。しかし根本の解決には至らなそうだった。
怨霊が男に憑いたのは、数百年前の出来事が関係している。ある女が男に手ひどく捨てられて末代まで恨みを持つ。
それが男の先祖だった。となれば、よほどの強力な祓い屋でなければどうしようもなさそうである。
せめてあの名門一族の後継が生きていれば楽になるのだが……。
◆
「というわけで、君がここに呼ばれた」
「いやいや、はえーよ!」
「ん? 早く対峙して退治してくれ」
「あのーラップやめてもらっていいですか?」
「おいしい食事、綺麗な寝床、都会、何が不満なんだ?」
「普通あの伝説の一族が生きてたら、ときたら主人公の俺がクシャミするんだよ」
「ちょっと何言ってるかわかんない」
「風邪か?そうかも、はセオリーだって」
「セロリはこの世界にない」
「普通はもうちょっと段階踏むでしょ! え? 俺が伝説の!? とかさ!」
「さあ、この書物に名を書くんだ」
「なんで?」
「君の一族は封印に本を使う」
「あー筆ある? それとも親指噛んで?」
「ほらガラスペン」
「なんで?」