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チャットルーム  作者: 橋之下野良
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ファーストコンタクト

 恵里子は、鮎川の自宅のリビングで恭子や弥生たち4人の女性と楽しく談笑をしていた。

恵里子にとって、夫の博之と交際し結婚をしてからというものは、休日の長時間のこうして女友達と楽しく過ごす事は、めっきりと減ってしまっていたのだった。

だからよけいに、恵里子は、今日のこのひと時が、久しぶりに楽しく感じたのだ。



 夫の博之は、仕事の付き合いと称しては、自分はゴルフに出かけたりしているのだが、妻の恵里子の外出は極端に嫌がる夫だった。


 それは、交際していた時から、その兆候はあったのかもしてない。

交際していた時ですら、毎回休日は、博之と一緒に居る事を求められ、平日でも夜は数度に渡って電話で話すことを求められていたのだから。


 当初の恵里子も、男性との交際経験は夫以外には一度も無かったこともあるのだが、それは愛情の現われだと考えてしまい、特に気にもしていなかったのかもしれない。


 しかし、結婚して数年経ってみると、その夫によるそうした束縛は、少し度を越しているようにも感じてきていたのだ。

夫の博之は、自分の好きな事を自由にしているのに、なぜ、自分だけは全ての事を夫に許可を得てでないとできないのだろうかと、恵里子自身も、疑問に感じてきていたのだ。


 

 恵里子が、楽しく話しているとスマートフォンのバイブレーターが振動し、確認してみると夫の博之からのメールが入っていた。

そのメールは、妻の恵里子の帰宅時間を確認するメールだった。

恵里子は、夫の博之へと返信をして、おおよその帰宅時間を伝えるのだった。


 しかし、それからは10分置き位の間隔で何度も、夫の博之からのメールが送られてきたのだった。

その都度、恵里子は夫からのメールを確認したのだが、メール内容が徐々に恵里子が帰宅しないことへの非難する様な内容へと変わって行ったのだった。

夫からのメールを読んでは、恵里子は楽しい気持ちにどこか水を差されているようで、沈んだ気分にもなって行ったのだった。


 最初に、夫からのメールを受けた時間は、夕方の6時前だった。まだ、外は明るい。

それなのに、夫の博之は帰宅しない恵里子を非難するメールを、何度も送ってきていたのだった。


 そして、とうとう7時前には、夫の博之は恵里子のスマートフォンへ電話をかけてきたのだ。

恵里子は、席を立つと急いで廊下のほうへ行き、夫からの電話に出た。


『はい、恵里子です...』


『恵里子、おまえ...何時だと思っているんだ!』


『...すみません、もう、帰るようにします。』


『今、恵里子を迎えに車で浅草方面に向かっているから、そこで待っていろ。あと15分くらいで着くから...今信号待ちで電話したから、後で掛け直す...』


 夫の博之は、恵里子にそう話すと一方的に電話を切ってしまった。

恵里子は、電話が切られると青ざめた顔で、鮎川たちの居るリビングへと戻ると、山崎弥生と井上恭子に耳打ちをして何やら話していた。

その後で、恵理子は鮎川の元にも来て、先程までの笑顔の無い沈んだ表情で、鮎川にも話してきたのだった。


「本部長、申し訳ありませんが、もうすぐ夫が車で迎えに来るようですので、お先に失礼させていただきます...」


 恵里子は、鮎川にそう話すと弥生とともに浴衣から私服に着替えるために、鮎川の寝室へと消えて行った。

 鮎川と他の女性たち三人は、恵里子の状況をそれぞれ察したのか、あえて恵里子の事には触れず、別の話題で話していった。


 しかし、鮎川だけは、少しばかり違ってもいたようだった。


(一応、高橋さんの旦那さんが来たら、挨拶だけはしておかねばなるまい...)


上司でもる鮎川は、当然のようにそう考えていたのだ。


 高橋恵里子は、着替えが終わると、持って来た荷物を抱え、リビングに居た鮎川たちへと話したのだった。


「鮎川本部長、恭子さんに美雪ちゃん、それから秀美ちゃん、申し訳ないのですけど、私はこれで失礼しますね...今日は、本当に楽しかったです。後片付けができなくてごめんなさい...」


恵里子は、そう話すと泣きそうなくらいに沈んでしまっていた。

そんな恵里子を見て、恭子は明るく話した。


「恵里子さん、気にしないでね...後片付けは、4人居ればすぐに片付いちゃうから...」


「じゃ、私は恵里子さんの旦那さんが来るまで、下で恵里子さんと一緒に待っていますね。」


弥生も、恵里子を気遣ってそう話した。

女性たちがそう話すと、鮎川も、恵里子へ話しかけていった。


「じゃ、わたしも、高橋さんの旦那さんに挨拶もしておきたいから、一緒に下まで行きますね。」


鮎川がそう話すと、恭子も田中美雪も斉藤秀美までもが恵里子を見送ると言い、結局、全員で下まで降りて行く事にしたのだった。

恵里子は、下まで降りて行く途中で、鮎川から詳しい住所を聞くと、夫の博之へとメールで住所を送るのだった。


マンションエントランスの近くで、鮎川たちが6人が待っていると、50m程先に紺色の小型車がハザードランプを点灯させてゆっくりと道路の左脇へと止まった。

すると、運転席のドアが開いて、男性が一人、鮎川たちのほうへと歩いてきた。


「私の夫です。じゃ、すみませんが私はこれで失礼します...」


恵里子は、そう言って頭を下げると、近付いてくる夫のほうへと歩いて行った。

鮎川も、恵里子の後を追うように、夫のほうへと向かった。

鮎川は、鮎川と恵里子が夫のところまで行くと、恵里子の夫に話しかけた。


「こんばんは、高橋さんの旦那さんですよね。高橋さんの会社で上役を務めさせていただいております、鮎川祥吾です。今日は、お休みなのに高橋さんを、お借りしてしまって申し訳ありませんでした。」


「...」


「あなた、私の新しい上司の鮎川取締役営業本部長です...」


夫の博之は、妻の恵里子にそう言われると、そこで話し始めた。


「恵里子の夫の高橋博之です。今日は、妻の恵里子まで、お世話になりました。でも、本部長ともあろうお方でしたら、他の4人の女性は知りませんけど、既婚者の恵里子にはもう少し配慮していただいても良いのではないですか?暗くなるまで、自宅マンションに居させるのは、やや非常識ではないでしょうか?」


恵里子の夫の博之は、鮎川にそのように話すと、笑ってはいるが鮎川に対しての怒りが伝わってくるものでもあったのだ。


(えっ?...まあ、確かに、おれも確かに高橋さんへの配慮が欠けていたのは事実でも在るからな...怒られてもしかたがあるまい...)


「私の配慮が足りませんで、大変申し訳ありませんでした。」


鮎川は、そう話すと、恵里子の夫の博之へ深々と頭を下げたのだった。


「じゃ、恵里子...帰るぞ!」


「ちょっと、あなた待ってください...本部長、すみません...」


 高橋恵里子は、鮎川に対する夫の無礼な物言いにすまない気持ちで、一礼すると夫の博之を追って、車へと追いかけて行った。

鮎川は、恵里子たちの乗った車をしばし呆然と見届けていた。

車が走り去って行き、部屋に戻ろうと、後ろを振り返ると直ぐ後ろで恭子たち4人の女性達も呆然と見ていたのだ。


 鮎川が、女性たちに歩み寄って行くと、女性達も鮎川と恵里子の夫のやり取りを聞いてしまったためなのか、誰一人として言葉を発っしようとはしなかった。

しかし、ただ一人だけ、無言でいながらも気になる者がいたのだ。

そう、黙ってはいたが斉藤秀美だけは他の女性たちとは違って、薄っすらと悪そうな顔の笑みを見せていたのだ。


(やはり、こいつだけは、場の空気は読んでいないのだろうな...おまえだ、斉藤秀美!)


「斉藤さん?、この事は会社では決して話しては駄目だからね!...解るよね?」


鮎川が、斉藤秀美にそう話すと、田中美雪のほうがそれに対して答えてきた。


「本部長、私が秀美にはそんなことはさせませんから安心してください...そんな事ができないように、もし私の言う事を聞けないようなら、帰りに隅田川の橋の上からロープで縛って秀美を吊るしますから...それでも無理なら、いっそのこと秀美の口を針で縫いつけますよ!」


田中美雪がそう話すと、鮎川たちは、苦笑しながら斉藤秀美を見たのだった。

鮎川たち全員から冷ややかに苦笑されたことが効いたのか、斉藤秀美は一転して半分べそをかくように話してきたのだった。


「美雪に、そういわれて信用されないのは悲しいですけど、この事は、わたしも言いません...」


鮎川と女性たちは、気を取り直すようにして、鮎川の部屋へと戻っていったのだった。


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