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連続投稿になってしまい申し訳ない作品群

月に一度のホットケーキ


 私は料理が得意ではない

 亡き夫の資産が底をつくまで

 食事は専属のシェフに任せるつもりだ


 とはいえ月に一度は

 自ら台所に立ちホットケーキを作る


 とはいえ特別なものではなく

 市販のプレミックスを

 箱に記載されたレシピ通りの材料で丁重に作るだけ

 夫の母がそうしたように


 私は甘いものが苦手なので

 最後のひと手間、ラム酒を加え

 夫の遺影を前にホットケーキを食べるのだ



 夫は資産家の息子だった

 彼の父は会社の創業者だったが

 彼の母が二代目を継いだ


 父親は厳格な人だったと聞くが

 母親は庶民的で息子に優しく

 ときおり家族にホットケーキを作って振舞った


 とはいえ特別なものではなく

 市販のプレミックスを

 箱に記載されたレシピ通りの材料で丁重に作るだけ

 今の私がそうするように



 夫の会社は二度、経営危機に陥っている


 一度目は取引先の倒産による

 債権の焦げ付きで資金繰りが悪化

 心労に倒れた創業者の膨大な保険金が

 命と引き換えに会社を救ったのだ


 二度目は家族経営による杜撰な経理

 順調な時は表面化しなかったが

 景気が悪くなると資金繰りが悪化した



 ある時私は用事があり自宅を離れたが

 忘れ物があり家に戻った

 そこには私をのぞく親族が集められ

 義母がホットケーキを振舞っている


 私は自分の身辺を調査した


 そうか

 そういうことか

 そういうことならば


 二度目の経営危機を救ったのは

 私が名義変更した

 多額の保険金だった

 私のいない親族の集まりで

 ひと手間かけた料理が振舞われてしまったらしい



 私は会社を継がなかった

 元より経営というものに興味がない


 ただ、家族と見なされなくなったことが

 許せなかっただけなのだ


 だから私は月に一度

 好きでもないホットケーキを

 二度と味わえぬ夫を前にして堪能するのだ



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― 新着の感想 ―
私のいない親族の集まりで振舞われた「ひと手間かけた料理」が何とも剣呑ですね。 果たしてどのような「ひと手間」だったのか… こうなると創業者である夫の父の死因も、果たして単なる「心労」だったのだろうかと…
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