とてもじゃないが身代われない。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
突然ですが、一平社員の私が異世界召喚されました。ポカンとしている私に丁寧にお辞儀をしたプラチナブロンドロングヘアな顔面偏差値の超絶高い神官様はこうおっしゃった。
「異世界より乙女が舞い降り、この国の将来を担う重要人物を虜にし、乙女の奪い合いから戦となり、国が亡ぶであろうという神託が降りました。ああ、もちろん、その乙女は貴方ではありません。」
『もちろん』というところを強調しつつ神官様は、その乙女がこちらの世界に来てしまう前に代替品を用意して、その乙女が辿るであろう運命を別の人間にすり替えることによって、戦を防ごうとした、と。その身代りに召喚されたのが、私。
勝手に呼び出しといて身代わりをさせるとかふざけてんのか!と、小心者の私が言えるわけもなく。よくよく聞けば身代わりと言っても『将来を担う重要人物』の少年たちと同じ学園に通うことだけであり、期間も一年のみ。元の世界の時間は進まないので、一年後に帰っても召喚された日に戻るだけ。
自他ともに認める『ことなかれ主義』な私は、流されるまま学園に入学することになった。
童顔で背も低く、年下に見られることが日常茶飯事な私でもさすがに10代を名乗るのには抵抗があった。神官様は深く頷くと(肯定されても傷つく乙女心)、何か特別な力で私を10代っぽくしてくれたらしい。顔のつくりは中の中のまま変わっていないが、若干肌に張りが出て、心なしか、体が軽い気がする。(後に筋肉痛が翌日や翌々日に来ないことを喜ぶ私がいる)
私の異世界生活は特段変わったことはなかった。しいて言えば定期的に神官様に生活を報告することくらい、あとは第四王子と一緒に過ごすことくらいだろうか。今は1学期の終わりを迎え、通知表という二度とお目にかかりたくなかったブツを一応のところの保護者である目の前の神官様にお渡ししたところだ。
「成績はよくないですね。」
「神官様は頭の方までは若くしてくださらなかったようで、全然授業内容が覚えられないんですよねえ。」
「おや、人生は何歳になっても勉学と共にあるのですよ?学ぶということに年齢は関係ありません。」
「すみません。私は若い時から成績は良くなかったです。」
「まあ、結果としてはよいでしょう。ヒューイ様は頭の良い方でないと視界に入れませんからね。ヒューイ様が貴女に心を惑わすことはないでしょう、『アマネ』」
「はあ。」
『アマネ』というのは異世界の乙女の名前だ。身代わりをしているので私は『アマネ』と呼ばれている。ヒューイ様って言うのはこの国の第三王子。クラスメイトだが、神官様の言う通り、一度も目が合ったことがない。視界に入っていないのだろう、馬鹿でよかった(ヤケ)。
そもそも、この国の歴史なんて知らないし、この国の文字は読める(頭の中で勝手に日本語に変換されてる)が字は書けないとか、なんて中途半端!この辺、召喚するにあたって何とかできなかったものかと文句を言いたいのだが、小心者のため神官様に面と向かって言えず、今もまだ文字を書く勉強中。
この年で書き取りのお勉強とか悲しくなってきたが、第四王子(10歳前後)に教えてもらいながら頑張っている。第四王子はほめて伸ばすタイプらしく、私にとってはとても良い先生だ。とりあえず、小学生に文字を教わる三十路の情けなさはおいておくことにする。そもそも、召喚した責任上、神官様がこういうことを私にしなきゃいけないんじゃないかと思ったが、小心者のため、以下略。自分では大分上達したと思うのだけれど、返ってきた提出物などに未だに先生に字の練習をしましょうとか書かれる。毎日してますが、ナニカ?
「貴女は運動神経もないようですね。」
「ええ、まあ、インドア派なので。」
「良いことです。これでリオール様は貴女をちらりとも認識しませんね。」
リオール様というのはこのままいけばこの国の騎士団長になる人だそうだ。彼は一緒に馬で遠出したり、一緒に剣の鍛錬に付き合ってくれるような女性がタイプだそうだ。アマゾネスでも呼んできてやれ。
この国にも体育の授業っぽいのがあって走らされたり、腕立て、腹筋、背筋というトレーニングだよね?というような項目もある。たしか、この学校って良家のお子様が通ってるんだよね、授業内容おかしくないか?と思ってた。こりゃトレーニング必要だよ、と気づいたのは体育の授業に含まれていた社交ダンスだった。体操着でこの疲労感。重量のあるドレスを着た本番ってどれだけ体力が必要なんだろうか。
「宰相殿のご子息、ミシェル様は家庭的な女性がお好きなようですが・・・。」
「何です?」
「問題ないようですね。」
どういう意味だ、コンチクショー。神官様は毎度毎度致命傷レベルの矢を私に突き刺してくださる。私の癒しは第四王子だけだよ。学園の子たちは目が血走ってて怖いし。友達なんか作ってる暇もないし。
「ヒューイ様、リオール様、ミシェル様、その他に乙女に虜にされる予定だった方はいらっしゃるんですか?」
「あとはウォルター様とわたくしですね。」
「は?」
「ウォルター様は芸術に優れた方でないとお目にかかれませんし、わたくしは清らかで思慮深く、慈愛に満ち溢れた、女神様のような方でないと女性だとは思いませんし。」
神官様も取り巻き予備軍だったのかよ。10代の女の子に女神のようなとか求める神官様が一番鬼畜だと思う。言わないけど、小心者だから。しっかしこうもすらすら暴言吐かれるといっそのことすがすがしいね。まあ、そういう人物を召還したんだもんね。異世界の乙女とは似ても似つかない人物を。まあ、私でなくたってそんな乙女のような人いないと思うけど!
そんな好みのうるさい奴ら全員を虜にするっていう、元々来る予定だった乙女ってどんだけ人外なんだ。一応、この世界でただ学園に通うだけで衣食住を面倒見てもらうのは気が引けたので、少しでも身代わりになるように、乙女の取る予定だった行動に沿ってみようと思ったのだけれど、行動範囲は広く、内容は細かく、毎日精力的に動きやがって休息ってもんがない。普通中の普通である私は、頑張ってやっと半分こなしてるかどうかな具合ですよ。自分で言いだした手前、もうやめたいとか言えないし。あと半年以上、この状態が続くとか、とてもじゃないが身代われない!本心は今からでもお断りしたい!!
「貴女はとても良い仕事をしてくださいます。貴女の成績の悪さや運動神経の無さ、諸々が悪目立ちすることで、それぞれの方の婚約者の価値を挙げてくださっているのもうれしい誤算ですね。」
神官様はきっと褒めてくださってるんだ、そう思おう。そう思わないとなんかこう、神官様の胸ぐらをつかんで振り回したいという欲求が抑えられないというかなんというか。でもさあ、あの少年たち婚約者がいるのに別の女に熱を挙げて戦争起こすってどんだけ残念な奴らなんだ。
そんな私たちのやり取りを私の隣でずっと黙って聞いていた第四王子、シオン様がそのお人形のような愛らしいほっぺを膨らませ、上目づかいで神官様を睨みながら抗議してくださいました。ちょ、その視線はご褒美として私に下さいよ。
「神官殿!先ほどからリオン殿への発言はひどいものがあります。」
「シオン様。」
「そうでしょうか?」
私はシオン様の言葉にうるっと来て、神官様はどのあたりが?という全く思い至らないという顔でシオン様を見る。
「リオン殿は学業とは違った頭脳をお持ちだし、運動は確かにあまり得意ではなさそうですが、物を投げる命中率は本当に高いのです。いつもごみをゴミ箱に確実に投げ入れるのですよ。それに、お料理もすごくお上手で少ない材料でパパッと短時間で美味しいお料理を作ってしまうのです。」
やめてください、シオン様。シオン様の純粋なフォローが逆に突き刺さる。学業とは違った頭脳ってだたの年の功だと思うし、ゴミ箱への命中率はそりゃあ高いけれど、要は動きたくないめんどくさがりな『ずぼら』だってことだし、料理もそのずぼら料理、酒を飲むためのさかなを用意する手抜きクッキング。
「シオン様、彼女のことは『アマネ』とお呼びください。彼女の名を呼ぶと身代わりとしての効力が薄れますので。」
ほぉ。そんな話は初めて聞いたわ。ま、『本日より貴女はアマネです。』って言われて、特に反論もせず受け入れたからか。
「わたくしの見ているアマネと、シオン様から見たアマネは違うのかもしれませんね。身代わりとして動いていただけるならどちらでもよいのです。アマネの能力を遺憾なく発揮していただければ彼らと婚約者の絆はさらに深まるでしょうし、戦などという愚かしい事態も起きないでしょう。」
遺憾なく発揮って、要するに今まで通りのダメな人間で構わない、むしろ改善なんてするはずがないだろってことですね。はいはい。
「そう言えば、少し神官様にご相談がありまして。夏休みのことなのですが。」
私は『異世界の乙女行動リスト』を広げ、夏休みのことについて相談する。なにせ、授業があるときでも精力的に活動なさる乙女なので、夏休みなんてそれこそ分刻みのスケジュールだ。もちろん私にできるわけがないので、どのあたりを省略していいかお伺いを立てる。
「え・・リオン殿は夏休みの間、僕と過ごしてくれるのではないのですか?」
ショボンという効果音が聞こえてきそうなくらいシオン様が落ち込んでしまっている。シオン様は第四王子という立場からだろうか、構われていないというか、全く他の人といるところを見たことがない。王子ってもっとちやほやされるもんなんじゃないの?あの第三王子みたいに。
シオン様がいつも寂しそうで、私といると喜んでくれてるのがよくわかる。本当は私もこの夏休みずっとシオン様といたいとは思うのだけれど、私は一応異世界の乙女の身代わり、それに沿った行動を起こさないといけないのだ。
「申し訳ありません、シオン様。」
「ああ、アマネはシオン様と一緒に過ごす方を優先してください。そうですね、この孤児院の慰問と王城での舞踏会。この二つに参加していただければあとは結構です。」
なんと!神官様から許可が出た!こんなにあるリストの中からたった二つだけすればいいなんてなんて太っ腹!とか思ってた私に神官様の容赦ないツッコミが突き刺さりました。
「1学期でこの成績ですからねえ。夏休み開けてから全く学園の授業についていけなくなる可能性が十分にあります。この夏休みの間、しっかりシオン様に勉強を教わってくださいね。最悪、最下位でも構いませんから、とにかく卒業していただかないと困るので。」
え、私、そんなにやばいの?っていうか、シオン様に予習を教わるの?勉強に付き合わせるなんて申し訳ないと思うのだが、シオン様はにっこりと天使のような笑顔で頷いてくれた。
「リオン殿と一緒にいられるのであれば、勉強でも遊びでも何でも良いのです。頑張りましょうね、リオン殿。」
先ほどよりもキラキラ度が上がった必殺スマイルに鼻を押さえた私は『乙女』の身代わりとしてふさわしいのか悩むところだ。おかしい、私に美少年好き属性はなかったはずなのに。
「シオン様、彼女のことはアマネと」
「嫌です。」
「はぁ。仕方ありませんね。」
キッパリニッコリお返事をするシオン様に神官様が折れたようだ。
「ところで、本来来るはずだったアマネさんってどうしたんでしょうね。私が来たことでこの世界には来なかったんでしょうか。」
「彼女なら予言の通りこちらの世界に来ていますよ。」
「はい?」
「今はわたくしの所有している家で暮らしています。」
「はあ!?」
「言いませんでしたか?神託でわたくしが虜になる乙女、他の方々と共有なんて死んでもごめんですからね。貴女という身代わりを用意して彼女はわたくしだけの乙女になるのです。」
「うっわー。」
「何か?」
「その、アマネさんは何て?」
「元々わたくしだけを選ぶつもりだったので問題ないと。」
言わせてるんじゃないの?と思ったけれど、そもそも『元々』ってどういうこと?
「元々って、そのアマネさんはこちらの世界に来ることを知っていたということですか?」
「それは彼女に聞かないとわかりませんね。」
「気にならないんですか?」
「彼女がわたくしの傍にいてくれる、それで十分なのですよ。」
「私からアマネさんに質問をしても?」
「会わせませんよ。」
神官様がとてつもなく黒い笑顔でそう言った。そして、もう一度念を押すように。
「誰にも、会わせませんよ?」
こっわー。神官様怖っ!アマネさんの身が心配です。
「神官殿ばかりずるいです。僕だって・・・」
シオン様もやぱり本物のアマネさんに会いたいのかなとチクリと心臓のあたりに痛みを覚える。しかし、そんなのは杞憂だったらしい。
「僕だって神官殿のようにリオン殿を独り占めしたいです!!」
か、可愛い。顔を赤くして神官様に抗議するシオン様。可愛すぎる!!しかも私を独り占めしたいとか。胸がキュンキュンしますよ。やばい、私このままじゃシオン様が可愛すぎて犯罪者になってしまいそう。
お読みいただき、ありがとうございました。
主人公は気付いていませんが、この世界は乙女ゲーの世界です。逆ハーレムを阻止するために主人公は呼ばれました。
続編は明日にでも投稿します。