08 勇者様の露払い
「おお勇者よ、よくぞ参られた」
いきなり異世界召喚されたかと思えば、妙に低姿勢な王様。
で、魔王を倒してくれと装備品を現物支給。
…ひのきの棒に布の服。最下級の兵士よりひどい装備じゃないか。
ほんとに勇者に対する扱いか? 奴隷として喚ばれたと言われたほうが信憑性ありまくりだぞ。
しかしノーといえない日本人。
いや俺チート野郎じゃないし。態度悪い空気読めないコミュ障じゃないし。
取り敢えず支度金として100ゴールドもらえたし。
…買えるよな、ちゃんとした装備。
取り敢えず、武器屋にゴー!
「おお、このひのきの棒は、名工が手がけた逸品ですな。100万ゴールド出しましょう」
妙に棒読みな武器屋のおっちゃん。
…まぁいいか。多分これで、支給された資金の不足を補えということなんだろう。
「では、どうぞ」
差し出される100万ゴールド。つまり金貨100万枚。重すぎるわっ! 嵩がありすぎるわっ!!
樽詰された金貨の山。有り難みが全然ないぞ。
つーか、店頭にかけてある一覧表を見たら、普通のひのきの棒が100ゴールド。金貨100枚分。
高すぎるわ、そもそも元の値段が。
てか、最初の支給金額が、ひのきの棒1本分…。
…うん、考えないようにしよう。いろいろと。
「勇者様、あそこに見えるが魔王城です」
王都を出てすぐ、海峡を挟んでおどろおどろしい魔王城が見える。
「では、船にどうぞ」
……。そして、海峡連絡船が準備万端で待っていた。
「ちょっと待て。ここは普通…ふつう…」
うん、普通に考えれば、勇者が旅する必要ないよな。
魔王を倒しさえすればいいのだから、ショートカットを全力で用意するよな。
「あー、でも。此処はお約束だと、海流の流れが速すぎて…」
海峡の入口と出口を塞ぐかのように、海獣たちが連なっていた。
おかげで波間は穏やかだ。
結局転覆どころか船酔いすらすることなく、30分で対岸に着いた。
観光チャーター船かよ!
「おお勇者よ、よくぞ我がもとに参った。世界の半分をくれてやるから、我をそなたのモノにするがよい」
「ちょっと待て、いろいろ変だろ」
もう何も言うまいと思ったが、思わず突っ込まずにはいられなかった。
というか、勧誘の順番自体変だろう。
「さあ、はいかイエスか、さもなくば言葉攻めか!」
そういってバサリとマントを広げる魔王。
中身は勝負下着な裸マントかよ…。つーか、痴女だったのか。
まぁいまさらだけど。
「あー、一応勇者だから、倒す方向で」
「そうか、押し倒してくれるか! まさにウェルカムだ。さあ愛の巣にイこう」
瞬間、魔王は拡げた裸マントのまま水平移動して俺の前に来ると、マントを巻きつかせて後ろに水平移動する。
早い話が、お持ち帰りされた。
「ちょ、ま、ちが…。アーッ!」
数日後、全世界の全世帯に一枚ずつハガキが届いた。
それは、なんのへんてつもない一枚のハガキ。
ただの結婚報告の、ハートマークで2人を囲んだ、しあわせ・・・そうな一枚のハガキ。
それ以来、魔物たちは己のすみかに引きこもり、人里には出てこなくなりました。
そしてこのハガキを受け取った人間たちは、そっと涙したのです。
私達、結婚しました。夫、勇者(21)。妻、魔王(××××××、もう嫁き遅れとは言わせないぞ!!)。
「さすがです。世界平和のためにこのような自己犠せ・・・結婚も厭わないとは、まさに勇者です」
だれも写真写りのいい魔王のことを何も言わなかった。
魔王城が暗いのは、化粧のノリを誤魔化すためとは、誰も勇者に言わなかった。
魔王の何が最強かって、ベッドの上では相手は悲鳴しか上げないってことは、この世界最大の秘密にして、誰もが知っている言っちゃいけないことだよ。
ちなみに悲鳴を上げるのは、魔王の真なる姿(化粧落とし済み)を見た直後からってことは、アイコンタクトでも知られちゃいけないことなんだよ。
これは世界を救った、神なる勇者のちょっとした物語。
(おしまい)