機械の体を望んだ婦人の話
「博士、貴方にお願いがあるのです」
ある日、ロボット発明家の博士のもとに、暗い顔をしたひとりの婦人がやってきました。
「おやおや、ご婦人がおひとりで私に何の用ですか?」
博士は婦人に訪れてきた用を尋ねました。
「私を機械の体にしてほしいのです」
婦人の言葉に博士は驚きました。
それは、人の体を機械にすることが難しいからではありません。天才の博士にとっては容易い事です。
博士が驚いたのは、せっかくの血の通った温かい体を捨てて、命の通わない冷たい機械の体を欲しがることが分からなかったからです。
博士は考え直すよう婦人に促しましたが、決心は固いようで博士の言葉を聞き入れても考えを変えませんでした。
「私は先月、夫に先立たれました。その葬儀が終わり夫を亡くした悲しみに暮れていると、ふと死というものが無性に怖くなったのです。
命があればいずれ死んでしまうの分かります。それでも私は怖くて毎晩寝ることさえままなりません。
お願いです。私に命の尽き無い体をください」
博士は婦人の必死さに根負けし、婦人の頼みを聞き入れることにしました。
婦人が博士を訪れた翌月、その月の初めから婦人の体を機械化するための手術が始まりました。
手、足、臓器、骨、頭脳に至るまで、婦人の体のありとあらゆる部分は機械に置き換わりました。
そして半年間に渡る期間の手術は見事に成功し、婦人は念願の機械の体を手に入れのでした。
「術後の経過はどうですか?」
手術が終わって暫く経ち、あくる日に博士は婦人の元を訪れていました。
「素晴らしいです。以前と体の動かし方は変わりませんし、見た目は以前の私にそっくりそのままです。
何より怪我は修理で直りますし、ましてや病気にかかることもありません。すっかり死の恐怖から立ち直ることが出来ました」
博士の元を訪れたときの暗い顔はどこかに飛んで、婦人は憑き物の取れたような晴れやかな顔をしていました。
「そこは一番こだわりましたから。おそらく誰が見ても、あなたが機械の体であることなんて思いもしないでしょう」
博士も嬉しそうにしている婦人を見て、自分の仕事を満足して見届けました。
さて、そこから季節が幾つも巡り巡ったまたあくる日。
博士は婦人の元を訪れていました。
そして、博士は婦人の前である告白をします。
「あの頃の恐怖で死にそうだったあなたには真実をお伝えすることができませんでしたが、人にも物にも――たとえ機械にだって、寿命ってものはあるんですよ」
婦人の入った棺の中に花を一輪手向けて博士は去って行った。
Q.どうして婦人だったのか、男じゃ駄目なのか?
A.偶には未亡人キャラを出したくて。