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パピヨンゲージ  作者: 砂知恵
3/4

故郷.2

epi.3「故郷.2」


彼が街を出て行ってから、街の様子もそれなりに変わっていた。彼は、その事実を真正面から受け止めていた。彼の記憶の中にある街と比べて、記憶の中にあったものがなく、記憶になかったものか新しくある。それも、2、3ではなくそれなりの数で、だ。時間経過の事実を認識するには、彼にとってはこういった形が最も実感できる方法でもあった。

フゥ、と小さくかつやや重ための溜め息をつき、交差点に辿り着いた。


『現在帰郷中。誰か暇なやついねぇ?w』


純がタイムラインにそう投稿したのが、つい5分ほど前のこと。まだコメントやスタンプは付けられていない。無論、イイネもだ。

彼は今、自宅の最寄り駅に向かっていた。


彼の散歩は、昔であれ今であれ、とりあえず自宅の最寄り駅を基点としていた。田舎の駅とは言え、東に上れば姫路へ、西へ下れば赤穂まで行けるのだ。東西の基本軸になっているあたりが、彼が基点として利用している所以だ。

そして、現在彼は国道の交差点で分離式の信号に引っかかっていた。この信号機は、彼も良く覚えている物の1つだった。何せ、彼が高校生の時も、この信号機は彼の前に立ちはだかり、彼を3分少しほど待たせて苛立たせていたのだ。忘れられ等はずも無い。


「・・・・・・相変わらず長いな」


ここの信号機は、とにかく長いと言うことで歩行者にも運転手にも知られていた。悪い意味で。と言うのも、この国道交差点は道幅は広いものの、運転手的には曲がりづらい形に仕上がっているのだ。カーブミラーの位置や角度、道の入り組み方、その他諸々の理由で、だ。その割は、歩行者が食うハメになる。


「・・・・・・暑い」


そして、歩行者にとって1番辛いのは、それが四季の内のどこであれ何1つ待遇が変わらないことであった。春や、秋ならまだ許せた。しかし、梅雨、夏、冬、はどうにも我慢しがたい物があるのだ。

そして、純はその我慢しがたい物に直面していた。炎天下40℃弱の気温、それ相応の熱を持ったコンクリートの反射熱。自動車が排出する生温い排気ガスでさえ、今の状況から言えば充分に暑いものと言える。結果、彼はそれなりに苛々していた。とは言うものの、その苛々度も彼が高校生の時の物に比べれば、軽いものであった。急ぐ必要がないのだ。それならば、苛々の度も幾分軽くなるのもまた必然と言えば必然である。


そうとは言っても、やはり暑いものは暑く、彼はそれなりに苛々していた。だが、苛々している部分があっても、一方で彼はそれなりに落ち着いてもいた。と言うのも、彼のいる位置からして斜め右前にある小さな病院のおかげだ。その病院は名を、新田クリニックと言い、純も、この街を出るまではずいぶんと世話になった町医者だ。彼は、その病院の姿を見て、自身が小さかったときのことを思いだしていた。

それは、彼が日本脳炎の予防接種を受けに来たときのことだった。記憶の中の小さな彼は、アルコール消毒をされた部分を隠し涙目にながら、「ダメッ」と言って医者を睨んでいた。無論、その直後に問答無用で注射を打たれたのであるが。


(あのときは、病院出た後に母さんに滅茶苦茶怒られてたっけ)


周囲にバレない程度に苦笑しながら、彼はそう思った。


ようやく、長ったらしい信号機が色を変えた。

彼と彼の足は、まるで待ってましたと言わんばかりの勢いで1歩目を踏み出した。



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