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02 最初の謎と最初の死

 パッと見た感じはベッドと机があるだけの簡易的な部屋だった。特徴といえばクローゼットがやたらと広いと感じた事ぐらい。この広さなら4人全員入れるかもしれないな、なんてかくれんぼした時の事を考えてしまう。

 どういう部屋なのかはよく分からない。こういう部屋は客間っていうのかな。それにしては少し大きいような。うーん。

 4人でぐるぐるとその部屋を見回していると、メガネくんが突然大声を上げた。


「金庫があったよ!」


 その声に驚いて振り向くと、メガネくんは机の棚を見ていた。何かの本が並んでいたはずの棚だけど、本をどかした先には小物が入るぐらいの小さな黒い金庫があった。


「開くか?」

「ううん、ロックされてる。3ケタの数字が分からないと開かないみたいだ」

「ちぇっ」


 大将くんは苛立った様子で探索を続けた。金庫が簡単に開いたら意味ないんじゃ、と苛立つ理由が分からず私も引き続き見ていると、足元にどこからか紙がひらりと落ちてきた。


「ん…」


 二つ折りにされた黄ばんだ紙。拾って中を見てみると綺麗な字でこう書かれていた。


『日々を重ねよ』


「………?」


 何かの教訓だろうか。あ、それとももしかしてパスワードのヒントになってるんだろうか。意味は分からないけれど、大将くんやメガネくんに見つかったら何か面倒くさい事になりそうなので誰にも相談せず、一応自由研究用に持ってきたノートにはさんで鞄に入れた。

 それ以上は何もないと判断されたのか大将くんはいこーぜ、とみんなに声をかけてその部屋を離れた。


「んだよ、それらしいもの置いといて何もなしかよ」

「死体とかあったら一気に事件性増すのにね」

「や、やめてよ気味悪い!」


 さっきの紙の意味や最初に頭に浮かんだ白い文字の事を考えたながら歩いていると、香菜子がぎゅっと私の手を握った。私が無言で握り返すと少し安心したように笑ってくれた。…早く出たいな、香菜子の為にも。


 また少し歩くと同じような部屋が2つ3つ続き、その部屋には金庫すらなくて大将くんの苛立ちを増幅させるだけだった。ああこのままだと八つ当たりされちゃうな、やだな痛いの、とやや大将くんから距離をとって歩き続けてどれぐらい経っただろう。やっと1番奥の部屋に着く事が出来た。部屋に入る前に、気になるものを見つけたのでみんなで足を止めた。


「高そうな鎧だなぁオイ」

「西洋甲冑だね」

「こわ…動き出しそう」

「のぞむところ、だね」

「過去最高な笑顔で過去最低な事言うんじゃないわよ」


 1番奥の部屋の真正面に置かれた西洋甲冑。銀色に光る鎧を持ち、実際に切れそうな剣をも持ちながら姿勢良くその場に立っていた。いかにも動き出しそうな心霊アイテムだ。…でもこんな真正面に置いてあるなんてなんだかこの部屋を守ってるみたいだ。

 そんな不思議な感覚を感じながらじっと見ていると、大将くんが行くぞとまたみんなに声をかける、その時。



「っが…!」


 鎧がすごい速さで動いたような気がした。そう思った瞬間には遅かった。目の前で起こった惨劇。誰かが苦しむ声と誰かの悲鳴。頭に溢れ出す疑問。


 …どうして?

 どうして鎧が動いたの。

 どうして鎧の持っている剣が大将くんに刺さっているの。

 どうして大将くんは血が出てるのにピクリともしないの。


「どう、して」

「とっ透っ逃げなきゃ!」

「だって…大将くんが」

「そんな事言ってる場合じゃない!」


 状況がうまく理解できずに立ち尽くしていると、香菜子に引っ張られるようにそこから逃げ出す。鎧は大将くんから剣を引き抜くと、歪な音をたてながら猛スピードで私達3人を追ってきた。あんなに重そうなのに、早い。これでは追い付かれてしまう。


「お、おって、おってきた」

「いやあああぁぁ!」

「うわあああぁぁ!」


 わけの分からない事を叫びながら、小さい赤ちゃんみたいに泣きながら、出来る限りスピードを速める。なのにどんどんと差は縮まっていってしまう。


「ぎゃあっ!」

「っ!」


 後方でメガネくんが叫ぶ声がした。でも振り返る余裕なんてない。むせかえるような血の臭いをかぎながら香菜子と玄関までたどり着いた。走った勢いで扉にぶつかるように開ける。けれど、入った時はあんなに簡単に開いた扉はびくともしなかった。


「うそなんで…!? 鍵でもかかってるの!?」

「香菜子!」


 開かない扉の前で止まった私達に鎧はすぐ追い付いた。赤く染まった剣が香菜子へと飛んで来る。成す術もなく悲鳴を上げて赤く染まるただの塊になった香菜子を目の前で見て、私は声を上げる事もできず固まった。

 最後は、私だ。

 目は逸らせなかった。香菜子から引き抜かれて私に振りかぶられた剣は一瞬で分かるほど真っ赤な血でベタベタだった。

 3人の血。

 −私で、4人の血。


 ああこんな急で一方的に始まった虐殺を見て、私は、何もできずに、



 殺された。




【ゲームオーバー】



**Now Loading**



「………ん」


 ふと目を覚ました時、私は暗闇の中で横たわっていた。何の灯りもない真っ暗な空間なのに、自分の身体だけは見える不思議なところ。

 どこだろうここ。

 私は何をしていたんだっけ。

 そう考えた瞬間に血の臭いを思い出して吐き気を感じた。


「う、…ぐ」


 そうだ。私は鎧に殺された。動くはずのない、生きてるはずのない化け物に殺されてしまったんだ。大将くんも、メガネくんも、香菜子もみんなみんな…。

 吐きそうなのを涙が滲んみながらも我慢した。しばらくして、そういえば死んでしまったのならここはどこだろうと思ってふっと頭を上げた時、目の前にはいつからか白い文字が現れていた。



 →はじめから

  あきらめる



「これは、」


 どこかで見た事のある文章。そうだ、これはお屋敷に入る前に頭に浮かんだ言葉だ。

 なんなんだろうこれは。

 ここは天国でも地獄でもないのだろうか。


「っ!」


 意味が分からずただ白い文字を見ていると、新しく白の文字がパッと現れた。



 〜ゲームのご説明〜



「げー、む?」



 〜呪われた屋敷に好奇心で忍び込んだあなたと友達は、屋敷に閉じこめられたてしまいます。そこでは怨念を持った霊が成仏出来ずに苦しんでいました。あなたは霊から逃げつつ屋敷から逃げ出す方法を考えます。部屋を探索しつつ霊に殺されないようにし、無事にみんなで屋敷から出ましょう〜


 〜なお、エンディングはトゥルーエンドとエンドA、B、C、D、E、の全部で6つ。このゲームを終了する為にはトゥルーエンドを目指さなくてはいけません。またプレイヤーはあなたお1人ですが、友達が1人でも死んでしまった場合そこでゲームオーバーとなります。ご注意下さい〜


 →はじめから

  あきらめる



 読み仮名をふられた説明文を全部読むと、白い文字は既に最初のものへと変わっていた。しかし、うまく意味の理解できない私は、ぽかんとしてしまったままどうすればいいのか分からず動けなかった。

 ゲーム?

 エンド?

 そんなのおかしい。私達はゲームでもなんでもなく本当に現実でお屋敷に入ったのに。どうしていつの間にかゲームをしている事になっているんだろう。


「………、うん…?」


 考えても考えても分からない。とにかく、私はこれ以上あまり考えたくなくてみんなの居る場所を願った。こんなに暗く寂しい場所じゃなくて、みんなのところに戻りたい。



 →はじめから



「わ…っ!」


 すると文字は“はじめから”だけになって、突然白い光が暗闇を包み込んだ。



**Now Loading**



 誰かが私を呼ぶ声が聞こえる。聞き慣れた、少し厳しい声。

 私はいま、どこにいるんだろう?


「…る、おる、透ってば!」

「っ」


 聞き慣れた声がしてハッとなり目を開けると、そこはさっきまでのお屋敷の玄関で、目の前には香菜子が心配そうに私を見ていた。その姿に重なるように血まみれの香菜子がふっとあらわれて見えて、思わず後ずさりしてしまった。


「…か、香菜子、大丈夫?」

「は? それはこっちのセリフだってば。ぼーっとしちゃって」

「………」


 香菜子に目立った傷はない。血も出てない。その目はちゃんと私を見ていた。…よかった。

 さっきまで見ていたものは夢か何かだったと自己完結して、それよりも早く帰りたいと香菜子の手を引いた。


「…ね、そろそろ帰ろう。ここ危ないよ」

「え?」

「扉が開かないなら窓で…」


 今度はお兄ちゃんとかちゃんと大人の人と来ようと強く思い、大将くんやメガネくんを見付けるために辺りを見回していると突然香菜子が吹き出した。可笑しくて仕方ないみたいにお腹を抱えて笑う親友の姿は珍しく、驚きながらも黙ってただ見ていた。するとやがて落ち着いたのか、香菜子はぽんぽんと私の肩を叩く。


「ご、ごめん、意外すぎて」

「…うん?」

「だって」


 ひと息。


「私達まだここに入ったばかりじゃない」


 え、と口から漏れる。

 入ったばかり? でも左の廊下は奥の部屋意外全部調べたはず。金庫も本棚の後ろに見つけたはず、何かのメモも見つけたはず。たいして時間をかけていないとはいえ、それでも30分は絶対に経っているはず。怖いものが嫌いな香菜子なら30分なんて耐えられないはずなのに。

 困惑する私をよそに香菜子はまさか透が怖いもの苦手とはねー、といって笑っている。


「バカ達はもう左の廊下の部屋から片っ端で調べてるから私達もいこっ」

「…でもそこ」


 もう調べたはずじゃ、そう言いたいのに言えない。言いあぐねていると、それを怖がっていると思った香菜子がまた笑う。


「あははっなんだ透も怖がりだったのね。大丈夫、アタシもついてるよ」


 そう言って香菜子は石のように固まって動けない私を無理やり引っ張って最初の部屋に入る。そこは1度見た事のある部屋だった。



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