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トンネルと半鬼

深層トンネルは、地上のグレイゾーンとは全く異なる、古代の悪夢の空間だった。

空気は濃く湿り、鉄と泥、そして何世代にもわたる生命の腐敗臭が混ざり合っている。通路は狭く、岩盤には奇怪な魔術の痕跡が、苔のように張り付いていた。上層区のシステムとは無縁の、ここは太古の異界の魔力が息づく場所だ。

フォン、ラン、ジン、ミカの4人は、最小限の照明だけを頼りに前進した。

「ラン、維持できているか?」フォンは内線で尋ねた。

「はい…。教会の虚ろな者監視プロトコルに、私たちの魔力信号を偽装しています。でも、このトンネルの魔力濃度が濃すぎます。全身が…焼けるようです。」ランの声は、汗と疲労で掠れていた。彼女は、チームの生存のための、目に見えない防御壁を一人で維持していた。

前衛を務めるジンとミカは、トンネル戦のプロだった。彼らは無駄な音を一切立てず、特殊な振動センサーで、岩盤の奥に潜む生命の動きを探っていた。

「待て。」ジンが静かに手を上げた。彼は元工兵で、爆薬とトラップに関する専門知識を持っていた。「この先に、大きな空洞がある。虚ろな者の足跡ではない…もっと重い。」

フォンはライフルを構え、警戒を強めた。通常の虚ろな者(Hollow)は、単なる肉塊や機械変異体だが、この深層トンネルには、より長い時間をかけて魔力に侵食された、**「半鬼(Hanki)」**と呼ばれる生物が潜んでいる。彼らは知性と狡猾さを持ち、集団で行動することもある。

彼らは狭い通路を抜けると、巨大な地下空洞へと出た。天井は高く、湿った岩肌には奇妙な結晶体が苔のように光っている。

――ピチャ。

空洞の暗闇の中から、水滴の音に混じって、かすかに**「ヒッ、ヒッ…」**という喉の奥で詰まったような笑い声が聞こえた。

「半鬼だ。」ミカが低く呟いた。彼女の顔色は青ざめていたが、銃を握る手は微動だにしなかった。彼女の経験が、その脅威を瞬時に理解させた。

半鬼は、教会の機械変異体とは違い、より有機的で、原始的な恐怖を具現化していた。それは、かつて人間だったであろう体躯を、鋭い骨と筋肉で覆い尽くし、目は真っ赤に光り、口からは剃刀のような牙が覗いていた。

「ラン、魔力で俺たちの熱源を混乱させろ! ジン、フラッシュを!」フォンは即座に指示を出した。

ジンは特殊な音響・閃光グレネードを空洞の中心に投げ込んだ。炸裂した光とノイズが半鬼の目を眩ませる。フォンはその隙に、アサルトライフルから連射を開始した。

ダダダダダ!

半鬼の身体は非常に硬く、通常の弾丸では貫通しない。フォンは、頭部と関節の隙間を狙い、強化徹甲弾を撃ち込んだ。しかし、その動きは素早く、弾丸のほとんどは岩盤に吸い込まれた。

「数が多すぎる! 3体いる!」ミカが叫び、冷静に半鬼の動きの先を読んで正確な援護射撃を行った。

半鬼の一体が、驚異的な跳躍力でミカに襲いかかった。

「ミカ!」

フォンは間に合わない。その時、ジンが地面に仕掛けていた古い地雷が、半鬼の着地点のわずか手前で爆発した。

バァン!(控えめな爆発音)

爆発自体は小さかったが、閃光と破片が半鬼の目を損傷させ、その動きを一瞬止めた。ジンは素早くナイフを抜き、半鬼の首の付け根に深く突き立てた。

その間、フォンは残りの二体と対峙していた。一対一の状況は、彼の本領が発揮される場面だ。彼は素早い回避運動で半鬼の爪を避け、ライフルを棍棒のように使い、その動きを止めさせた後、魔力パルスグレネードを胸元に押し込んだ。

ドゴオオオォン!

魔力パルスは、半鬼の体内に蓄積されていた魔力を暴走させ、内側から肉体を破裂させた。

激しい戦闘は、わずか30秒で終息した。トンネルの静寂が戻り、聞こえるのは彼らの荒い息遣いと、半鬼の肉が焦げる異臭だけだった。

「ラン!」フォンはすぐにランの元へ駆け寄った。

ランは壁にもたれかかり、全身を痙攣させていた。彼女の鼻と口からは血が流れ、完全に魔力枯渇状態だった。

「大丈夫です…でも、もう…これ以上、魔力偽装は…」

「わかった。無理はさせない。」フォンはランを抱き上げ、ミカに傷の処置を依頼した。

ジンは暗闇の中をライトで照らし、空洞の隅にある岩壁を指差した。「フォン、これを見てくれ。」

岩壁には、最近になって掘削された、新しいトンネルの入り口があった。そして、その入り口の近くには、教会の特務部隊が使用するであろう、真新しいマーキングが残されていた。

「奴らもこのルートを使っている。我々は正しい。だが…」フォンは目を細めた。「奴らは我々よりも先に進んでいる。」

三日というタイムリミットは、容赦なく迫っていた。彼らはほとんど休むことなく、新たな、より危険なトンネルの奥へと足を踏み入れた。彼らの道は、虚ろな者の血と、愛の誓いで塗り固められていく。

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