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鉄の心臓

フォンの指揮の下、鉄鎖団のコアチームは、トラン上級大将の軍事力の心臓部――**武器工廠ぶきこうしょうの破壊計画を詰めていた。ここは、城塞内の全重火器と弾薬の貯蔵庫であり、トランの軍事力を支える文字通りの『鉄の心臓』**だ。

「工廠の防御は、これまでで最も厳重だ。」ランは、一時的な指令室でホログラム地図を拡大した。「多層の装甲パトロール、音響・地震センサー。そして、トランは外部ネットワークを完全に切断しています。遠隔でのシステム停止は不可能です。」

ジンが地図上の古い排気ダクトを指差した。「正面突破は不可能だ。我々は、廃墟となった旧市街地の地下にある、古い換気システムを通じて侵入する。ラン、工廠の内部換気スケジュールを解析しろ。空気の流れが変わる一瞬が、我々の進入ウィンドウになる。」

フォンは、ジンとミカに目を向けた。「我々は、最小限のチームで侵入する。目標は、主要弾薬貯蔵庫に、最大の爆薬を設置すること。ジン、お前の工兵知識が必要だ。ミカ、お前は後方を固めろ。俺が先導する。失敗は、即座に城塞の半分を吹き飛ばすことを意味する。だが、成功すれば、トランは二度と我々に重火器を使うことはできなくなる。」

作戦は、夜の帳が最も濃くなる時間に実行された。フォン、ジン、ミカの3人は、地下深くの、悪臭漂うメンテナンスシャフトを這い進んだ。彼らの足音は、静寂の闇に吸い込まれていく。

工廠の外部境界線は、予想通り、厳重に守られていた。レーザーセンサー、無人ドローン、そして重装歩兵のパトロール。

フォンは、CQC(近接戦闘)の達人として、パトロール隊員の死角を突き、一瞬の隙を突いて彼らを無力化していった。銃声は一つも響かない。ミカは、彼の背後を固め、静かに敵の接近を警戒した。

最も困難だったのは、最終ゲートの突破だ。

「電子ロックと、5センチ厚の耐爆装甲だ。」ジンが、ツールキットを取り出した。「ランの情報から、このタイプのロックは、内部の冷却システムを短絡させることで、一瞬だけバイパスできるはずだ。」

ジンは、専門的なツールを使い、精密な作業を続けた。彼の指先が、わずかな熱と音を立てながら、ロックシステムを無効化していった。数分後、重いゲートは、ほとんど音を立てずに開いた。

彼らが侵入した主要弾薬貯蔵庫は、巨大な地下空洞だった。何千もの砲弾、対戦車ミサイル、そして大量の爆薬が、整然と棚に並べられている。まさに、トランの軍事力の心臓だ。

「すごい…トランは、ここで全ての弾薬を蓄えていたんだ。」ミカは息を呑んだ。

「時間はない。ジン、核心の区画に、全てのカスタムチャージを仕掛けろ。」フォンは、周囲の警戒に集中しながら指示した。

ジンは、高密度の破壊力を持つ、ランが調整し、ジンが設計した爆薬を、サイロ構造の最も重要な支持柱と、最も揮発性の高い弾薬貯蔵区画に素早く設置し始めた。

そして、危機が訪れた。

「フォン! 予期せぬパトロール隊だ! 奥の区画から、5人!」ミカが警告を発した。

パトロール隊は、侵入者の気配を感じ、懐中電灯で貯蔵庫を照らし始めた。彼らの銃口が、フォンたちへと向けられる。

「ジン! 設置を続けろ! 俺とミカが時間を稼ぐ!」

フォンは、敵の火力を引きつけるために、棚の陰から飛び出した。弾薬の山の中で、激しい銃撃戦が始まった。銃声が響き渡る度に、貯蔵庫全体が、巨大な二次爆発の可能性で震え上がる。

ミカは、狭い通路で敵の突進を食い止め、フォンは、パトロール隊のリーダーを正確に撃ち抜いた。

「ジン! まだか!」フォンは叫んだ。

「完了した! タイマーは60秒! 爆薬が作動する前に、ここから出るぞ!」ジンは、最後の起爆装置のレバーを押し込み、叫んだ。

――カチッ、カチッ、カチッ…(タイマーの音)

3人は、生命の危険を顧みず、開いたばかりのゲートへと猛然と駆け出した。彼らがトンネルを走り抜けるとき、背後から轟音が響いた。

――グオオオオォォォォン!

最初の爆発が起こり、トンネルの壁が激しく揺れた。その爆発は、単なる破壊ではなく、連鎖的な爆発を引き起こす連鎖反応の始まりだった。

彼らが地下深くの避難通路に飛び込んだ瞬間、数秒の静寂の後、城塞全体を揺るがす、想像を絶する大爆発が発生した。

ドォオオオオオオォォォォン!!!

武器工廠全体が、巨大な炎と爆煙の噴出孔となった。弾薬、重火器、そしてトランの軍事力が、全て、炎と爆発の光の中で消滅した。城塞の空は、一瞬にしてオレンジ色に染まり、衝撃波は、下層区全体を襲った。

『第三の灯台』を失った喪失感は、この圧倒的な破壊の光景によって、打ち消された。鉄鎖団は、トランの軍事力を、その心臓部から完全に引き裂いたのだ。

フォンは、ランとカイトの待つ避難所へと戻った。彼の体は血と汗に塗れていたが、彼の目は、勝利の冷たい光を放っていた。

「トランの時代は終わった。奴は、もはや軍事力で我々を抑えることはできない。」フォンは宣言した。「これからは、政治と秩序を巡る戦いとなる。」

武器工廠の破壊は、単なる作戦の成功ではない。それは、旧体制の死の宣告であり、新しい内戦の始まりの狼煙だった。

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