穀倉の砦
夜明け前、ジンとミカに率いられた鉄鎖団の攻撃部隊は、城塞南西部の穀倉地帯へと静かに接近していた。巨大な鋼鉄製のサイロ群は、荒廃した景色の中で、食糧という名の巨大な財宝を守る、異様な要塞のようにそびえ立っている。
「ランからの情報だ。南側のフェンスは古い熱感知センサーが故障したままだ。そこから侵入する。」ジンは、ヘルメットの内線で冷静に指示を出した。彼は、フォンから託された現場指揮の重責を担っていた。
ランは『第三の灯台』の司令部から、古いシステムの通信を傍受し、リアルタイムで情報を提供していた。
「穀倉地帯のセキュリティシステムに侵入しました。 ウォーロード(軍閥)の巡回は不規則です。彼らは防御よりも略奪に集中しているため、警備の網が粗い。しかし、中央制御室は厳重に守られています。」ランの声は疲労の色が濃いながらも、クリアだった。
ジンは、ランの情報通りに、故障したフェンスを乗り越え、部隊を率いて巨大なサイロ群の影に潜り込んだ。錆と穀物の匂いが鼻腔を突く。
彼らが最初に対峙したのは、穀倉地帯を占拠している軍閥の部隊だ。彼らは汚い民間人の服装で、雑然とした配置についている。教会の精鋭部隊のような規律はないが、銃器を乱暴に振り回し、略奪品をトラックに積み込んでいるその姿は、市民にとっての新たな暴力の象徴だった。
「戦闘は避ける。制御室の確保が最優先だ。ミカ、制御室への最短ルートを確保する。」ジンは、フォンから学んだ冷徹な戦術を実行した。
ミカは、ライフルを構え、サイロとサイロの間の暗がりに向かって注意深く移動した。彼女は、軍閥の衛兵が物陰でタバコを吸っているのを発見した。
――パシュッ。
サイレンサー付きのライフルの音が響く前に、ミカの正確な射撃が、衛兵の頭部を貫いた。戦闘は、常に静かでなければならない。
ジンは、事前にランが特定した脆弱な箇所――古い換気シャフトに到達した。彼は小型の熱溶断器を取り出し、素早くシャフトの蓋を切り開いた。
「ラン、シャフトを降下中。3分後に制御室の真下に着く。」
『了解。制御室の衛兵は5人。うち2人は休息中。4分後に巡回ルートが中央ハッチを通過します。それまでに完了させてください。』
ジンと2人の部下は、シャフトを垂直に降下し、中央制御室の真下にあるメンテナンス通路へと侵入した。彼らは天井の脆弱な部分に小型の爆薬を仕掛けた。
「行くぞ!」ジンは叫び、爆薬を起爆させた。
ドォン!(静かな、しかし破壊的な爆発音)
天井に穴が開き、ジンと部下たちは制御室の床に飛び降りた。室内は、軍閥の雑然とした衛兵たちで満たされていた。衛兵たちは不意を突かれ、パニックに陥った。
「鉄鎖団だ! 制御室を奪うな!」軍閥の隊長が怒鳴り、古いアサルトライフルを乱射し始めた。
ジンは、元工兵とは思えないほどの素早い反応で、衛兵の攻撃を避け、ライフルを正確に放った。彼の目的は排除ではなく、無力化だ。彼は、衛兵の脚と腕を狙い、戦闘不能に追い込んだ。
ミカと外の部隊も同時に、予備の侵入ルートから突入し、軍閥の残りの部隊を制圧した。彼らは訓練されており、わずか90秒で、制御室内の軍閥を無力化し、拘束した。
「制御室を確保した! ラン、システムを掌握しろ!」ジンがコンソールの前に立ち、報告した。
『第三の灯台』の指令室で、ランは渾身の力を込めて最後の命令を打ち込んだ。
『穀倉地帯全域のメインゲートをロック。サイロの防衛ドローンを起動。鉄鎖団以外の全通信を遮断。』
穀倉地帯全体に、古い防衛ドローンの甲高い起動音が響き渡り、サイロの巨大なゲートが、轟音と共に閉鎖された。軍閥の残りのメンバーは、突如として武器と食糧が集中するコンプレックス内に閉じ込められ、パニック状態に陥った。
ジンは、制御室の外壁に、鉄鎖団のシンボルマークが描かれた旗を掲げた。それは、城塞の混沌の中で、正義と秩序の到来を宣言する最初の旗印だった。
「食糧を確保した。フォン、次の指示を。」ジンは興奮を抑え、報告した。
『第三の灯台』の司令室で、フォンはホログラム地図上の穀倉地帯が緑色に変わったのを確認した。
「よくやった、ジン。ミカ。これで我々は、飢えた市民を助けることができる。だが…」フォンの声には、満足よりも戦略的な警戒が滲んでいた。
「君たちの成功は、周囲の軍閥と、中央城塞のトラン上級大将の耳にも入ったはずだ。彼らは、食糧という最も貴重な財産を奪われたことを知った。この穀倉地帯は、今や砦となった。君たちは、最初の反撃に備えなければならない。」
勝利は束の間だった。鉄鎖団は、支配を確立するための最初の駒を手に入れたが、その駒は今、敵の集中砲火に晒されることになる。
「ミカ、衛兵の装備を市民に分け与え、即座に防御陣地を構築しろ。ジン、あらゆる構造物を利用してトラップを仕掛けろ。我々の戦いは、これから本格化する。」フォンは冷徹に命令を下した。
穀倉地帯の奪取は、革命の始まりだった。そして、この場所こそが、新たな支配を巡る、最初の激戦区となる運命にあった。




