01 俺TUEEEEEEEEE!!!!
俺の名前は真虚空慈=クリスティア=フォン=アルティメイティア=水晶青騎士。
何を隠そう、異世界転移者である。
ことの始まりは、まぁまさにテンプレ通りってやつだった。
しかし俺は人格者なので、転生神とやらにたった一つしか願い事をしなかったのだ。
だってそうだろう。凡ミスダメ神とて失敗くらいはするだろう。
いや違う。凡ミスダメ神だから失敗するのだ。だから土下座スキルのレベルが高いのだろう。見事な土下座だった。
そして素直に謝っているのに、あれこれ弱みに付け込んで要求するのは、それこそクズってもんだ。
だから俺は、転生先の世界で最強の存在にしろという要求だけしかしなかったのだ。
最強。
なんとも心くすぐる響きじゃないか。
無限の魔力とかありったけのスキルとか、超絶肉体言語なんて目じゃない。
なにしろ最強なのだから、いちいち自分と相手のスペックを考える必要なんて無い。
そして、こんなことを思いついてしまう俺様の頭脳は完璧だ。
こちらの方はチートなんて貰う必要すらない。
ああでも異世界の言語とかを覚えるのは面倒だから、翻訳機能はつけてもらった。
アイツのミスの都合で異世界に飛ばされるんだ。これくらいのおまけは当然付けなきゃおかしい。
さて、そろそろ生まれ変わりの時間だ。
最強の肉体は当然不老不死もついているから、16~18歳ごろに肉体的成長も終了する。
まぁもっとも最強なんだから、生まれた時から……ああっ!!!美形にしてもらうの忘れた!!!
あ、ちょっと待て。まだ光るな。
くそっ、あのヤロウ。やけに急がせると思ったら、こんな手抜きをしやがって。
くそっ、くそっ、くそう!!!
まぁいい、最強の存在なら、女なんてよりどりみどりの奪い放題だ。
しかしいずれ、この借りは返してやるからな。覚えていろよ!!!!
そして俺は、異世界に転生した。
目が覚めると、そこは既に異世界だった。
…まぁ転移したあとで異世界じゃなかったら、ソッチのほうが問題なんだが。
転生という割には、赤ん坊からやり直さなくてすんで良かった。
羞恥プレイは、する方は好きだが、される方は絶対御免だ。
そして誤算が一つ。
体をうまく動かせないのだ。
最強の存在になったのではあるが、新しい体をうまく動かせるかどうかは別だったというわけだ。
もっとも転生して体が動かせなかった頃に冒険者たちに拾われたので、むしろ好機として下僕として使おうと思う。
「おい魔術師。なにやってんだ。アイツの弱点属性は氷だぞ。いくらお前が火属性で水系が苦手だからといって、なんでも俺にやらせようとするな」
「それに前衛。攻撃パターンくらい覚えろ。あぁん?! そんなの相手のステータスを見れば一発でわかるだろうが。数えるほどしかスキルを持っていないんだから、攻撃パターンが何種類もあるわけ無いだろ」
「まったくお前らときたら、俺がいなければ何もできないじゃないか。だからこの依頼の報酬は、俺が全取りだな。あぁん?! 何か文句あるってのかぁ?!」
どうもちょっと、調子に乗っていたようだ。
なにしろ世界最強の存在になってしまったがために、弱者の、それも弱くてひ弱で惨めすぎるほどの能力しか持っていない奴らのヒガミを測り切れていなかったようだ。
具体的には依頼の報酬全部をつぎ込んだ拘束具で雁字搦めにされて、売られてしまった。
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「オヤジ、こいつを引き取ってくれ」
「おいおい、なんだこりゃ。沈黙符の塊をどうしろって?」
「いや、よく見てくれ。こいつはうるさいから黙らせているだけで、魔術符を売りに来たわけじゃないんだ」
「……おいおい、なんだよこりゃ。信じられんな。いったいどうしたんだよ、これ」
「いや、依頼の途中で拾ったんだ。能力的には凄いから役に立ったといえば立ったんだが、うるさいわうざいわうっとうしいわで、とてもこれ以上一緒にいられねえんだ。捨て値でいいから引き取ってくれ」
「捨て値だって? ありえんだろ、それは。一体どういうつもりなんだ?」
「いや、だから。さっきも言ったとおり、うざくてうるさくてうっとうしくてうんざりなんだ。いや、どちらかというと、こんなのを引き取ってもらえるなら、全財産をはたいたっていい。捨てても自力で戻ってきて復讐とかされそうだから、正規に引き取って欲しいんだ。頼む!!」
「おいおい、穏やかじゃないな。まあいいさ。お前の評価がすごく心配だが、最悪客寄せ程度にはなるだろう。買ってやるよ」
「ほんとか?! ありがたい!! ああ、絶対にその符は取らないでくれよ。ほんとうにうざくて…」
「ああ、わかったわかった。気をつけるよ」
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くそっ、あいつらめ。人が寝ている間に、なんてことしやがるんだ。
しかも俺様がいくら最強といっても、売られてしまった以上、もう持ち主には逆らえない。
くそっ、こんなことなら、最強属性は拘束不可能とか、いかなる呪いも無効と設定しておくんだ。
せっかく何十時間もかけて最強の定義をしたってのに、定義付けしていないところは反映されないなんて、なんて中途半端な最強なんだ。
これだから、凡神のやるやっつけ仕事ってのは…!!
と、客が来た。それも、すげぇ美女だ。
ここに来たってことは、買いに来たってことだよな。
ってことは、俺様のご主人様になるってことだよな。
最強無双の予定が狂っちまったのは仕方ないが、これはこれでいいな…。ありだな…。
よしっ、早速セールストークだ。
「おいっ、そこのねーちゃん。おい、ああ、お前のことだよ。それで、喋ってるのは俺だよ。あぁ俺は真虚空慈=クリスティア=フォン=アルティメイティア=水晶青騎士っていって、まぁなんていうか、この世で最強の存在っていうか、つまりはすげぇ最強ってわけだ。だからお前、俺を買え。そしたら俺の持ち主であるお前が、世界最強の下僕として、世界で二番目の地位に立てるってわけだ。まぁもっとも、ただで恩恵に預かれるって都合のいい事考えていないよな。だが俺は温厚で慈悲深くて、さらに謙虚な人格者だ。1日10回でいいぞ。あ、もちろんお前は処女だよな。誰か他の男とヤったあとの使い古しなんてふざけたことはないよな。もちろん俺様のペットになるからには、裸エプロンやビキニアーマーがデフォで…もがもがぁっ!!」
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「すいません、すいません、本当に申し訳ありませんでした。いえ、わざとじゃないんです。こいつはなにぶん力が強すぎて、すぐに沈黙符を劣化させてしまうんです。けっして騎士様のことを…」
「いや、いいんだ。噂には聞いているよ。だからそんなに謝罪しなくてもいい」
「あ、ありがとうございます。…しかし、騎士様の耳に入るまでの噂になっているんですか…。はぁ、本当になんで、こんなのを引き取ってしまったかなぁ」
「そんなにひどいのか?」
「ええっ!まったく!もう!! 噂で聞いているならご存知かもしれませんが、こいつは性能とかを見るだけなら、まさに世界最強の自称通りでしょう。しかし、ほんとうに、口も性格も悪すぎます! おかげで最近は、客足パッタリですよ」
「そ、そうか…。しかし逆に言えば、口の悪ささえ気にしなければ、まさに最強の武器になるということだろう?」
「…それはそうですが…。まさか、お買い上げになるとか? 騎士様、正気ですか?!?!」
「やむを得んのだ…。聞いているだろう、魔王軍の進撃とか、邪竜の群れの民族大移動とか、邪神戦隊の活躍ぶりとか、異世界侵略者達の暴虐非道ぶりを。王国を救うには、もうこれしかないのだ…」
「わ、わかりました。確かにそうですね。でしたら私も一国民として、最大限のことをしたいと思います」
「おお、それでは」
「はい、これを献上いたします。いえ、事が終わってからも、またいつ何時再発したりとか新たな脅威とかが来ないとも限りませんし。ですのでどうぞ、今すぐ持って行ってください。あ、そうそう、噂になってしまっているとおり、こいつのお陰で私の店の評判は壊滅的です。何処かの田舎で畑を耕しながら引きこもろうと思っておりましたので、実は渡りに船だったのです。どうぞお気になさらず、お持ちになってください、はい」
「そ、そうか…。では、ありがたく頂いていく。絶対に王国を救って見せようぞ」
「はい、ですがそれを引き取っていただけるだけで、私自身はもう十分救われました、はい」
「そ、そうか……。そうなのか…」
「ええ、まったく。あ、そうそう、ついでにこちらもどうぞ」
「これは沈黙符…が部屋いっぱい…」
「ええ、もう必要ありませんし、騎士様にはこれから、いくらあっても足りなくなることはありませんので。どうぞお持ちになってください」
「そ、そうか…………。ありがたく頂いていこう……」
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俺の類まれなるセールストークが威力を発揮し、美女のねーちゃんを相棒として手に入れた。
が、こいつはとにかく身持ちが固くて、おまけに自分自身の護衛を山のように引き連れていやがる。
まあ俺は見られながらってのもいいものだが、どうやらこのねーちゃんは凄いシャイらしい。
毎晩毎晩…というか、戦闘の時以外は俺を決して人目には触れさせない。
ふっ、黙っていても美女軍団を惹きつけてしまう俺様のカルマが憎いぜ。
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「騎士クリスティナよ、よくぞ王国を救ってくれた。そなたのような臣を持てたのは、国王として何にもまさる喜びであるぞ」
「もったいなきお言葉にございます。されど我が功は、その…」
「ああ、言わんでも判る。そなたが王国の脅威のために、どれだけ苦労を背負ってしまったのかは」
「はっ、ありがたきお言葉にございます」
「ついてはその報奨として、そなたが所持せし最強の武器を献上することを許す」
「はっ、…はっ? へ、陛下。しかしお言葉ながら、これは、その…」
「わかっておる、わかっておるのじゃ。王国のために、そなたがどれだけの犠牲を払い、これからも払おうとしているのか。しかし主君たるもの、忠臣に報いる手段があるのに、それをせぬ道理があろうか。宰相、あれを」
「はっ。騎士クリスティナよ。これはかつて、邪神を封じこめんと神々が作りし拘束具。これならば、アレを封じ込められよう」
「へ、陛下…。宰相閣下…。ありがとうございますっ!! この騎士クリスティナ、陛下と我が国家に永遠の忠誠と献身を捧げます!!」
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ちくしょう、いつの間にか美女のねーちゃんから引き離されてしまった。
このジジイどものせいだな。
そりゃ俺様というもの、最強でかっこ良くて強くて偉くていい男すぎるものだから、嫉妬してしまうのもわからんでもない。
が、美女のねーちゃんと引き離すとは何事だ。しかもやたら強力な鎖とか輪っかとかで体中を固めやがって。
…はっ、そうか。そういうことか。
こいつら、スケベオヤジだな。
俺様の奴隷に目をつけるとは、いい度胸してやがるな。
よーし、そこへならえ。
俺様が直々に教育してやろう。
って、おい。なに倉庫に放り込んでるんだ。
とっとと拘束を解きやがれ。
てめえら、何考えてやがんだ!!
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「ふぅ、ほんとうにやかましゅうございましたな、陛下」
「まったくだ、宰相よ。我が騎士クリスティナのあのやつれ様、理解できるというものだ。本当に苦労をかけた」
「まさに我が国の英雄にふさわしいものですな。これまで苦労をかけた分、存分に労ってやりましょう」
「にしても宰相よ。アレ、は本当に大丈夫か。神々のお力を疑うわけではないが、いつ拘束具を打ち破るかと不安にもなる」
「なに、大丈夫でしょう。あの中には様々な呪具が、それこそ山のように押し込めてあります。一度解放されれば、相討って果てることでしょう」
「そうか? 呪われた物品同士、協力しあうとかあるのではないか」
「たしかにその不安もございます。しかし、アレらは本当にひねくれたもの同士。互いに憎み諍うことがあろうとも、手に手を取り合うことはないでしょう。それに…」
「それに、なんだ?」
「いま収めたアレは、殊の外ゲスで外道で男嫌いの同族嫌悪ヤロウです。相手にされるはずがないではありませんか」
「たしかにそうだな、あの最強を自称する“杖”は」
「ええ、そうでございます。存在自体が哀れですな。くっくっくっ」
「はっはっはっ、安心したぞ。これでよく眠れそうだ」
「はい陛下。不安を取り除けて喜ばしゅうございます」
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ちくしょう、こいつら気に入らねぇ。
なにが新参者だ。なに見下してんだ。
俺は最強の存在なんだぞ。
そりゃ、ちょっと形が棒状で、自力では何もできなくて、拘束されてしまっているけどよ。
だから俺は最強なんだ。つええんだぞ。ふざけんじゃねぇ。
笑うな。こっち見ろ。見れない? 目ぇついてんのか。…ついてねぇだと、ふざけやがって。
だから俺は、最強なんだからなーっ!!
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かつてこの王国を、凄まじい脅威が襲った。
魔王軍侵略・邪竜群大移動・邪神戦隊復活に異世界侵略者の自慢話など。
しかし1人の騎士が立ち上がった。
その名はクリスティナ。
麗しき乙女にして戦の申し子。
慈悲深き求道者にして清廉なる穢れ無き魂。
彼女は幾多もの困難に立ち向かい、それを恐れず、けして諦めることなく進み続けた。
その傍らには常に、彼女を支え、その剣となり敵を討ち、その盾となって身を守り、鎧としてその身を支え続けた存在があった。
強大な魔法の使い手。深き叡智の持ち主。希望の声援の紡ぎ手。
そう、魔術師ガゾロノフトである。
彼女らは深き信頼で結ばれ……
……なお、魔術師ガゾロノフトの杖が喋ったとか言う俗説があるが、まったくのデマである。
そんな非常識で非魔術的で都市伝説的な噂話に研究者は騙されてはいけないのである。
そして王国臣民である以上、国宝ばかりが修められた宝物殿の中を研究させてほしいなどという不敬は許されないのである。
なお、王宮七不思議の1つ、宝物殿の呪い声は無論デマであり聞き間違いであり、非魔術的である。
王国臣民にして魔術研究者たるもの……
(おしまい)