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新宿地下迷宮3

誤字脱字などあれば教えてくださ~い。

「・・・やはり、おかしいな」

そう口に出したのは最初の狩りから更に1時間が過ぎてからだ。

最初の予想と違い、狙っていたモンスターが現れない。

これほどのオークの血臭が漏れているのに。


さっきはこんなこともあるかと流してしまっていたが、そもそもこの地下3階層に出没するモンスターにオークがいたのは初めてだ。


今日を含めて4度来ているが、この場所に出没するのはワームと言われる2m~6mほどの体長を持つミミズ状のモンスターだけだった。

こいつは目が退化しており、音と匂いだけで獲物を認識し襲ってくる。

知能は無いに等しく、ほとんど本能だけのモンスターだが、代わりに生命力が驚くほど強い。

急所である脳幹を仕留めないとなかなか死なない。体を切断されても頭部が残っていれば数分で傷がふさがり回復するほどだ。


そして俺が迷宮の地下3階層なんぞで天井に穴まで開けてワームを待ち伏せしているのは、こいつらが特に狩る相手としては美味しいからだ。

普段は地中にいるため倒しにくいモンスターの代表格なのだが、普通にはい出してくるこの場所では別だった。

ワームは、


1・短い育児期を除けば、ほぼ単独で行動していて1人で狩りをする俺には都合が良かった。

2・迷宮の地下生物を糧にするため壁面から出没してくるため視認さえすれば簡単に見つかる。

3・壁際からの突然の奇襲にさえ気をつければ動きは遅く単純で危険が少ない相手。

4・そして何より地中生物の生態上、長生きしている個体が多くアストラル石が大粒に育っている確率が高いのだ。


俺がこの狩り場を見つけられたのは偶然による幸運だった。

関東地区人類領域の最前線とまで言われる城塞都市からでも、かつての新宿地下街は徒歩なら3時間ほど離れている。

だがだからこそ冒険者の格好の稼ぎ場所でもあった。

流石に旧世界の遺物は取りつくした感があるが、広大な地下街でモンスターが多く異常繁殖しているのだ。

冒険者を運ぶための輸送馬車も既知の入り口近くまで複数が毎日定期運行している。


とはいえ随所での崩落や知恵のあるモンスターによるバリケード・新しく掘られた通路などもあり、かつてとは構造が複雑に変わっている。

またそのため地下に降りるための過去の入り口も多くが断絶していたりもして、迷宮に潜るたいていの冒険者は既知の少数の進入口から入っていくしかなかった。

何をかくそう最近までは俺もそうだったのだから。

そこまでしてやっと命がけで資源(主にモンスターのアストラル石)を他の競争相手と奪い合うわけだ。


それでも地表で勝てそうなモンスターを当てもなく探すよりも迷宮で出会うほうが確率はずいぶん高いし、上手く勝ち残ればアストラル石は高値がつくので、充分に日々の糊口をしのげる。

さらに何気なく転がっているかもしれない旧世界の科学による遺産や幻獣界の魔力のある遺品を見つければそれこそ一攫千金であった。

まあ最近は遺物発見までは頻繁にあることではないけれど。


話が脱線した。2ヵ月ほど前に全くの偶然だったのだが、森に埋もれありふれた廃墟ビルの地下からこの3階層に直接繋がっている裂け目を見つけたのだった。

たまたま馬車を使わずに修行気分で走って迷宮を目指したことによる貴重な発見だった。


まあここにオークがいたということは恐らく既知の進入口・もしくはオークの地上の縄張りなどからもここへ来れるだろうが、この辺りは1,2階層のモンスターを突破したうえに更に大きな回り道をしなければ辿り着けないほどの深部だろうとは思っていた。


それは今まで他の冒険者に出会わなかったし、何より旧世界の遺物が通路に普通に落ちていたりする。まあ残念ながら大して換金性の高いものではなかったのだが、目につくだけ持って帰っても数カ月分の生活費くらいにはなる量だった。

1人で遺物を大量に売ったことが街で噂になり、この美味しい狩り場が発覚するほうが俺は嫌だったので大半は放ってあるが。

ここを見つけてから妹の環(たまき)には怠けているだけと思われているが、毎日狩りをしないのにも理由がある。

ここのワームを狩りつくすのを避けるためと、アストラル石を大量に持ち込み過ぎて目立つのを避けるためだ。


それくらい俺はこのワームの狩り場は大事にし、秘密にすべきだと考えている。

今日でこの場所には4回目だが、ほぼノーリスクのまま獲得金額で30万円を下回ったことがない。

同世代の駆け出し冒険者が運よくベテランパーティに入れてもらい1日潜った時の相場が2~3万円ほどだから、ワームの美味しさは分かるだろう。


それが狩れない異常事態。


確かにさっきの6匹のオークたちのアストラル石・若干の売れそうな装備品・持ち物を手に入れてはいる。最低でも60万~80万にはなるはずで、数字だけ見ればいつものワーム狩りよりも大幅な黒字ではあり幸先が良いと喜んだ。

だが閃光手榴弾で視力を潰してからとはいえ、6倍の敵を1人で相手どる戦い方というのは常に危険性を伴う。確かに素人なら簡単に狩ったように見えただろうが、オークによるまぐれあたりの一撃が致命傷につながるということは当たり前にあるのだ。

迷宮では足裏にトゲが刺さっていたことに気付かなかっただけでも間接的死因になりうる過酷な現場だ。ソロで潜り仲間に頼れない俺にはなおさらである。

だからこそ俺は常に最小限までリスクを減らすよう状況を整えてから行動する。


誤解しないでほしいが、客観的に考えても俺は街にいる大抵のベテラン冒険者並みに強い自信はある。不必要に注目されたくはないので可能な限り隠してはいるが、18歳という若さまで考慮すれば驚異的と言ってもいいだろう。

それは小さなころから血反吐を吐きながら訓練に明け暮れた特殊な生い立ちと、それに関連し身に付けたこの忍者というレアクラスの戦闘技術のおかげではある。


このモンスターが溢れる迷宮で戦闘行為を取捨選択できるほどの隠行技能、ベテラン前衛職並みの攻撃力と回避力、さらに気を利用した忍術と呼ばれる特殊な術まで使える。(これは魔法以上に疲労が強くソロ探索での多様は禁物だけれど)

恐らく正面から堂々と戦うというなら忍者より有利に戦える前衛の戦士職クラスは多くある。

だが何が起こるか分からない迷宮や、最初から多対一を想定したような過酷な状況に置かれた場合、逃げ脚を含め忍者以上のサバイバリティ|(生存能力)を持つクラスは他にないだろうと俺は思っていた。

そしてそんな考えが骨身の染みついているからこそ俺は慢心はしないし、より効率のいい稼ぎ方を常に考えてきたのだ。


最小の掛け金で最大の報酬を!というやつだ。オークでは次に来た時にも通りがかってくれる間抜け集団が必ずいるとは限らない。

しかしこの場所は最小リスクでワームがいつ来ても狩れる、金のなる木・金の卵を産むニワトリだったのだ。

もしこの場所の生態系や縄張りがワームからオークへと変わったというなら、・・・正直言って足元が崩れるほどの大打撃だ。

稼ぎ方を根本から考え直さねばならなくなる。


「今日がたまたまってこともあるが、・・・探ってみるか」


おれは焦りとともに静かにつぶやいた。






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