羽のない妖精
さいしょの夏、泉の水面上にハイドはぷかぷか浮かんでいた。
ハイドの身長は、おやゆび姫みたいに小さくて、耳はつんっととんがった茶髪の妖精だ。
妖精って、ふつう、羽があるから水を嫌うんだ。飛べなくなっちゃ嫌だからね。
じゃあさ、どうしてハイドは泉の上なんかに浮かんでるのさ。って思うでしょ?
ハイドは、小さな頃(いまも小さいけどね)ハイドと同い年の悪い妖精がいて、その子――なまえはエナン――のいたずらで、ダイヤモンドみたいだった羽を引っこ抜かれてしまったの。あのときは、ハイドたくさん泣いてね。
だけど、いまはヘッチャラってな顔で青い空をながめている。だって、羽がないってことはいまみたいに浮かんでいたり、泳げるし、水浴びだってできるんだ。
羽のしっかりついたみんなは出来ないこと。私にだけできること。ってことは、ほかの妖精とはちがう、変わった子って思うかな?
でもね、私にしかできないことがあるってことは、個性があるってことなんだ。
それは、ハイドしかもってない、ハイドしかできないことが沢山あるってこと。
だから、羽がないってことをばかにしていると、いまに、君はいたい目にあうぞ!
ハイドは、目のまえに浮かんだ葉っぱのうえに、一匹のありがいるのを見つけて、はなしかけた。
「ねえ、ありよ。そんなところで、何をしているのか?」
そしたら、ありはハイドを見あげていった。
「あら、お嬢さん、たすけてくださいませんか? わたしの乗る、この葉っぱは、水じゃなくって地面においてあった葉っぱなのです。わたし、この葉っぱのうえにのっておひるねしていたの。だけど、ひゃ!」
「ど! どうなさったのよ……とつぜん、そんなへんてこな声などだしたりして」
「葉っぱごと、私は風に飛ばされちゃったのです。風がやんで、葉っぱも落ちついたときには、このありさまでしたの」
「まあ! 大変だったのねえ」
そういって、すぐさまハイドはありさんを両手で持ちあげた。
ハイドは、浮かぶのをやめて、原っぱまで泳いでいった。
原っぱまでついて、上がったら、すぐにありさんを原っぱの地面のうえにおいてあげた。
「これは、これは、ありがとさん。アンタあ、いい妖精だねえ」
ほら見て、言ったとおりでしょ? ハイドはハイドにしか出来ないことをやってのけたんだ。
ほかの妖精なら、水にこわがってとてもでもありさんを助けることは出来なかったと思う。ああ、感心、感心。
だから、ほかの妖精とちがってもいいんだ。ばかにされても、笑われても、いいんだ。だって、こんなことできる妖精は、ハイドだけだものね!
お し ま い