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チャットルーム  作者: 橋之下野良
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困惑の三社祭(2)

 鮎川の浴衣の着付けが終わり、鮎川は弥生と供に寝室を出てきた。

鮎川には理由は解っているのだが、弥生は、終始、微笑を見せながら鮎川の後について出てきた。


寝室のベッドの上に置かれているブラは、そのままでなのである。


 寝室から出てくると、これまた、リビングで待っていた恭子たち女性4人は、鮎川の浴衣姿を見てなのか、心の内を見透かしているのか、どちらとも取れるような笑みで、寝室から出てきた鮎川を見ていた。


 弥生は、そんな鮎川の手を取って、女性たちの前に連れて行くようにして話しいった。


「どうですか?、本部長の浴衣姿も素敵でしょう?...背は高くて、肩幅もあるから、浴衣姿も凄くさまになるわよね。」


弥生がそう言うと、女性たちはうなずいて微笑んでいた。

その時、田中美雪がその言葉に続いて話してきた。


「昔で云ったら、大店の若旦那が若い女性を引き連れて祭り見物みたいな感じですかね?...でも、ある意味、うちの会社も古い商社ですから、昔は大店でもあるのですよね?本部長は、最年少で役員にまでなったのですから、将来的には社長にもなるかもしれませんし、そう考えたら、若旦那みたいなものですか。」


そう話すと、美雪はけらけらと笑っていた。

さらに、今度は斉藤秀美が、また悪そうな笑みを見せて鮎川の顔を覗き込んで話してきた。


「じゃ、私たちは、深川芸子か向島の芸者って感じですかね。今日は、一日、本部長は私達の魅力に、いろいろな意味でドキドキですよね!...本部長?、お祭りだからといって羽目を外さないでくださいね...」


(お前の事だろう!...斉藤秀美...お前が一番は羽目を外しそうで、おれは怖いぞ!...)


そう思いつつも、鮎川は、女性たちに苦笑いを見せながら、うなずいた。

時計を見ると時間は、もう午後の一時を過ぎようとしていた。

ここでもやはり井上恭子が、場を仕切るように話してきた。


「じゃ、そろそろ、お祭りに出かけましょうか。一通り見て楽しんできたら、持ち寄ったお料理で、宴会みたいに会食しましょうね...」


「せっかくですから、今日は天気も良い事ですし、お外に出たら皆で写真を取りましょうよ!」


そう言ったのは、山崎弥生だった。

それには、女性たちは、皆が同意見のようで、山崎弥生の言葉と供に、祭り見物へ出掛けて行くことにした。


 自宅マンションのエントランス前まで行くと、まず、鮎川が弥生の持って来たデジタルカメラで、5人の女性の写真を撮ってやった。

それに続いて、鮎川とそれぞれの女性一人ずつとの2ショット写真をそれぞれ撮って、あとは、現地に行ってから写真を撮ることとした。


 斉藤秀美と田中美雪が先頭に立ち、なにやら楽しそうにはしゃぎなら、笑い合って歩いて行く。

その姿を見て、控えめに微笑みながら高橋恵里子が歩き、鮎川は、その後ろで、恭子と弥生に腕を取られ引きずられるかのようにして歩いて行く。


 女性たちの下駄の音が、普段は静かな街のアスファルトと町並みにこだまして、まるで何かの音楽を奏でるようでもあった。

5人の女性たちの楽しい気持ちが、下駄の音で表現されるかのように、カランコロンと響き渡っているのだ。

普段の日常の生活では、もう、殆んど聞くことのできない、どこか懐かしい音色なのだろう。

鮎川は、そんな女性たちの奏でる下駄の音色に、心地よさを感じていた。


 墨田川に架かる駒形橋まで来ると、吹きさらされているためなのか、普段の洋装とは違う浴衣を通して肌に風が感じられたのだった。

鮎川は、五月の晴天の中を歩いたせいなのか、女性に囲まれる鮎川の気持ちの昂ぶりのせいなのか、汗ばむ鮎川にとっては心地よい風に感じたのだった。

ただ、その風に乗って、それぞれの女性たちの甘い香りも感じられ、鮎川は何とも言いがたい気持ちにもなるのだったのだが...


 雷門に近付くにつれて、人が徐々に増えてきた。

雷門から仲見世の辺りは、ほとんどごったがえすように人が居て、この辺りは普段でも込み合う観光地でもあるのだが、その数は普段の数倍の人で溢れていた。


皆ではないが、鮎川たちのように浴衣を着て祭り見物に着ているグループも見受けられた。


 しかし、鮎川たちが通ると、殆んどのひと達は、振り返って目が釘付けのようでもあった。

特に、男性が目を丸くして5人の女性たちを目で追っている事は、鮎川自身も感じていた。

女性たちは、はしゃいでそんなことは気にも留めていないようではあったのだが、鮎川には、男達の視線を敏感に感じていたのだ。


(見られているのは、当たり前のことでおれではないのだが、こう、次から次へと男達の視線を感じるのは、正直、心地よいものではないな...これが、ずっと続くのは、正直、しんどいぞ...)


 この日の三社祭は、祭り二日目で浅草神社氏子の町内100基余りの神輿が一堂に集結し、順に浅草神社から各町内へと戻って行くのである。


 鮎川たちは、余りの人の多さで、浅草神社には行かずに出てきたみこしを見物しつつ、通りに出ている出店で、思い思いのものを買ったりして、祭りの雰囲気を楽しんでいた。

恭子と弥生、それに美雪と斉藤秀美は、はしゃぐように出店を廻っていた。


鮎川とおとなしい高橋恵里子は、そんな4人を見守るかのように、二人して眺めていた。


「高橋さんは、皆と一緒に見て廻らなくても良いのかな?」


鮎川が、そう話すと恵里子は微笑を浮かべて、鮎川の顔を見て答えた。


「はい、私は見ているだけでも楽しいです。こんなふうに、皆でお祭りなんて来たことはありませんし、雰囲気だけでも凄く楽しいですから...」


 やはり、既婚者のせいだろうか。鮎川には、恵里子が他の三人よりも違った大人の女性のように感じられた。

元々、恵里子は物静かな女性でもあるのだろうが、それでも、恵里子のそんな物腰の柔らかい大人びた姿の笑顔には、他の4人とは全く違った女性の魅力を、鮎川は感じずには居られなかった。


 そんなことを、考えながら、ぼーっとしていると、出店を廻っていた他の4人が鮎川と恵里子の元に帰ってきた。

田中美雪と斉藤秀美は、何かのキャラクターの面を買って頭に着けており、恭子と弥生はリンゴ飴をそれぞれ2本ずつ持って近付いてきたのだった。

そのリンゴ飴を持った恭子が、最初に二人へと話しかけてきた。


「はい、これ...本部長と恵里子さんの分も買ってきましたよ。」


恭子がそう言うと、弥生の持っているリンゴ飴は恵里子に手渡され、鮎川は恭子から受け取った。


「ありがとうね、井上さんに山崎さん。」


「ありがとうね...弥生ちゃん...恭子さん…」


そこに斉藤秀美が割って入るように、鮎川の顔を覗き込みながら、また、悪だくみをするかのような顔をして話しかけてきた。


「本部長?、何を、恵里子さんと二人きりで良い感じになって話していたんですか?...駄目ですよ、本部長は良くても、道行かぬ恋になりますからね...」


(おまえは、ただ、ゴシップネタが欲しいだけだろう!...斉藤秀美!...俺がそんな事をする訳がないだろうが!)


「斉藤さんたちが余りにも楽しそうだから、それを高橋さんと話していたんだよ。どう?、だいぶ楽しむことはできたかい?...斉藤さん?」


(どうだ、これが、大人の男の対応だ!...思い知ったか、斉藤秀美!)


「そうですね...私と美雪は2回男の人に声を掛けられましたよ、もちろん断りましたけど...恭子さんと弥生さんは3・4回声を掛けられていましたよね?...本部長、少し焼餅を焼いたりしますか?...」


斉藤秀美は、そう言うと、また悪そうな顔でけらけらを笑い転げていた。


(こいつ、絶対におれの反応を見て楽しんでいるよな?...斉藤秀美!)


「そうだね、皆、若くてきれいだから、男も声を掛けたくなるんだろうね...だからといって、やすやすと付いて行ったら駄目だよ。誰かもわからない男なんかに付いて行ったら危ないからね...」


「そんの事は、解っていますよ!...私だってそんな安い女では有りませんからね。」


斉藤秀美は、そう話すと一転して口を尖らせていた。

そんな斉藤秀美を見て、他の女性たちも鮎川も笑ってしまうのだった。


 そんな話をしていると、また、恭子がここでも場を仕切るように話してきた。


「もう少し、お祭りを観たら、4時過ぎには、本部長の部屋へ戻りましょうか?」


「そうですね、お祭りの雰囲気もだいぶ堪能できましたし、帰って皆で持ち寄った料理でお食事をしましょう。」


恭子に続いて、弥生もそう話してきた。

しかし、斉藤秀美だけは違ったようだ。


「えっ、私は、もっと観て廻りたいな...もう少しお祭りを観て廻りましょうよ...恭子さん、弥生さん...」


これには、田中美雪がすかさず、斉藤秀美をたしなめていた。


「じゃ、あんただけ、置いていくから、一人で好きに廻りなさい...秀美...」


「美雪、置いていかないでよ...わかりましたよ...皆と一緒に帰りますよ...美雪の意地悪...」


田中美雪の言葉で、斉藤秀美の要望はあっさりと却下された。


 その後は、しばらくの間、祭り見物をしながら、写真を撮り合ったりと、楽しいひと時を、思い思いに過ごしていった。


 恭子と弥生それに恵里子の三人は、道行く外国人観光客などにも、何度も呼び止められ、浴衣姿を写真に撮られたりもしていた。

まあ、この三人が浴衣姿で揃って歩いていたら、外国人観光客でなくとも写真に収めたくもなるだろう。


そのくらいに、三人の浴衣姿は、鮎川から見ても魅力的に感じられたのだから。


 そうこうしていると、時間も4時を廻っていたので、恭子の指示通りに鮎川の部屋へと帰ることにした。

そこにまた、斉藤秀美が鮎川に言ってきたのだ。


「本部長、少しゆっくり、歩いてくれませんか?...私、足が痛いので...」


よく見ると、斉藤秀美は、右足を少し引きずるようにして歩いていた。どうやら、肉刺ができているらしかった。


「あんたは、本当に面倒くさい女だわね...履物を脱いで、さっさと歩きなさい...秀美!」


「そんなのなの恥ずかしいじゃない...美雪、待ってよ...」


(おまえは、面倒くさいし世話の焼ける女だな?...斉藤秀美...)


「じゃ、おれが背負ってやるから...ほら、」


鮎川は、心で思うこととは裏腹に、そう話すと、道に屈んで斉藤秀美を背負ってやろうとしていた。


「本部長、秀美がなれない履物の事も考えずに、はしゃぎすぎたのがいけないので、自業自得なんですから、ほっておいてよいのですよ!」


田中美雪は、そう言ったが鮎川は、歩けないのではしかたがないと思い、斉藤秀美を強引に背中に背負ってやった。


「本部長、ご迷惑をおかけしてすみません...」


「まあ、いいから気にするな。」


鮎川は、これで斉藤秀美も少しは、しおらしくなるだろうと考えたのだが、当の斉藤秀美本人はそうではなかったようだった。

鮎川の耳元でささやくように、斉藤秀美は話し掛けてきたのだ。


「でも、本部長?...私を背負ってどうですか?私の胸の感触は、背中からでも感じられますか?...ある意味では、ラッキーですよね?...でも、惚れるのでしたら、私と美雪以外の三人の中からが良いですよ...三人は本部長に気が有るみたいですからね...」


そう、斉藤秀美は、反省などしてはいないのだ。それがこの斉藤秀美という女だったのだ。

しかも、先日の田中美雪との約束などすっかり忘れてもいるようなのだ。


(おまえは、とことん、おれをからかいたいらしいな...なんなんだ?、斉藤秀美!)


斎藤秀美の言葉には何も答えず、鮎川は、他の女性たちと供に淡々と自宅への道のりを歩いて行った。


 田中美雪が、鮎川に背負われている斉藤秀美のお尻を支えて押して行くようにして歩き、恭子と弥生それに恵里子は三人並んで笑い合って話しながら、鮎川の部屋へと歩を進めと行くのだった。


 若干、無事ではなかったものの、鮎川と女性たち5人の三社祭見物は、こうして終えたのだった。


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