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08 「答え合わせをしよう」

 最初の部屋に入った渉くんは机の上に放置してあった小さな金庫をすぐ見付けて、私へと振り返った。


「日記がどうこう、というよりもヒントの意味を理解した方が早いかな」

「ヒントの意味…?」


 ちょいと手元を指差されてもう1度ヒントの紙を見る。

 −『日々を重ねよ』。

 紙にはそれだけしか書いておらず、やっぱり分からない。救いを求めるように渉くんの方を見上げると、彼は苦笑して大丈夫だと答えた。


「さっき俺は何て言った? 透ならそれを参考にしたらすぐ分かるよ」

「さっき…」


 −『月が消されてるのは何でだと思う?』

 −『必要ないからだよ』。

 渉くんが言っていたことを参考にするなら月が必要ない、つまりそれは必要なものは日付だけということ。それなら『日々を重ねよ』の日々は日付を指すっていうことだから重ねるという意味は−


「…足し算」

「正解! ならパスワードは?」


 すると渉くんはパチンと指を鳴らした。

 なら『日々を重ねよ』とは『日付を足せ』ということ。私は急いで日記を確認すると、日付は24日、30日、18日、9日、22日の5日間だった。それを全て足せば、えっと、繰り上がって、………。

 103。 3ケタの数字だ。


「分かったみたいだね。ならさっそく開けてみようか」


 私が顔を上げると渉くんは笑ってすっと金庫を渡した。手にとって、ダイヤル式になっている暗号1、0、3と緊張しながらもゆっくり入力するとガチッと鈍い音がして小さく金庫が開いた。目を丸くしていると後ろでパチパチと手のひらが鳴った。


「大正解、ってね」

「…すごい渉くん。よく分かったね」

「このメモと日記の字が一緒って気付いた透のがすごいよ」


 そう言われると少し照れた。照れ隠し半分興味半分でそのまま金庫を完全に開けて中を確認する。

 中には少々錆びた銀の鍵が入っていた。もしかして奥の部屋の鍵かもしれない。嬉しくなった反面、ああ非常にめんどくさいことになってしまったと苦々しく思う。

 鍵が見つかってしまった以上は大将くん達に伝えた方がいいとは思う。私だってゲームをクリアしなくちゃいけないから調べられる部屋があるなら一応は調べておきたい。でももしその部屋で何か危険なことがあったら嫌だ、とそこまで考えてひょいと渉くんの手が伸びて鍵を取った。


「せっかく謎が解かれたのに悩み事? 聞くよ」

「…みんなに鍵のこと言おうかどうか」

「あーなるほど。どうするかは決めた?」

「………、秘密」

「おっけ。鍵は透が持ってる?」

「うん」


 ぱっと見渉くんは手ぶらだし自分が持っていたいので素直に頷くと、私から金庫を取って鍵は落とすように渡された。落とさないように両手で握った瞬間冷たい風が前方からゆるく吹いた。驚いて前を向くけれど窓が開いてるわけではなかった。

 不思議に思って渉くんの顔を見ると、さっきとは別人のように厳しい顔をしていた。怒っているわけじゃないのはなんとなく分かる。何かにひどく警戒してるような、そんな顔で後ろを振り向いていた。やがて手に持っていた金庫を机に放り出して早足に扉へ向かった。


「早くここから出よ」

「渉くん?」

「なんか薄気味悪い。…透はまだここにいるの?」


 厳しい顔のまま聞かれて、特に用事も無いのに慌てて部屋を見返した。ぐるりと見回して渉くんと共に大将くん達のところに行こうと思っていたけれど、私の目線は机にとまった。

 さっきと何も変わらないように見えたが、何故か無性に机の引き出しが気になった。


 あんな引き出し最初見たときからあっただろうか。あったとしてもどうして引き出しの中身覚えてないんだろう。何か、あれは変だ。けれど渉くんの言うようにここはどこ寒くてさっさと出てしまいたいようなそんな気もする。どうしよう。


  気味が悪いから出る

 →まだここに居る


 うん、やっぱりくまなく調べておいたほうがいい。そう思って渉くんの方へ軽く手を振る。


「ちょっと調べてるから渉くんは先行ってて」

「…分かった。またあとで」


 渉くんが部屋を出て行ったのを見送って、私は改めて机に近づいた。その引き出しを見ながら、最初部屋に入ったときのことを思い出す。

 机の棚は確かにちゃんと見た。ここから金庫が見つかったんだから。でも引き出しはどうだろう、思い出そうとしても全く思い出せない。引き出しを調べてないなんて、そんなのおかしすぎる。

 気味が悪くなりながらも引き出しに手をかけて、引っ張った。錆びていてうまく開かず、身体全体を使って無理やりにでも力を開けてやるとやっと10センチほど開いた。中をのぞいてみるとそこには


「…っ!?」


 思わず机から距離を取った。心臓がうるさい。

 それもそのはずだ、机の中は--血で真っ赤だったからだ。

 誰かを呼ぼうか、今なら渉くんが呼べるんじゃないか、とどこか冷静な目で状況を判断してる私がいるというのに私の本能はじっくり中を見たいとそれだけになって恐る恐る引き出しを再び見た。

 今付いたと言わんばかりの真っ赤な血。引き出しが錆びて開けずらかったというのに血だけ真っ赤なんておかしすぎる。もっと黒く変色してるはずだ。

 それになんだろう、この血、文字になっているような気がする。所々つぶれているけれど、もう少しよく見たら分かるような…。


『おく■まを たすけ■あげて』


『■■■■■ ■■■■■■■』



「…え?」


 もう少しで分かりそうな文字が、一瞬で黒く塗りつぶされた。


 …いや、違った。

 何か黒くて長いものが上から落ちてきて、私の視界自体(・・・・・・)が黒くなったんだ。

 なんだろうこれ。あれ、これってもしかして。



 ---髪?





「----ぁ」 


 黒い物体を手に触れようとしたとき、私の意識はずるっと引きずり出されるように遠くへ飛ばされて、真っ暗の中小さくどさりと何かが落ちた。




【ゲームオーバー】


 

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