17 死の理由
はじめから
→つづきから
あきらめる
暗い、暗い、暗闇。そうか、またここに来てしまったのかと気だるく思う。寝転んだまま、お腹をさすってみたが痛くない。けれどメガネくんに刺されたショックで胸が痛い。
あきらめて、しまおうか。
………。
「…早く続けなきゃ」
へこたれる、もんか。苦しんでいる人達を成仏させて、絶対帰るって決めたんだ。
起き上がって進もう。
**Now Loading**
「やっていい? ねぇ僕がやっていいよね?」
「はいはい瞬の好きにしろよ」
部屋に入ったところから始まってまたここに来た。渉くんから絵も貰ったしさっきの通り。でもここからさっきの通りにする訳にはいかない。
メガネくんにしてもらう
→自分でやる
「私にやらせて」
「え、透が?」
「珍しいわね」
ずずいっと前に出てそう言うとメガネくんは驚いて振り返った。不満半分驚き半分な表情だ。うまい事言わないと譲って貰えないかもしれない。…頑張ろう。
「ほらメガネくんゲーム得意じゃない」
「ま、まぁね?」
「メガネくんがやったらすぐクリアしちゃうから、その前に私にやらせて欲しいなって」
人生最大の嘘を吐いた。特にやりたくない上メガネくん滅茶苦茶このゲーム苦戦してたのに。棒読みになってないことを祈るばかりである。
困ったように眉間に皺を寄せているメガネくんだったが、やがて仕方ないなと呟いてパソコンからどいた。
「透がそこまで頼むなんて珍しいし、譲ってあげる」
「ありがとう。…良かった」
「良かった?」
「あ、何でもないよ」
本音が漏れてしまったと慌てて首を振ってパソコンの前に座る。操作説明をじっと見つめ、さっそく始めてみた。
メガネくんがあれだけ苦戦してたんだから簡単にクリアできるとは思わないけれど、最善を尽くそう。よし。
〜10分後〜
「透、目が死んでる」
「……渉くん…」
駄目だ、出来る気がしない。そもそも私ゲーム自体苦手だったのにこんなの出来る訳ない。そろそろ目も痛くなって来た。
ごしごしと目をこすっていると、渉くんはふっと笑って私の頭を撫でた。
「貸して、俺もやってみる」
「難しいよ」
「だいじょーぶ、こういうの案外得意だし」
渉くんは私を足で挟むように後ろに座って、タタンと軽い手つきでキーボードを叩いた。もう何十回も聞いたスタートの音が鳴った。
「よ、ほっ」
「………」
…すごい。意外なほど素早く敵を撃ち落としていく渉くんに驚いた。まるで何回もやった事のあるようなスピードで、いち早く敵に気付いて落とす。…本当に得意だったとは。
しばらく撃つ、避けるを繰り返して、5分も経たないうちにクリアしてしまった。
「よし、クリア!」
渉くんがそう言うとわっとみんなが集まって来た。偉い偉いと渉くんを叩く大将くんと香菜子とは違ってメガネくんは不満そうだ。
「透の次は僕だったのに」
「ご、ごめん…」
「まぁクリアしたんなら良かったよ。で、何かデータはあるの?」
すぐに機嫌を取り戻したメガネくんはゲームなんて忘れたようにフォルダを漁り始めた。
けれど苦戦した割に情報量は少なく、『日記』のフォルダと『***新聞』のフォルダしかなかった。拍子抜けだ。
「新聞ってなんだよこれ」
「じゃあ先にこっち見てみようか」
カチカチッとクリックの軽快な音が響いてフォルダが開く。中にはある日の新聞の切り抜き画像が保存されていた。
日付は、今年の冬。
「…夫妻変死、事件?」
**市に住む滝川さん夫妻とその家に住み込みで働いていた1名の男性が遺体で発見された。名前は滝川芳彦さん(46)、滝川蛍さん(41)、吉田志郎さん(32)。第1発見者は夫妻の息子で、学校から帰宅した際発見したと言う。犯人の身柄は未だ捕獲しておらず警察は遺体の状況から複数での犯行と見て捜査を
そこまで読んで、大将くんはフォルダを消した。
空気がしんと静まり返り、メガネくんが震える声で呟く。
「この記事って…ここの事だよね?」
「な、何かの間違いですよ、そんな話聞いた事ないですよ? さ、3人も殺した犯人が見つかってないなんて」
「お、俺達が今まで見てきたのって…その、」
そこまで話して香菜子が遮るように悲鳴を上げた。
「や、止めましょうよもうこの話は! 早く出る方法探さないと!」
「………」
香菜子の悲痛な叫びにみんな無言で頷き、パソコンから散り散りに離れていった。私だけ、パソコンから目が離せない。
…予感が確信に変わった。ここにさまよってる人達は、みんな殺されてしまっていた。誰に? そんな事、分からないけれど−−「あかね」ちゃんではないかなんて考えている私が居る。
“霊は人を殺せる”。そんな事もう十分知ってる私には、それが不可能ではないと分かっている。それにさっきの日記に『死んだけど居る』なんて書かれていた。
もしかして、もしかすると、「あかね」ちゃんはまだこのお屋敷の中に−…
「? どうしました?」
「!」
無意識のうちに茜ちゃんを見てしまっていたらしい。ぱちりと目が合って首を振る。
まだ疑ってる自分が恥ずかしい。そんな訳ないのに。
気を取り直して、私だけでも日記を見てしまおうとマウスを操作してフォルダを開いた。
日記は、先ほどの日記に繋がるように6月22日を記していた。
□6月22日
茜が死んで1日経った。
まだ母さんは泣いている。
父さんも泣いている。
茜が死んで、みんな泣いている。
でもさ、今日は何の日かみんな忘れちゃったのだろうか。
昨日から容態が急変したから、みんな慌てて抜け落ちちゃったのだろうか。
今日はおめでとうって言う日なはずだろう。
死んでしまった事を嘆くよりも、生まれてきてくれた事に感謝を俺はするよ。
誕生日おめでとう茜、頑張ったね
「…おる、透?」
「えっ」
「もうここは出るわよ?」
「…あ、うん、分かった」
ぼうっとしていた頭を振り急いでフォルダを閉じ、香菜子に続いて部屋を出る。
日記を読んでいる最中、もしかしたらと思う事があった。でもそのもしかしたら、はとても良くなくて。あってほしくなくて。
そんなわけない、そんなわけない、そう頭で繰り返し唱えてドアを閉じた。
まさか、そんなわけが、