16 中毒症状にご注意
見つかった鍵がどこの部屋なのか調べるのは後回しにして、先に開けた部屋へと入った。
入った部屋には教科書や漫画の詰まった本棚、パソコンの置かれた机など、いかにも学生らしい部屋になっていた。最初は「あかね」ちゃんの部屋なのかと思ったけれど、小学生の部屋にしては大人すぎる。教科書も難しすぎて分からなかった。それにどちらかというと男の子よりな部屋のような気がする。
やっぱり何か勘違いしている気がする。何か忘れているような、そんな−…
「あれ」
ふとあるものが頭によぎって鞄を漁った。書斎で見つけた日記を取り出し、再度読み返す。
■月 18日 くもり
なんだか最近奥様の体調が悪そうだ、と思っているとなんと妊娠している事が分かった。お祝いの言葉を言うと奥様は嬉しそうにお礼を言って下さった。きっとあの子も喜んでいるだろう。兄弟ができるのだから。
「…………、あぁっ」
「さっきから何なんだよお前は!」
「あ、ごめん、何でもない」
大将くんに頭をぶんぶんと振って、また視線を日記に戻した。
どうして気付かなかったんだろう。この家の子は1人なんかじゃない、2人いるんだ。写真に1人しか写っていなかったから1人だと思い込んでいた。
これで全部すっきりする。恐らく写真に写っていたのはお兄ちゃんで「あかね」ちゃんは次に生まれた子なんだ。
「どうしたの透、すっきりした顔してさ」
「あ、渉くん」
みんな手分けして探索している中、渉くんが近付いてきて1枚の紙を私に渡した。例の絵の1部だ。
「本に挟まってたからあげる」
「ありがと」
これで5枚目。そろそろ1枚の絵になっただろうか。
ノートに挟んだ絵をじっと見ていると、メガネくんが「あ」と声を上げた。
「どうしたんだよ瞬」
「これ、このパソコン」
メガネくんが得意分野であるパソコンを指差して、みんなに見せる。画面は読み込み画面になっていた。
「ロックかかってたけど寝室で見つけた数字の『1022』ってうったら解除された」
「パソコンのパスワードだったわけだな」
ロックがかかっているなら何か重要な事があるだろう、とみんな食い入るように読み込み画面を見つめ、ちょっと経った頃にパッと画面が切り替わった。
同時にチャンチャカチャーン! と音が鳴りだした。
「わぁっな、何ですか!?」
「…うん?」
表示された画面はてっきりデスクトップが出てくると思っていたのだが、出てきたのはゲームの画面だった。軽快な音楽と共に、シューティングゲームの操作説明が表記されている。どうやらゲームをクリアしないと好きにいじらせてはくれないらしい。
「…げ、ゲーム? 何よもう、期待させといて!」
「びっくりしましたよぅ…」
がっかりする女性陣と違って目を輝かせるのは男性陣。特にメガネくんだ。
「面白そうじゃねーか」
「やっていい? ねぇ僕やっていいよね?」
「はいはい瞬の好きにしろ」
やった事のないゲームに胸踊るメガネくんだったが、私はなんとなく嫌な気分だった。宴会場でメガネくんのゲームに対する執着心を垣間見たからだろうか。このままやらせていいものなのか、疑問が湧く。
→メガネくんにしてもらう
自分でやる
まぁでも私パソコンゲーム苦手だし、ここはメガネくんにしてもらうのが1番良いだろう。ここは任せて私も他を探索しよう。
そう思って、本棚をはじっこからパラパラと捲った。
**Now Loading**
本棚を全て見終わってメガネくんの様子を見ると、まだゲームはクリアできていないらしかった。メガネくんが手こずるなんて珍しい。
「メガネくん、どう?」
「案外難しいよ。でももうすぐできる」
「……そっか」
画面に反射してメガネが光り、彼の表情が見えないことがなんだか怖い。気にしないようにして、勉強机の引き出しを次の調べ場所にした。
**Now Loading**
机の探索が終わってしまった。けれどまだクリア出来ていないようでメガネくんはパソコンから動かない。大将くんも痺れを切らして唸りながら床に寝転んだ。香菜子も茜ちゃんも渉くんも、暇を持て余しているようだった。
「まだなのかよ瞬!」
「あとちょっと…覚えゲーなんだからあそこさえ出来れば…」
大将くんの声が聞こえているのか聞こえていないのか、どちらか分からない様子でメガネくんはブツブツと何か呟いている。
なんだか、危ない。そう思ってメガネくんの腕を掴んだ。
「ねぇ、ちょっと休憩しよう。そんな根詰めなくても…うわっ」
しかし説得虚しく腕をバッと離され、未だにブツブツと呟いてゲームを始める。
「ちょ、ちょっと瞬? 何そんな一生懸命になってんのよ、落ち着きなさいよ」
「そ、そうだ瞬、ドン引いてるぞみんな!」
駄目だ。香菜子の言葉も、大将くんの言葉も、何1つ届いていない。
まずい−…!
「メガネくん! ねぇ止めようメガネくん! おかしいよ!」
説得なんて甘いものじゃ駄目だと、今度は強くメガネくんを引っ張った。このままじゃ違う人になってしまいそうで、怖い。メガネくんは誰よりも空気を読んで、冷静な人のはず。
戻って来て、帰って来て。
「…透」
「っメガネくん!」
やっとこっちを見てくれてほっとした。ゲームなんて出来なくてもいいと、そう言おうとしてメガネくんの掴んでいる銀色のものに目がいった。
…え、それ、は、
瞬間、ドッとお腹に鈍い衝撃が走った。
「うる…さいなぁ! 邪魔なんだよゲーム出来ないだろが!」
「……、め、がねく…」
自身のお腹を見ると包丁が深く突き刺さっていて、口からは血の味がした。立っていられなくなって、膝をつくと悲鳴が上がる。
「なに…してんだよ瞬!」
「うるさいうるさい! みんなうるさいんだよ! 後ちょっとでクリアできるっていうのに、邪魔しやがって!」
「ぐっ」
ぼやける視界の中、メガネくんの腕が大将くんに当たった。ばたんと倒れる音がする。
「あははは! 邪魔するから! あはははははははは!」
「ひ、…嫌よこんなの、透、透ぅ…っ!」
…香菜子が、泣いてる。
やだな、泣かせたくないな。
そう思うのに、身体に力が入らない。暑くて寒くて痛い。動けない。
ごめん香菜子。
ごめん大将くん。
ごめん、メガネくん。
間に合わなかった、かぁ
【ゲームオーバー】
【エンドC 終わらないネットゲーム】