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死の穴

深層トンネルの探索は、もはやステルス戦ではなく、時間との戦いとなっていた。教会の特務部隊が残したマーキングを追うことで、彼らは最短ルートを進んでいることを確信したが、それは同時に、敵がすぐ前方にいることも意味していた。

ランは魔力枯渇によりほとんど歩行不能だったため、フォンは彼女を背負い、ジンとミカに続く。ジンは緊張した面持ちで、前方にある危険を報告した。

「フォン、前方だ。地図にはないが、岩盤が突然垂直に落ち込んでいる。おそらく古代の地殻変動で出来た、**『死のしへのあな』**だ。」

彼らが到達したのは、地下深くに穿たれた巨大な縦穴だった。ライトの光は底に届かず、ただ恐ろしいほど深い暗闇が広がる。穴の底からは、**『大地の傷痕』**のエネルギーが近い証拠として、不安定で不気味な紫色の光が脈打つように漏れ出ていた。その光は、原始の魔力の危険な濃さを物語っている。

穴を渡る唯一の手段は、古代の文明が残した、か細く錆びた鉄製の吊り橋だった。風化した橋は、魔力の奔流にさらされ、いつ崩れてもおかしくない状態に見えた。

「この橋を渡るしかない。ジン、先頭を頼む。ミカ、ランの援護を。」フォンはランを地面に降ろし、指示を出した。

ジンが最初の一歩を踏み出した瞬間、穴の反対側の岩壁に、突然ライトの光が灯った。

「動くな、裏切り者!」

教会の精鋭部隊――**『聖なる監視者』**の追跡隊だ。彼らは既に穴の向こう岸に陣取り、完全な待ち伏せ態勢を敷いていた。彼らは、フォンたちがディン教授の抜け道を使うことを読んでいたのだ。

「罠だ! ラン、ミカ! 伏せろ!」フォンは叫び、同時にライフルを構えた。

両岸での遠距離戦が始まった。監視者たちは、縦穴の地形を最大限に利用し、優位な高所から射撃してきた。彼らの呪文弾は岩壁に激突し、爆発音と魔力の破片が飛び散る。

ジンは即座に行動した。彼は腰からロープ付きのグラップリングフックを取り出し、岩盤の強固な部分に固定した。

「橋は持たない! ロープを張る! フォン、援護を頼む!」

フォンは、吊り橋を隠蔽物として利用しながら、監視者たちの正確な射撃をかわした。彼は、彼らの頭部と通信機を狙い、一発一発を冷静に撃ち込んだ。しかし、敵の装甲は厚い。

ミカは恐怖に耐えながら、ランの傍らに伏せ、衛兵の死体から奪ったアサルトショットガンで援護射撃を行った。彼女の射撃は正確で、敵の注意を引きつけた。

「ラン、頼む! もう一度だけ、お前の力を貸してくれ!」フォンは血の滲む唇で頼み込んだ。「あの橋の向こう側、監視者たちが隠れている岩盤の…古い**磁力固定装置じりょくこていそうち**を狙え! 奴らを均衡を失わせろ!」

ランは、その言葉を聞き、歯を食いしばった。魔力枯渇による激痛が全身を走る。しかし、彼女の目に宿る炎は消えていなかった。これは、アンの、そして数多の犠牲者のための最後の戦いだ。

彼女は最後の力を振り絞り、微量の魔力を指先に集中させた。狙うは、穴の向こう岸にある、古代の磁力装置。それは岩盤を固定するために使われていた装置であり、今や監視者の足場を支えている。

――キイィィィィィン!

悲鳴のような高周波の音が、ランの体内から放たれた。それは、物理的な攻撃ではなく、磁力固定装置の電子回路を過負荷オーバーロードさせるための、純粋なテクニカの波だった。

ガラガラガラ!

装置がショートし、監視者たちが隠れていた足場の一部が崩落した。三人の監視者が叫び声を上げながら、底知れない縦穴へと吸い込まれていった。

「今だ! 行くぞ!」

ジンはロープが張られたことを確認し、フォンとミカ、そしてランに渡した。彼らはロープを伝い、恐るべきスピードで穴を渡り始めた。

最後の瞬間、ジンは橋の固定ケーブルに時限爆弾を仕掛けた。

「これで追跡は数時間遅れる!」

ドォオオォン!

爆発音が穴の底から反響し、橋の残骸は紫色の魔力の中に飲み込まれていった。ジンは最後の力を振り絞ってロープを伝い、フォンの隣に滑り込んだ。

彼らは、死の穴を越えた。しかし、ランは完全に意識を失い、フォンは体力の限界に達していた。

「残りは…あとわずかだ。」ジンは荒い息遣いで言った。「『大地の傷痕』は、このトンネルの先にある。もう、後戻りはできない。」

彼らは、愛と復讐が混ざり合った、血塗られた最終決戦の地へと、意識のないランを連れて向かった。三日後の夜明けは、もうすぐそこまで迫っていた。

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