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チャットルーム  作者: 橋之下野良
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矛盾

 鮎川は、仕事を終えると地下鉄で自宅へと帰宅していた。

 地下鉄を降りて、地上に出た時にスマートフォンを確認した鮎川は、一件のメールが入っていることに気づいた。


[こんにちは、ヒロです。少し、動きがあったので、夜にでもお話できませんか?]


そのメールは、チャットのあの男からのものだった。


(なんだろう?、あの男は、もう奥さんに何かを仕掛けているのだろうか?)

 

そんな事を考えながら、鮎川は、すぐに返信を送った。


[どうも、こんにちは...解りました、話せそうな時間にまた連絡してください。]


 鮎川は、帰宅途中に食事を済ませ、自宅に戻り入浴などの一通りの事を済ませると、ネット検索しながら、男からの連絡を待った。

なかなか、連絡は無く、その日はもう連絡はないかと思っていた午後の11時過ぎに、突然、男からのメールはやって来た。


[こんばんは、ヒロです。今から話せませんか?]


鮎川は、そのメールを確認すると、急いで返信した。


[解りました、いま、ルームを用意します。]


 鮎川は、チャットルームサイトを開き、ルームを作って、男が入って来るのを待った。

男は、殆んど待たずに、入室してきた。


『こんばんは、』


『こんばんは、遅くなって済みませんでした。なかなか、妻が寝なかったもので来れませんでした。』


『そうですか、それで、何かあったみたいですけど、何があったのですか?』


『まだ、はっきりとした画像を観た訳ではないので確証ではないのですが、どうも、妻はチャットで誰かと話しているようなんです。』


(画像?...この男は、何のことを言っているのだろう?)


『何かの画像でチャットをしている様子が観れてのですか?...画像とは何ですか?』


『あっ、それは忘れてください。とにかく、妻はチャットをしているようなんです。』


(なんだ?、この男は何かを隠そうとしているのか?...)


 鮎川は、男の話に幾ばくかの違和感を覚えていた。なにかを、隠して話しているように感じたのだ。


『でも、男性か女性かもわかりませんが、もし、男性と会話しているのであれば、それはヒロさんの願っていた事でもあるのではないですかね?』


『そうなんですが、それでは困るんです。』


『困るとは、何がですか?...』


『それは、以前から、話しているように、私のコントロール下で、妻と相手の男性の事が把握できない状態では困るのです。』


鮎川には、違和感を感じたが、続けて話してみることにした。


『要するに、奥さんも相手の男性に対しても、あなたの支配下で状況がわからないと困るという事ですか?』


『そうです、そうなります。』


『ということは、勝手に奥さんに動かれては困ると?』


『そういうことです。』


何とも、身勝手な男だと鮎川は改めて感じた。そんな男だからこそ、突拍子も無い事を考えて、自分の妻に実行しようともしているのだが...


『でも、それには無理が在るのではないですかね?』


『なぜですか?、夫が自分の妻が、誰とどこで何をしているのかを把握する事は当然のことではないですか?』


 鮎川の違和感は更に大きくなっていった。

この男が以前から話すように、本当に、自分の妻を他の男性と交際させるつもりが有るのだろうかと疑問に感じたからだ。

鮎川には、男の言うような事を本当に男が考えているとはだんだん思えなくなってきたのだ。

この男は、何か重要な事を、鮎川には話していない、もしくは、本当のことを隠して、鮎川と話しているのではないかと、漠然と感じてきたのだ。


『どうもあなたの話には、違和感が感じられます。奥さんに他の男性と交際させたいと言いながら、奥さんの行動には、物凄く拘束したいし干渉もしたいのですよね?...』


『そうでしょうか?私には、普通の事と思いますけど...』


『拘束したく干渉もしたいと思うような旦那さんなら、他の男性と交際させようとは思わないのではないですか?』


『そうでしょうか?』


『それと、普通は、夫婦に限らず、誰でも、言えない秘密は有ると思いますよ。全てを把握するなど不可能だと思いますよ。』


『夫が自分の妻の行動を、全て把握しようということがいけない事なんですか?...私は妻を愛していますから、全てを把握したいのですし、知ろうと思います。』


『それがだめな事とは言い切れません。ですけど、あなた自身も奥さんに対して、秘密を持っているでしょう?...奥さんに対して、あなたがしようとしていることだって、奥さんには話すことはできませんよね?』


『確かにその通りですけど、私は、夫ですから私の妻の行動は全て把握したいのです。』


 男の話を聞いて、鮎川の違和感は、それがなんなのか、確信へと近付いて行った。

この男は、異常なまでに妻に執着している。そんな男が、当初言っていたような自分の妻を他の男性と交際させようなどとは考えるはずはない。

この男は、最初の話から鮎川に本当のことは隠し、嘘をついていると、鮎川はそう思ったのだ。

男が言うように、単に性的な欲求で、自分の妻と他の男性とを交際させたいのではなく何か他の目的が有ることを隠していると感じてきたのだ。


『あなた自身には秘密が有ってもよくて、奥さんは何でもあなたに話して、その全ての行動を把握されなくてはいけないなんて、おかしくはないですか?』


『そう言われてしまえば、その通りですが...』


『それだと、今、あなたが考えて仕組んで、奥さんと他の男性とを交際させるという話にも疑問を感じますよ。あなたは、私に何か重要な事を隠して話をしていますよね?それが何なのかまでは、私にも解りませんけど...』


相手の男のヒロからの会話はしばらくの時間途切れた。

しかし、少し間をおいてその男からの会話が打ち込まれてきた。


『確かに、ショウさんには、話していないことはあります。隠している訳ではないですけど、今は話すことはできません。』


鮎川の思った通り、この男は重要な事を隠しつつ、話していたのだ。


『そうですよね、今日のお話を聞いた限りでは、あなたは奥さんに対して嫉妬深い夫であると感じますし、異常に執着もしているように感じますから...』


やはり、この男には、何かが有ると、鮎川は確信した。

しかし、それが何であれ、男の妻には気の毒だが、所詮、鮎川は他人でも有るので、男の話には深入りはしないほうが懸命だとも感じたのだ。

何か、この男には得体の知れない危険なものを、鮎川には感じてきたのだ。


『ヒロさん、もう遅いので、そろそろ、やすませてください。』


『判りました、こんな夜中に話していただいてありがとうございます。また、メールします。』


『では、おやすみなさい。』


『おやすみなさい。』


 一時間ほどのチャットでの会話だったが、鮎川には、以前から男が言うように自分の妻と他の男性を交際させようなどと言う事ではなく、男には別の目的が何か在るように感じた。

それが何なのかは、当たり前だが、鮎川にも判らない。

この男の話には、鮎川自身も納得の行かないものを感じてきたので、これ以上関わらないほうが懸命だとも感じて行った。

鮎川は、チャットでのこの男との会話もこれ以上は控えようと、そう感じてきていたのだ。


そう考えた鮎川だったが、もう既に深く入り込んでいることには、当然気付くはずもなかったのだ。



そして、もうひとりこの会話を覗き観ていたある女が居たのだった。


(たぶんこの人が、鮎川本部長かもしれないわね...このショウという男性の会話を覗いて観て行けば、何か解るかもしれないわ...)


それは、田中美雪だった...


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