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最後の戦い

フォンは、ためらいなく攻撃を開始した。

彼は隠蔽物から飛び出し、装甲の穴から取り出した二発の魔力パルスグレネードを、ヴォイ枢機卿を守る強化ゲートと『信仰の結界』に向けて連続して投げつけた。

ドォオオオォン!

爆発は、周囲の魔力と衝突し、凄まじい轟音と共に、一瞬にして結界をねじ曲げた。結界の青白い光が激しく点滅し、フォンが突入できるほどの亀裂が生じた。

「裏切り者だ! 結界が破られた! 排除せよ!」ヴォイが甲高い声で叫び、聖典騎士団に命令を下した。

フォンは結界の亀裂に飛び込んだ。瞬間、彼の全身を、不浄な存在を拒絶する術式による激痛が走った。彼は歯を食いしばり、体内の憎悪の炎で痛みを押し殺した。

最初の標的は、強化ゲートの前に立つ聖典騎士団の二人だ。騎士団は、重厚な盾を構え、魔力を込めた剣を振り下ろしてきた。フォンは、彼らの正面からの攻撃を避け、ライフルを捨て、近接戦闘(CQC)に移行した。

ガキン!

フォンは、騎士の一人の頭部に銃床を叩きつけ、その防御を崩した。彼は、騎士の装甲の隙間に、サイドアームから連射を浴びせ、動きを止めた。この戦闘は、生存ではなく、破壊を目的としている。フォンは、衛兵の命を奪うことへの何の躊躇もなかった。彼らは、アンの苦痛を黙認したシステムの象徴だったからだ。

しかし、聖典騎士団は精鋭だった。彼らは残りの騎士団がフォンを囲み、魔法陣を地面に描き始めた。

「主の御名において、退け!」騎士団の一人が叫び、強力な呪文弾をフォンに向けて放った。

フォンは呪文弾を回避したが、その一つが彼の左肩を掠めた。装甲は溶解し、激しい焼ける痛みがフォンを襲う。彼は即座に魔力パルスグレネードの最後の一個を、騎士団の中心に投げつけた。

ブバァァン!

爆発で騎士団の陣形は崩れ、彼らは血と破片を撒き散らして倒れた。フォンはその隙を突いて、枢機卿ヴォイへと一直線に向かった。

「そこまでだ、デルタ-4! 愚かなる裏切り者よ!」

ヴォイは、逃げ出すことなく、その儀式用装甲に手をかざした。彼の周囲の魔力が渦巻き、地面の裂け目から噴き出す紫色の魔力と融合した。

「ディンの無能な死は、我々の計画を妨げない。君の恋人、グエン・ヴァン・アンの魂は、この偉大な儀式の燃料となったのだ! 彼の激しい抵抗こそが、我々に最大の成果をもたらした! その魂は今、この大地に定着し、永遠に我々の道具となる!」

ヴォイの言葉は、フォンを打ちのめす最後の精神攻撃だった。アンの苦痛が、ヴォイの口から歓喜の言葉となって吐き出される。

「黙れ…!」

フォンは呪文の準備に集中しているヴォイに向けて、残された全てを叩きつけた。彼は、自らの憎悪を魔力に変えるかのように、地面を蹴り、ヴォイの防御結界へと突っ込んだ。

ヴォイが最後の呪文を唱え終える直前、フォンは彼の防御魔法を突破した。彼が持つのは、刃と化した兵士の本能だけだ。フォンは、サイドアームのピストルをヴォイの胸部の装甲に押し付け、最後の魔力を込めた弾丸を撃ち込んだ。

――ズガン!

銃弾はヴォイの装甲を貫通し、彼の肉体を、そして彼の傲慢な心臓を打ち抜いた。ヴォイの目は驚愕と苦痛に見開かれ、彼の身体を支えていた魔力もろとも、崩れ落ちた。

ヴォイの死は、儀式の結界に大穴を開けた。結界は崩壊し、数百体の変異体を囲んでいた魔力の流れが不安定になる。

フォンは、ヴォイの死体の上に倒れ込んだ。彼の体は、銃弾、呪文、そして結界による拒絶反応で、限界を超えていた。

――ピィィィィッ!

しかし、ヴォイの死は終焉ではなかった。彼の死が引き金となり、儀式の制御盤がけたたましい警報音を発した。

『緊急プロトコル起動。起動シーケンス、残り120秒』

起動タイマーが始まってしまった。

フォンは血を吐きながら、何とか体を起こし、変異体の軍団を一斉に起動させる制御コンソールへと這い寄った。彼の視界は霞み、指は動かない。彼は、アンの復讐を果たしたが、世界を救うための最終任務には、間に合わない。

その時、フォンは微かな物音を聞いた。ジンとミカが、意識の戻ったランを抱え、崩れた結界の亀裂から、血まみれの現場へと飛び込んできたのだ。

「フォン兄さん!」

ランは血だらけのフォンを見て、涙を流しながら、最後の力を振り絞った。彼女の目は、すでにコンソールのホログラムと起動シーケンスを捉えていた。

「大丈夫! 私が止めます! 起動を逆転させます!」

フォンは、ランの顔に、血のついた手を伸ばした。彼の最後の希望、アンが残した最終兵器。彼らは、ついに最終局面に立ったのだ。

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