14 首に伝わる私怨
はじめから
→つづきから
あきらめる
ひゅっと喉から空気が通って思いっ切り咽せた。目の奥から涙が滲み、下に滴る。
もう何回死んだのか覚えていないけれど、過去最悪の死に方だった。苦しんで苦しんでやっと死ねた気がする。
暫くはゲームを再開する気がおきず、はぁと寝返りをうった。
「ごほっ…」
女性を思い出す。あの鎧の人とは違って、誰かに対する明確な殺意があった。そして「貴方」と恐らく旦那さんを悔やんだ声を出していた。「めちゃくちゃにして」とも言っていた。
「………、まさか」
このゲーム、もしかしたら誰かが屋敷のみんなを殺した事件性のある物語なんじゃないだろうか。
死んでしまったのは病気か何かかとぼんやり考えていたけれど、冷静に考えればお母さんもお父さんも更には屋敷で働いていた人も未練が残って屋敷に出るなんておかしい。宴会場でのシミも気になる。
………。
「…駄目」
やっぱり駄目だ。
こんな風に考えるのはやめよう。私は未練のある人を成仏させるのが目的で、どうして死んでしまったのか考えるのは大人の人に任せるのが1番。小学生の頭じゃどう考えたって無理だ。
そう考え直してやっと再開すべくつづきからと呟いた。
犯人を知りたかったことが未練な人がいたらその時は−…
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「………」
すっと目を開けると興奮した様子の大将くんがバタバタと横を通り過ぎて部屋を出て行った。部屋にはポツンと茜ちゃん1人が残っている。
あぁここからかと息を吐く。
「茜ちゃん行こう」
「えっあぁすみません今行きま…あっあれすごい」
早めに声を掛けて引っ張ろうとすると、茜ちゃんはすり抜けてキャンパスの方へ向かった。
「…っ」
駄目、そう言おうとした時にはもう女性が茜ちゃんに近付いていた。
「危ない!」
「えっ…きゃあ!」
作戦ぐらい考えときゃ良かったと後悔しつつもがむしゃらにさっきと同じように茜ちゃんを押して、同じように転んで頭をぶつけた。バッと顔を上げると同じように近付く透けた腕。
まただ。
→助けを呼ぶ
抵抗する
「っ助けて…!」
喉を掴まれる前に声を出さなくちゃいけないと、ちょっと掠れながらも叫んだ。準備の出来ていない喉で叫ぶと案外声が張らないものだった。
「うぐ…!」
そのまま捕まれて、床に押し付けられる。これじゃあさっきと同じだ。やっぱり茜ちゃんが残る事をまず回避しなくちゃならなかったんだろうか。
霞む視界の中、女性を見ると今度はハッキリ顔が見えた。
泣いていた。
涙こそ落ちてこないものの、こんな事もしたくないのにという顔だった。
『なんで…どうして…っ!』
「ぐ…、う、」
『触らないで…っ!』
ぐっと強まってあぁまた駄目だと思ったときだった。
「透っ!」
足音と共に一際大きく渉くんの声が聞こえた。途端に首の圧力が消えて、解放される。同時にキン、と何かが床に落ちた。
「げほげほっ! ごほっ…!」
「透! 透…っ!」
渉くんに首を持ち上げられた感覚がしてふっと目を開ければ、やっぱり渉くんがそこにいた。心配そうな顔をしている。
今この状況でまた助けてくれたんだ、また会えて良かったなんて思っている私はきっとこのゲームのせいで変になってしまったんだろう。
「透…!? ちょっと大丈夫!? 何があったの!?」
「おい大丈夫かよ!」
遅れて3人が来てくれて、大丈夫と言おうとしたが声が出なかった。
のびていた茜ちゃんも周りの騒ぎで気が付いたらしくガバッと起き上がった。
「どどどうしたんですかいきなり!? ってあれ? 皆さんどうして戻って来てるんですか?」
「君も何も知らないんだ…。透、ほんとに何があったの?」
「……、じょせい、が」
メガネくんにそう聞かれて、やっとちょっとだけ喉が回復してきた。
「透、無理に喋らなくていいわよ」
「大丈、夫、渉くんも、もう大丈夫」
「………」
ぽんとぎこちなく身体を叩くと渉くんは不安そうに私から手を離した。私は上体だけ起こして壁に身体を預けた。
「女性が、急に襲ってきて、それで首を…」
女性が居たところを見やると黒色の鍵が落ちていた。今まで見た部屋の鍵とは違って、短くてアンティークのような模様が施されている。
渉くんがそれをすっと拾って渡してくれた。
「な、何だか分かんねーけどあれだな、怨霊ってやつだよな」
「…分からない」
「絶対そうだよ透。何かしたんじゃない?」
「………」
思い当たりはないけれど、しいていえばキャンパスに触ろうとした事ぐらいだろうか。でも確か絵画が趣味なのは男の人の方だと思っていたんだけど。記憶違いだっただろうか。
「わ、私が身勝手な事したからですよね! すみません!」
「ううん、大丈夫」
ぐっと立ち上がって、ふらつきながらも渉くんが支えてくれてなんとか立てた。
「次、行こう」
「…で、でも大丈夫かよ」
「うん」
なるべく笑顔でそう言うと、大将くんはみんなと顔を見合わせて頷いた。察してくれたらしい、長い付き合いで良かった。
「無理そうだったら言えよ」
「絶対我慢しないのよ」
「これからは休憩ちょくちょくいれよう」
「ありがとう」
みんなの優しさが嬉しい。
渉くんだけは何か言いたそうな顔をしていたが、結局何も言わず口を噤んでただ私を支えてくれていた。
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ガチャンと音がして鍵が開く。後ろでも同じ音がして同じく開いたみたいだ。見つかった鍵両方2階の部屋のものだったらしい。
とりあえず階段に近い部屋から、ということで別々にはならずみんなで鍵の開いた部屋に入った。
大人の女性らしい落ち着いた色の部屋だった。机にはピアノの楽譜や音楽に関する本がどっさりと積まれていて、ピアノが好きだったことが分かる。ノートにも自分で作曲したらしい書き掛けの楽譜があった。
みんなが本棚や机を調べている間、私は座りながら自分のノートとメガネくんに借りた地図のメモを見る。情けないことにまだ動き回ると吐き気がするので、整理がてら休憩させてもらう事にした。
じっと自分のノートのメモを見て地図と重ねてみる。
見つかった鍵は全部2階で使えた。今持っているのは小さい鍵と『1022』というパスワードだけ。
まだ見ていないのは、さっき開いた部屋以外にはキャンパスのある部屋(恐らく旦那さんの部屋)の隣と今調べてる部屋の隣とその向かい。あと3階だ。
「ひ、ふ、み…うん」
鍵すら見付かっていないのが3部屋以上。色々見て回ったと思ったが、まだまだらしい。頑張りが必要、と結論付けてノートを閉じた。
そろそろ私も探索に参加しようと立ち上がった。うん、大分回復したみたいだ、ふらつきもしない。
「大丈夫? 透」
「うん、もう全然」
机を調べる香菜子に並んで私も机を調べることにした。本と楽譜を分別しつつ何か目新しいものはないかと見ていると、深緑の分厚いノートが出て来た。ぱらっとちら見する分に、どうやら日記だった。1度日記に謎解きが関わっていたこともあり、詳しく読むことにした。