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新宿地下迷宮1

音も無く濃い影が暗闇の中を流れる。


崩落などで光が差し込む地下一階層ならまだしも、すでに三階層。


見えるのは完全な暗闇だけである。


だが瓦礫ばかりの通路ながらも足場を踏み外すこともなく、影は驚くべき速度で疾走していく。


頭部に付けた暗視ゴーグル(ノクトビジョン)がなければとても無理だろう。


発掘で見つかった技術で作られた再生品の中でも最高性能モデルの逸品。


光増幅率は5万倍にのぼり、今もわずかな光を増幅し緑色の視界ながらも有効視認距離30mを鮮明に確保していた。




やがて影は目的の十字路に差し掛かるとほんの数動作で速度を殺し、足を止めた。


暗視ゴーグル(ノクトビジョン)を外して胸元から何かを引きずり出す。


右手を動かすと白い光がわずかに周囲を照らし、移動中も出来る限り絞っていた気配を戻すと、


一拍遅れて慌てて周囲のネズミに似た小生物や昆虫が暗がりに逃げ出していった。


瞳に映ったのはただの廃墟。


新宿地下迷宮、かつては無数の連絡通路が連結し毎日何十万人の喧騒ににぎわった新宿地下街の跡地。


こういった地下世界と地下世界を繋ぐための移動トンネルは関東中に広がり、その総延長距離は数百キロの規模だったという。



すでに人類はこの場所を追われ、今となっては随所で崩落もあり危険な生物がすみつく遺跡、または魔窟と化している。


たまたま訪れた者だけが、かつての繁栄の規模に驚くだけだ。


胸元にあるLEDペンライトの小さな明かりだけが歴史の闇にわずかな範囲で抵抗をしていた。





暗視ゴーグル(ノクトビジョン)を外して現れた目は予想以上に精悍で、ほんの少し何かが浮かんでいた。身長は180cmほどの中肉中背。

紺を基調とした体に張り付くような軽装からでも、しなやかな筋肉のふくらみが見てとれる。

動きやすさを優先した装備なのだろう。要所要所での補強はあるが、覆うようには金属類はついていない。服装と同色にした紺色のリュックサックを背負っており、その黒い瞳以外を頑なに隠すように顔にスカーフを巻いていた。

佐藤 (かける)である。妹と話していた時のような弛緩した空気はない。


ここまでの走りはいつもより速度を上げたものだったが、光より音に敏感なはずの地下の小生物すら気付かずにいた。


自分でもむしろ足音は消せていたように思う。


体重を分散させた特殊な歩法にも理由はあるが、先日見つけた低反発素材で仕立て直した靴底のおかげも大きいだろう。


おかげで相手に気付かれる前に身を隠すことで無駄な戦闘の回避に成功していた。


ソロでの探索に穏行は何より必要な技能だ、強化できたのは純粋に嬉しい。


頭を切り替える。本日の狩りはここからだ。


すでに天井も所々崩れ落ちているが、壁のわずかなくぼみを利用して駆け上がり、以前に作った穴から天井のわずかな空間に体を入れ、うつ伏せに横たわる。背のリュックは一旦外し、いつでも確認して中身を出しやすい位置になるよう目の前に置く。


LEDの明かりを消してから、暗視ゴーグル(ノクトビジョン)をかけ直すが帰りの電池が心配なのでスイッチは切ったままにしてある。


獲物は視覚では無く気配だけで充分とらえられる。それからスイッチを入れても遅くない。


目をつぶり、ゆっくりと深く呼吸を沈めていく。


しかし最後までは手放さずにひとかけら残すイメージ。


一般に言う気配を消す、気配を殺す。


どの戦闘指南書にも良く書かれることだが、生きている限り完全に気配を無くすことは不可能だ。


なぜなら万物に宿る気とは、生物に必ず必要な呼吸から生まれるものだからである。


肺から取り入れた酸素が血液と結合し、それを供給された数10億個の細胞ひとつひとつから生じるエネルギー。


その大きくなった集合体こそが気である。


気は命の根源にして肉体の維持に欠かせないもの。だからこそ生物に止めることは出来ない。


されど独特の呼吸法により回数を抑え、息をひそめることで気の漏れは大きく抑えられる。


他者に感知されにくいまでに気の漏れを小さくする。これが俗に言う気配を消すである。


すでに何度も行なってきた慣れた動作でありながら、この場所で緊張を無くすことはない。


達人が気配絶ちを行えば心臓の鼓動すら遅らせ、脈拍すら大幅に低下させることが出来る。


それでいて意識は覚醒状態に置くので半仮死状態であり、もし目の前を小生物が通って俺に気付いたとしても死体としか認識しないだろう。


まあその時は齧られる前になんらかの対処はしなくてはならないだろうけども。





体内時計で1時間が過ぎるころ東側20m先の小通路からオークの集団が通りかかる。


まだ暗視ゴーグル(ノクトビジョン)は使わず気配だけで探ったが6体いる。


奴らの気配の種類は何度も戦って知っているから見誤ることもない。



オークとは醜悪な豚に似た顔の2足歩行ができる亜人種だが、太陽の光を嫌い群れで行動する。魔界起源の生物では無く、あれでもれっきとした幻獣界の生物として分類されている。


よく同列に比べられるゴブリンやコボルトたちよりも体格が良く人間と身長などはあまり変わらない。


ただ一般的に人間よりも肉体が頑強で多少の知性があり、多くの場合は武装もしているため戦闘力は高いほうだ。


部族によって多少の差はあるが、すべからく他種族に対して排他的であり交流は少なく好戦的で残忍。


特に恐ろしいのは繁殖力。


性欲が旺盛でオーク以外の異種族に対しても子供を産ませることが出来るため爆発的に増える危険性が常にある。


異種族間の場合でも子供は母方の形質は引きつかずにオークの遺伝情報のままで生まれるらしい。


過去には1000匹以上の集団で人間の村落を襲い女性をさらった事例もあるという。


そういえば地上の新宿高層ビルの廃墟群にも、いくつかのオーク部族が集落を作っていたことを思い出した。


だがオークを地下三階層で見かけるのは初めてであり、意外だった。




戦闘をするか少し考えたが、天井からのうつ伏せのままリュックから筒状の何かを取りだす。


閃光手榴弾


これも遺跡物をもとにドワーフ族の職人が、その手先の器用さで解析し再生させたと品といわれている。


爆発時には閃光と爆音の両方を伴う非殺傷兵器なのが一般的だが、こいつは大音量が他のモンスターを引きよせる危険を考慮して、マグネシウム閃光だけに限定している迷宮仕様だ。


爆発すると10m周囲にいる対象モンスターの視界を一時的に奪い、10数秒間無力化することを狙って設計されており、暗闇などで瞳孔が開いている状態で使えばより効果が大きくなる。


特にオークは光を嫌うモンスターだからさらに有効だろう。


2~3匹なら天井から奇襲すれば楽に勝てるだろうが、相手は数が多い。


仲間を呼ばれる危険性もあるので短期決戦を狙うなら出し惜しむべきではないだろう。



すぐ真下を通り過ぎてから、タイミングを見てピンを抜き閃光手榴弾を落す。


床に金属缶がぶつかり、転がる特有の甲高い音が静寂の迷宮に響く。


何事かと素早く武器を構えたオークたちが振り返った。


だがそのときすでに固く目をつむっていたため見えてはいない。


そして天井の自分にも1秒とかからず瞼越しにも大量の白い光を感じた。


複数のオークのけたたましい悲鳴が聞こえる。


暗視ゴーグル(ノクトビジョン)のスイッチを入れて天井の穴から身を乗り出す。


すでに両手には腰から引き抜かれた双刀の小太刀が握られていた。

オークの腕力はプロレスラーくらいを想定しており、一般人はまず勝てません。ただ技やスピード・知性は人間よりも落ちるので罠とかなら勝ち目はあります。佐藤 (かける)はヒューマンとしては強いですが、残念ながら理不尽なまでの強さは持っていませんので常に小手先で楽に勝とうとします。

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