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09 私のするべきこと

  はじめから

 →つづきから

  あきらめる



 真っ暗な空間に白い文字。気付いた時にはまたここに居た。わけも分からずぼうっと横たわっていたが、状況把握が出来ると急いで身を起こした。

 ここに私が居るという事はやっぱりそういうことだ。どうしてなのか、いつそうなったのか何も分かったけれど死んだ、死んでしまった。そのことは紛れもない事実だ。


「どうして…」


 ふと顔にくすぐったさを感じて手を伸ばすと1本の黒い髪の毛が引っかかって落ちた。

 そうだ、髪だ。黒い髪が見えた瞬間意識が遠くなって死んでしまったんだ。誰か後ろに居たんだろうか。でも痛みも気配も感じられなかった。扉が開いた音もしなかった。

 得体の知れなさに身体が冷えた。それでもともかく戻ってやり直さないと。

 私はつづきからと呟いてゲームを再開させた。



**Now Loading**



「透はまだここにいるの?」

「……!」


 目を開けると渉くんが目の前にいて少し驚いた。つづきから再開させて貰えるのは有り難いけれど、せめて状況を整理する時間くらい欲しい。


 →気味が悪いので出る

  まだここにいる


 今度は間違ったりしない。私は渉くんの服の袖を握り、首を振った。


「早く出よう。大将くん達も待ってるかもしれない」

「そうだね」


 早く出たくて足早に扉に向かうと冷気が強まった気がした。触った取っ手も異常に冷たい。やっぱりここには何かイるんだ。


「行こう」

「わ、透?」


 逃げるようにして渉くんを引っ張って部屋を出た。もう2度と入りたくないと思いながら扉を閉めると、完全に閉まる直前に女性が見えたような気がした。

 長い黒髪の女性。淡い緑色のストールを羽織ってこちらをじっと見ている。そんな姿が見えたと思った時には扉はバタンと閉まりきった。


「なんか異様に寒かったわー、なぁ透。…透? どうした?」

「………」


 きっと見間違いなんかじゃない。さっき死ぬ前に見た髪もあんな風になんの癖もない真っ直ぐな髪だった。絶対にあの人が私を殺したんだ。

 どうやって。そこまで考え込んでしまうと頭が痛くなるような気がして、私は渉くんに何でもないと答えて大将くん達の元へ向かった。



**Now Loading**



 玄関の正面を真っ直ぐ進むと、襖の大きな部屋と普通の扉の部屋2つが並んでいた。大将くん達の声は、襖の部屋から聞こえている。まずそっちにいったのかもう隣の部屋は調べ終わったのかは分からないけれど、とりあえず合流したくて襖を開けた。

 うわ、と意図せず口から漏れた。見た事もないほど広い畳の部屋が広がっていて、中央には長い机がどっしりと置かれていた。何10万するかも分からない壺や上品そうな掛け軸まで立てかけてあって、これで埃っぽくなかったらどんなにいいかと思う。

 みんなもここまで広い部屋は初めてなのか、大将くんは畳を走り周り、メガネくんはひと休みと言わんばかりに座り込んでいた。同じように落ち着きなくうろうろしていた香菜子は入って来た私達と目が合うと心配そうに駆け寄って来た。


「透! 遅かったわね」

「ちょっと」

「…ちょっとぉ? あっやしい」


 香菜子が顔を思いっきりしかめて渉くんを睨めば彼はあのね、と言って頭に手を当てた。


「そろそろ俺をロリコン扱いすんのやめてくれるかな」

「ふーん。5年たっても透に手を出さなかったらやめてあげる」

「ご、5年…? て、ことは俺は21歳の透は高校せ…」

「うわ計算してるわこのロリコン!」

「!? いやこれは計算とかじゃなく…!」


 なんだか絡みづらい上にこの場にいたら面倒臭いことにもなりかねなさそうなので、違うとこに行こう。辺りを見回すとさっきまでただ座っていたメガネくんが一生懸命畳を見つめている事に気付いた。何か見つかったんだろうか。


「何かあったの」

「あ、透。これこれ、透は何に見える?」


 横にしゃがみこんで聞いてみると、メガネくんは畳を指差した。メガネくんの身体で見えなかった下をよく見てみると、そこには黒いシミのようなものがあった。


「シミ」

「何のシミ?」

「………」


 これだけ広い部屋でこれだけ長机を繋げているんだからきっとここはお客さんと一緒にご飯を食べるところ何だろうと思う。確かそういう部屋を“宴会場”というんだっけ。食事でシミ、というならやっぱり醤油かソースかどちらかなんじゃないだろうか。


「…何か調味料のシミかもしれないけどさ」


 私が何か言う前にメガネくんは私の考えていた事を言った。考えている事は同じなんだな、と無言で頷く。


「血、とかだったら?」

「!」


 フラッシュバックで引き出しを思い出してしまった。何かを吐き出してしまいそうになって何も答えられずにいると、メガネくんはなんてねなんて軽い口調で言って立ち上がった。


「…そうだったらメガネくんは面白いの」

「え?」


 楽しそうだったから思わずそう言ってしまい、口を塞ぐ。失言だった。忘れてと言いたくて顔を上げるとメガネくんは不敵な顔で笑っていた。


「透も見たでしょあの西洋甲冑。ここは立派な呪われた屋敷なんだよ? だったら誰か死んでてもおかしくはなくない?」

「………」

「ゲームみたいだよここ。探索して脱出しようなんて、すごく面白い」


 ぞっとした。メガネくんがゲーム好きなのは百も承知だったけれど、ここまで歪んだ好意は初めて感じた。元々こうだったのか、屋敷から出れなくなってこうなったのか。後者ならここにずっとメガネくんがいるのは危険だと思った。

 楽しそうに畳を見つめるメガネくんから離れて、この部屋を調べる事にした。早くここから出なくちゃ、そんな焦りがこみ上げてくる。


 大将くんは未だに走って遊んでるし、香菜子は渉くんに突っかかってるし、私だけでもさっさと調べてしまおう。


「…ん」


 みんなの様子を見回した際、棚に置いてある写真立てに目を付けた。写真立てはパタンと見られないように下を向いていていかにも怪しかった。さっきの引き出しの件もあって少し怖いけれど、今は別に寒気もしないから大丈夫なはずだと自分を奮い立たせて写真立てを手に取った。


「………、う」


 残念ながらビンゴだ。ちらっと見てまた下に伏せてしまったけれど、確実に写真に載っている人物全員の顔が黒く塗りつぶされていた。あからさますぎて嫌だ。

 もう1度みんなの様子を確認して再度写真を見た。

 身長的に、多分この屋敷に住んでいた家族の写真なんだと思う。スーツを着た男性に椅子に座っているワンピースを着た女性。その真ん中には性別ははっきりとは分からないけれど、2人の子供だと思われる少年(もしくは少女)が立っていた。


「…あっ」


 ぱっと見ただけでは気持ちの悪い写真だけど、私にとっては手掛かりの1つとなった。

 女性だ。この女性が身に付けているストール、一瞬見えた女の人のものとよく似ている。それにこの長い髪の毛も一致してる。確実にこの人だ。つまり私を殺した人ってこのお屋敷の“奥様”って事になるんだろうか。


 …やっとわかってきた、このゲームの内容。“ゲームの説明“にもあった通りここには怨霊、ううん未練を持った幽霊が何人か居る。それはここに住んでた家族でもあるしここで働いていた人達でもある。どういう理由で死んでしまってどういう未練があるのかは考えも付かないけれど、私がすべきことはきっと。

 全員の屋敷の霊の未練を無くしてあげること。かつちゃんと探索してこの屋敷から出ることだ。


「そっか…そうなんだ」


 どうやって未練を無くしてあげるかなんてすぐには出てこないけれど、途方もない迷路に出口を見つけたような気分になって私は嬉しくなった。



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