プロローグ1 改定7/30
初投稿です。よろしくです。すみません、読み返して変に感じたんでプロローグ1の一部を妹の視点で書き直しました。
「・・・そろそろ働いてくださいよ、兄さん」
兄の部屋に入り一息で吐きだした。
シングルベット以外に置いている物が少なく何の変哲もない3LDKアパートのひと部屋であった。
本棚だけは壁の一面を使う大きなものだったが、それでも本をしまいきれずに床に平積みになっており足の踏み場は少ない。
さっきのは昼も過ぎたというのにベットの真ん中でシーツにくるまって本を読んでいる兄に向けた言葉だ。
話しかけたのはエルフ特有の尖り耳の形質をもち、高い知性を感じさせる横顔の少女。
黒絹のような柔らかさと光沢をもつ髪はストレートで長さは背中まである。
一般的にエルフと言えば尖り耳と併せて金髪碧眼も大きな特徴だが、彼女は黒目黒髪。
ならば黒髪で褐色の肌を持つダークエルフ族かと思いきや、その肌は白磁の陶器のように滑らかであり、また負けずに白い。
そしてその顔もエルフのように整ってはいたがエルフ形質に根ざす美貌ではなかった。
言うなれば東洋系の顔立ちではあったけれども、むしろそれと尖り耳のほうが自然に感じられるほど調和がとれており美しい。
まあ恐らく日本人とエルフ族の混血であるハーフエルフと思われるが、ハーフエルフでも尖り耳と黒目黒髪の組み合わせは珍しかった。
道を歩けば老若男女を問わず10人が10人振り向くであろう美貌である。
まだ絶世の美女と呼ぶには年のころ12,3歳くらいと幼かったが、近い将来にそう呼ばれることは確実であったし、現時点でも美少女と呼ばれるには充分に値していた。
そしていまその特徴的な大きな瞳は今日こそはこのグータラな兄を働かせるべく熱く燃えていた。
「うむ、それは無理だ」
その美少女の妹をチラリと見ることもなく即答だった。本から目を離してもいない。
「いい加減にしてください。最近は毎日、食べては寝て、食べては寝ての繰り返しじゃないですか?」
「・・・寝る子は育つものだ」
「兄さんはもう18です!最後に探索に出てからもう2週間ですよ?今日が何曜日なのかすら分かってないんじゃないですか?」
「うっ、・・し、失礼な。・・・たしか日曜日だろ?」
「火曜日です!2日もずれてるじゃないですか!」
やっと本から目を離し、すこし気まずそうに妹にその顔を向けた。
こんな時までとは思うのだが、何度経験していてもふいに兄と目が合うとそれだけで胸が高鳴り、努力して怒りを持続させないとすぐ難しくなる。
佐藤 翔(かける)と佐藤 環(たまき)。1年前に街に流れ着いてこのアパートに住み始めた2人の兄妹。兄が冒険者として旧世界の遺跡や地下迷宮に潜って金を稼ぎ、妹はさきざき兄の役に立つようにと9か月前から冒険者養成学校の魔術師養成コースに通っている。
兄である翔(かける)が強いのを私は知っている。
それでいて何も分かっていない二流の冒険者からは臆病者に思われるほど慎重な性格でもあるので、冒険者の仕事で稼ぐこと自体はさほど心配はしていない。
比べるならこの街に来る前の仕事のほうがよほど心配だった。
兄は同じ東洋系だが自分と違い普通の人間の耳。何度、鏡で見比べても容姿はあまり似てはいない。
顔は肉親のひいき目を抜きにしても整ってはいるほうなのだが何故か異性から美形とは意識されないようなのだ。自分と同性の友達は兄に会うと期待値とのギャップで、だいたいがっかりする。
本来は失礼な話なのだが逆に嬉しい。兄の本当の魅力は自分だけが知っていればいい。
兄はそう、良く言えば他人に警戒感を与えずにすむ人の良さがにじみ出ている顔。悪く言えばどこか抜けて見える垂れ目顔。
自分がどちらかと言うと吊り目に近いきつい顔立ちなので、余計にそう思えるのかも知れない。
言われなければ動かない怠け者だけど、それでも兄は誰よりも凄い。
いざというときの兄のカッコよさを知っているのは、この街でも妹である自分だけでありそれが環(たまき)の秘かな優越感でもあった。
ただ自他共に認める重度のブラコン視点で見ても、今日は無精ひげまで伸び放題で日常比3割増しにだらしなく見えるようではあった。
「環(たまき)、まだ金はあっただろう?」
「ありますけど・・・、お金はいくらあっても困りませんし・・・」
数ヶ月前から我が家は急に羽振りが良くなった。兄がなんでもレアモンスターを狩りやすいポイントとやらを見つけてきたのだ。
それは良いことなんだけれど、それまでは1日仕事に出て1日休むのローテーションだったが、あまり仕事自体に出なくなった。
最初は兄との時間が増えて喜んでいたんだけど、放っておくと本当に部屋にこもって、何をするわけでもなくごろごろしたまま数日を過ごすので、怠け者気質があるのは知っていたけどここまでとは思わず呆れてしまった。
さすがに放っておけないので、口を出すようにしている。
「なにより・・・、2人の将来を考えても今のうちから兄さんの教育・育成が必要だと思うんです」
「・・ふ、2人の将来?・・・きょ、教育・育成?」
兄がちょっとひきつった顔をするが私は止まらない。
「私と兄さんの結婚式ですよ!盛大にやりたいんです。アパートから抜け出して新居を買うのにも、どこかの自治都市の市民権を買うのにも貯金は必要です。あと結婚後の生活設計まで考えて・・・、やっぱり知識を生かした冒険者相手のお店かなんかを出して、安定した家庭を・・・」
兄は最初は引きつりながらもぼうっと聞いていたが、矢継ぎ早に始まる将来設計に焦りを覚えたようで、寝ころんでいた体勢から慌てて飛び起きてきた。
ちゃんと背筋を伸ばせば長身で180cm近くはある中肉中背。
私はまだ140cmほどなので兄の胸元ほどである。
「まあちょっと待て!・・・環(たまき)。お前は信じられないくらい出来た妹だ。まだ遊びたい盛りの13歳なのに俺の代わりに毎日メシも作ってくれるし、掃除洗濯などの家事も得意だ。なかなか言わなかったが本当に感謝している」
「エヘヘヘッそんな当たり前のことです。・・でもありがとうございます」
すこし照れたように微笑む。
「それだけじゃないぞ。この前の家庭訪問の時でも担任の先生から凄くお前を褒められて兄さんは鼻が高かったぞ。特に魔術分野じゃ開校以来の天才とか噂されているらしいじゃないか?俺が使えないから余計に凄いと思うぞ」
兄以外の前では無表情が多い環(たまき)が、先ほどからまるで春の花が咲いたかのように笑い、喜ぶ。
「ありがとうございます。あと3カ月もしたら卒業です。そうなったら一緒に探索に出て兄さんの助けになって見せます!」
そこで兄は微妙な顔をしたが、まあそちらは3ヵ月先の話だ。今はどうでもいいと思いなおし本命の言いたい言葉を切りだす。
「だが、そうおれは兄なのだ。エルフはともかくヒューマンでは兄弟間で結婚は出来ない」
環(たまき)の顔が笑顔のまま凍る。
だが気を取りなおし兄に食ってかかる。
「そんな!愛があれば乗り越えられる程度の試練です!」
「いや~、愛はあっても兄弟愛だからな。乗り越えちゃダメだろ。人として」
妹は悔しがる表情から一転して開き直り、鼻で笑う。
「く~、引きこもりの兄さんが人の道を語るなど100年早くて、・・・笑止千万ですよ!」
妹からそのNGワードを言われると結構きつい。
「ひ、ひきこもりではない。兄さんはまだ本気を出してないだけだ!」
「何に対してですか?現実を見てください。学校へ行くでもなく定職に就くでもなく毎日探索に出るわけでもない。それどころか食事や買い物以外では外にも出ない。誰が見たって引きこもりですよ!」
愛する妹に言われたのが信じられないっといった表情。まあ実を言うと3日に一回は言われているのだが。
「今日は探索に行く気だったのに、環(たまき)にそんなこと言われて急にやる気無くなったー」
「駄々をこねて嘘を付かないでください。さっきまで寝ころんで本を読んでいただけじゃないですか?それにもう昼過ぎですよ!」
いつもほどは効果的な反論も思いつかず言葉に詰まる。
「・・・もうわかったよ。今から行くよ。・・さすがにお前に引きこもりとか言われるのは・・・、キツイわ」
力なく兄が頷いたのを見て嬉しそうに笑う。
「初めから素直にそう言ってくだされば・・・。じゃあお風呂の用意しますんでお背中流しますね」
その言葉をつい流してしまいそうになったが。
「まてまて、風呂はおかしいだろ?」
「何を言ってるんですか。ヒゲもそらないで探索に行く気ですか?みっともないですよ。それにいつもの迷宮なら2,3日は篭るのでしょう?その間はお風呂に入れませんからね」
「そうじゃない、風呂には入りたい。おかしいのはお前と風呂に一緒に入るのがだ。お前もそろそろ年頃なんだし・・」
「兄さんはさっきあんなことを言っていたくせに13歳の妹に、・・・つい欲情してしまう訳ですね?」
可愛く首をかしげる。
「ばかな!そんなことは断じてない!」
「じゃあなんの問題もないじゃないですか?」
「・・・あれっ?そうなのかな」
そう言って戸惑ってるうちに手を握られ風呂場に連れて行かれそうになったので、1人で入るからと慌てて部屋から追い出した。
お互い色々と残念なところがある兄弟ではあった。
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