包囲網
夜明けの光が、穀倉地帯の巨大なサイロ群を照らし始めた瞬間、地獄の喧騒が始まった。
複数の軍閥勢力が、組織だった統一性のないまま、同時にコンプレックスへの攻撃を開始した。無秩序な銃声、乱暴な怒鳴り声、そしてトラックのエンジン音が、穀倉の硬い鋼鉄の壁に反響し、防御側の耳を劈いた。
「南西区画に集中攻撃！ 遮蔽物が薄い！」ジンは、鉄鎖団の若い兵士たちを率いながら、必死に防御陣形を再構築していた。彼は、フォンから提供された防御戦術に基づき、サイロと倉庫の間にキルゾーンを設定していた。
防御側は、人数では圧倒的に不利だった。軍閥は、ただ略奪品を求めて突撃してくる、無規律だが獰猛な群れだ。しかし、鉄鎖団の防御は、司令部との完璧な連携によって支えられていた。
『ジン、西側の第二ゲートから、武装車両が接近中。彼らは古いタイプのジャミング装置を使っている。通信が途絶する可能性あり。』
ランの声が、ヘルメットの内線を通じて、正確な情報をもたらす。彼女は『第三の灯台』で、フォンと共に、すべての情報ストリームを管理していた。
「ラン、頼む！ 敵のジャミングに、さらに強力なパルスをかぶせろ！ 彼らの通信を完全に麻痺させるんだ！」フォンが冷徹に指示を出した。彼の目は、ホログラム地図上の敵の動きを追っていた。
穀倉地帯の通信は一瞬混乱したが、すぐに軍閥側の通信が断絶し、鉄鎖団のチャンネルだけが残された。ランのテクニカは、戦闘の不確実性を排除する、最強の武器だった。
「西側部隊、通信断絶を確認！ 敵の動きが鈍った！ 予定通り、ボトルネックに引き込め！」ジンは命令を叫んだ。
ミカは、最前線でライフルの照準を合わせながら、負傷者を手早く後方の安全地帯へと送っていた。彼女の冷静さは、防御側の兵士たちの士気を保っていた。
「ジン、敵が手榴弾を使い始めたわ！ ガンマ-３セクターが危ない！」ミカが報告した。
『ジン、指示を出す。ガンマ-３後方の古い換気口に、手持ちのグレネードを投入しろ！ 爆風で敵の勢いを相殺する！』フォンが精密に指示を出した。
ジンは一瞬躊躇した。それは、自陣の近くで爆発を起こす、非常に危険な賭けだった。しかし、彼はフォンの戦術的判断を信頼した。
「全隊、頭を下げろ！ ３、２、１――」
ジンが投げ込んだグレネードが換気口の内部で炸裂した。爆風は、予想通りガンマ-３セクターから突入しようとしていた軍閥の兵士たちに逆流し、彼らを吹き飛ばした。防御側の兵士たちは、その正確なタイミングに息を呑んだ。
攻撃は、依然として激しさを増していた。軍閥の兵士たちは、人数に物を言わせて、東側の防壁にしがみついてきた。
そして、危機が訪れた。
「ジン！ 東側の古いゲートが破られたわ！ 敵が内部に侵入した！」ミカの悲鳴に近い声が響いた。
数名の軍閥兵が、略奪の歓喜と共にゲートを突破し、食糧倉庫の内部へと雪崩れ込んできた。防御側の線が崩れ始めた。
『ラン！ 東側ゲートのロックシステムを再起動しろ！ 侵入者を内部で隔離する！』フォンが即座に命じた。
「無理です！ ロックが手動で破壊されています！」ランは必死にデータを解析した。
「なら、別の方法だ。ジン、制御室のコンソールから、穀物貯蔵サイロの緊急排出口を開放しろ！ 東側ゲートを、穀物の奔流で埋め尽くせ！」フォンは、非人道的な、しかし最も効果的な戦術を選んだ。
ジンはためらいもなく制御室へ駆け戻り、ランのサポートを受けながら、サイロの緊急排出口のレバーを引いた。
ゴゴゴゴゴォォォ！
巨大なサイロから、数トンもの乾燥した穀物が、破られた東側ゲート目掛けて、雪崩のように流れ出した。穀物の奔流は、侵入してきた軍閥兵たちを押し流し、窒息させ、ゲートを再び穀物の山で封鎖した。
この予期せぬ攻撃により、東側は一時的に静寂を取り戻した。軍閥兵の叫び声は、穀物の山の下に埋もれていった。
「成功だ、フォン！」ジンは歓喜の声を上げた。
フォンは、指令室で深く息を吐いた。
「油断するな。これは、最初の波が引いただけだ。奴らは必ず、より大きな力で戻ってくる。」
鉄鎖団は、多大な犠牲を払いながらも、穀倉地帯を守り抜いた。彼らは、ただ生き残るためだけでなく、市民に食糧を供給するという、革命の基盤を確立したのだ。
しかし、外の暗闇では、軍閥の残党がすでに再編成を始めていた。そして、遠く中央城塞からは、トラン上級大将の忠誠派部隊が、この小さな砦のニュースを聞きつけ、重装甲を連ねて南西へと進軍を開始していた。
穀倉地帯の戦いは、今、第二段階へと移行する。鉄鎖団の本当の試練は、これから始まるのだ。
