02 スライムダンジョンが現れた!
「勇者殿っ、スライムダンジョンを攻略して、世界を救っていただきたい!」
「任せろ、問題ない」
俺は王様からの依頼に、即座に了承した。
いやあ、王道召喚だなぁ。しかも低姿勢だし。
さらに魔王を倒せとかじゃなく、ただのスライム。チョー楽勝。
おまけに王様の隣の王女、すっげぇ美人だ。いや、超美少女だ。
しかもツンとしたところがなく、マジで優しそう。オレ最高。
そう、王女さまは、本当にクオリティが高いのだ。
金髪碧眼なのは言うまでもなく、ゆるりとウェーブの入った髪は腰のあたりまで綺麗に流されている。
色白で童顔ながら、胸は凄い盛り上がってる。いわゆる超美巨乳。
腰は細くて、お尻も小ぶり。だけど脚とはすっごい細そう。
あ、ドレスで足首しか見えないけど、黒ストマスターな俺は透視スキルレベルマックスだから。これ重要。
「ほほう、勇者殿。我が娘が気に入っていただけたようですな」
「あ、さーせん。すっげぇ可愛いもんで」(※1)
「そ、そんな。ぽっ///」(※2)
「はっはっはっ、正直ですな。では、世界を救っていただいた後は、嫁に如何ですか?」
「え、いーんすか? マジお持ち帰りっす。いやぁ、すっげぇテンション上がってきたなぁ」
いや、マジ、この王様さいこー。
異世界召喚の最近のブームは悲惨系ばっかだけど、これはやばい(※3)、俺の時代がやってきたなぁ」
「では魔導師長、契約の儀式を」
「はっ、直ちに」
王様の命令で、白ローブのおっさん…いや爺さんがやってきた。
えー、ここは美女司祭が、神様の祝福を与えてくれるところじゃないかなー?
「む…、ふむ。勇者殿はご不満の様子。若輩ですが、孫娘に代用させましょう」
そういって出てきたのは、これまたかわいい美少女ちゃん。
王女さまがふわゆる系なら、こっちはツンデレなロリ委員長なタイプだ。
ジーさん、グッジョブ!(※4) さすがわかってる。
そうして俺は、誓約の儀式とかなんとかというのを行い、名実ともに勇者へとジョブチェンジした。
「では勇者様。早速ご案内させて頂きます」
もちろん先導するのは美少女騎士。(※5)
なんか急遽用意されたとかで、鎧が重そうだったり、武器を吊るした側の腰が重そうだったり、そっちに傾いているけど…。
でも俺が勇者だから、何も問題ナッシング。
あ、後で騎士団長に言っておかないと。
鎧の腰の…スカートたれ、かな? あれを外してもらわないと。
せっかく後ろからついていっているのに、これじゃお尻をちゃんと鑑賞できないじゃないか!
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「で、さぁ。俺マジデートに自信あんだけどさぁ、俺マジでヤバくねぇ? だからさぁ…」(※6)
「勇者様、まずはこの王都のスライムダンジョンを攻略していただけませんと…」
うはぁ、かわいい。テレてるよ、この子。
うん、日本では絶滅危機種だな、これ。
「聞いていますか、勇者様?」
「あー、うんうん。マジ大丈夫。スライムごとき、お茶の子前だよ」
「嗚呼、心強いです。(※7) では、早速向かいましょう」
「へ? 伝説の武器とかは?」
「??? ありませんよ、そんなの」
「あー、そっかー。スライムだもんね、マジ」
「ええ、スライムですからね」
「で、さぁ。その王都のスライムってさぁ、何匹いるの?」
「え? 一匹ですが…」(※8)
「は? マジで1匹? マジ楽勝じゃん、ダンジョン攻略」
「さすが勇者様ですね。心強いです」
あー、そっかそっかー。オレ異世界勇者だもんな。
いわばデフォルトカンスト状態。チート特典盛りだくさん。
そんなものを持たない異世界人にとっては、たとえ雑魚の中のキングオブザコと呼ばれしスライム程度であっても、まさに世界破滅の危機ってやつなんだろう。
世界を救う冒険ってやつには物足りないが、楽で凄くいい。
マジ魔王城までかったるい旅をしなくてもいいからな。
あ、でも、この子と冒険中に青姦とか無理なのか。
いやでも、お姫様と結婚した後に、中庭に呼び出せばいっか。
ぐふふ、楽しみだ。
そして俺は、王都の郊外に案内された。
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「ごめんなさい、マジ無理です」
スライディング土下座で美少女騎士のスカートの下に…ぐべっ、踏まれた。
「ちょ、なにすんの。オレ勇者だよ」
「敵前逃亡犯が、何を抜かしておられるのですか?」
「いやだって、ちょマジ無理無理だって。だって、スライムだよ。聞いてないよ、オレ」
「何を分けのわからないことを…。とっとと逝きなさい」(※9)
鬼畜鬼美少女が俺に死刑を宣告した。
だって、スライムだよ、スライム。
これを退治しろなんて、マジ鬼畜じゃん。
だって、誰が想像するっての。
王都よりもでっかいスライムが、ジュウジュウ地面を溶かしながらブヨブヨしてるのって。
これ遠くから見たら、マジで草原だよ草原。
普通こんなの、スライムかっていうかっての。
しかも地面とか、ジュウジュウ溶かしてるし。あ、前言ったか。
「鎧ヨロイよーろーいー! こんなんマジ無理だって。俺とかちゃうだろ。あり得ないって」
「??? 鎧で何をするつもりなのですか?」
「はぁ? 何いってんの、マジでバカぁ? 着るに決まってるじゃん。防御力とか上げないと、俺オーバーキルじゃん」
「だから防御力を上げて何をすると…? …もしかして、スライムダンジョンについて、何も知らないのですか?」
「ちょ、なにバカにしてんだ? 俺勇者だろうが、ふざけんな」
「はぁ…。では説明しますね…」
哀れまれた。お前何様なわけ。
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「ちょ、まて、マジありえんだろ。だいたい俺は…」
「あー、はいはい。もういいです。とっとと攻略に入りましょう」
そういうと、誓約だか契約だかの儀式の時に使った石版を操作しだした。
「本来これは、攻略中の勇者の生命維持に使うものなんですけどね」
「へ、れ? 体が勝手に動く…って、うわあああああああっ!!」
俺はいきなり体を石版コントローラーで動かされて、スライムに突撃させられた。
「うぎゃああああああああああああ!!」
スライムにだいぶ。服とか下着とかが溶かされて、マッパになった。
「おぼえええええええええええええ!!」
スライムに飲み込まれた。気持ちわりい。
いや、ローションプールみたいで、気持ちいいけど気持ちわりーぃっ!!
「あばばばばばばばばっばばばばばばっ!!」
「うぼえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「どぎゅばぁはぁはぁーーーーーーーーっ!!」
「ごふけぃぃぃぃぃぃぃぃぃ・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・い・・・ぐ・・・あ・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺は全身の穴という穴の処女を失った。
知ってるか? 人間って、鍛えれば汗腺の穴でも絶頂出来るんだぜ。
当然人間の穴は汗腺ほど数が開いていて、俺の灰色の脳細胞はボロークンハートしてしまったのさ。
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国王は執務室で朗報を待っていた。
勇者召喚は過去に何度も行なっており、今回も問題ないはずであった。
しかしそれでも、不安は拭えない。
召喚された勇者が、近年類を見ないクズっぷりだったために、万が一の予想が忍び寄るのを追い払えないでいるのだ。
「陛下、連絡が入りました。無事にスライムダンジョンを攻略したとのことです」
魔術師長の報告に、大きく安堵の息を吐く。
見れば、他に控えていた騎士団長や神官長、それに最愛の娘たる王女も同様に緊張から解放されている。
「で、だ。勇者はどうなったのだ?」
攻略が成功したのなら、当然次の懸念は勇者の安否であった。
なにしろ最愛の娘を嫁にどうだと言ってしまったのだ。
勇者をうまく乗せるためとはいえ、王の名において発言の撤回はできない。
そう、発言の“撤回”はできないのだ。
「ご安心ください。なにもかも、使い物にならなくなったそうです」
「ほう、それは重畳」
結婚は当然子作りと同義でもあるので、その能力のないものが、系譜を繋がなくてはならない王族と出来るはずはない。
王女も最悪の覚悟はしていたとはいえ、それを無事に回避できたことに、大きく胸を撫で下ろす。
魔術師長は騎士団長に向かい、大きく礼をする。
「騎士団長殿。あなたの娘御は、まことに素晴らしい。必要以上に勇者をスライムダンジョンを回遊させ、ギリギリ勝利できる余力で中心核に突入させたそうです」
「過分な賛辞、恐れ入ります」
「謙遜することはない。王国のみならず、我が娘のことも救ってくれたのだ。充分誇って良い」
そして和やかに会話が弾む。
最後に神官長に確認が行われる。
「では、穢れしモノは、神殿でしっかりと廃棄させて頂きます。最近は神威術の人気が高まっており、術者のなり手に事欠かないのですよ」
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しってるか? 勇者ってイ世界の産地だから、神様の力以外じゃ傷つけられないそうだ。
そりゃ、なんでも溶かして吸収しちまうデカスライムにはうってつけだよな。
で、いまおれは、神官とか巫女とかの、攻撃魔術の標的になってるってわけだ。ちくしょう。
スライムがあまりにもすらいむだったから、もうなんにも感じやしねぇ。
このまま静かに、眠らせてくれ…。
そのとき、豪華な服を着た神官がやってきた。
「浄化中止。新たなスライムダンジョンが発見された。新規召喚がもったいないので、廃棄物の再使用(※10)が決定された。以後……」
かんべんしてくれ。
「では、回復剤の投与を」
でっかい注射器が運ばれてきた。
まじでかんべんしてくれ…。アーッ!(※11)
(おしまい)
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※1:王様へのタメ口は、当然不敬罪です。
もっとも、この世界の“勇者”には、それをしても許されるだけの理由がありましたから、問題ありませんでしたが。
※2:王道召喚だからって、勇者にチート能力が付加されているわけではありません。よって、ニコポは発動していません。
王女は単に、勇者の機嫌を取っているだけです。どうせ世界を救った後、嫁にもらう気力が残らないとわかっていますし。
※3:やっぱりの言い間違いです。主人公のこれまでの言動から判る通り、知能はかなり低いです。
※4:無論儀式を辞退したことではなく、かわいい孫娘を作っていたことに対する賛辞である。
主人公の脳みそに、魔導師長が気を使ったということに対する感謝もなければ、そもそも気付いてもいないのである。
※5:騎士団長の娘。小さい頃から小間使いとして働いていたため、侍女長並に王宮に詳しい。
主人公が美少女好きと認定されたため、急遽適当な武装を着せられた。
当然次の日は、筋肉痛。王様から特別休暇をもらえたため、有給扱いとなった。
※6:何度も言いますが、主人公の知能は人類的に絶望水準です。
いちいち注釈をつけるのもなんなんですので、以後省略させて頂きます。
※7:棒読みです。騎士団長の娘ですが、ただの一般人です。接待スキルなんて持っていません。
むしろ、態度も言葉遣いもウザいと顔に出していないだけ立派でしょう。
※8:漢数字とアラビア数字の発音って、日本語では分けられませんよね。
異世界召喚特典の言語翻訳がかかっていますので、主人公には日本語に聞こえます。
当然異世界語での1匹と一匹は、数の1匹と箇所・塊・群体集合和的な数えをする一匹とで発音も意味も明確に違っています。
主人公がスライムについての詳しい説明を求めれば、翻訳機能が学習して、1スライム迷宮とか聞こえていたことでしょう。
※9:何度も言うようですが、騎士団長の娘です。
敵前逃亡するような輩にかける情けも敬語も持ちあわせておりません。
※10:異世界でも、リサイクルは環境にやさしい…かな?
※11:どこに注射されたかは、読者の皆様に投げます。