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根拠地への帰還

秘密のメンテナンスシャフトを這い降りる数時間は、フォンとランにとって、上層区での戦闘よりも長く、苦痛に満ちていた。アドレナリンが切れ、肉体の激しい痛みが現実へと舞い戻る。フォンの背中は聖水弾の呪文で焼かれ、アーマーの破片が皮膚に食い込んでいた。ランは魔力マナの過剰使用により、全身の筋肉が痙攣し、意識を保つのがやっとだった。

地下トンネルの最奥で、彼らを待っていたのは、懐中電灯を持ったカイトと鉄鎖団の数名だった。

「ひどい有様だ…」カイトは二人を見て息を呑んだ。「衛兵の制服は血と汚水にまみれている。成功したようだな。」

「ディン教授は…排除した。データも確保した。」フォンは、肩を借りてよろめきながら答えた。彼の声は砂を噛むように乾いていた。

鉄鎖団の隠れ家、『第三の灯台』の地下クリニックは、彼らにとって一時的な天国だった。フォンとランは汚れた装備を剥ぎ取られ、技術者が簡易的な手術と消毒を行った。傷の手当てを受けている間も、フォンの意識は研ぎ澄まされていた。

「君たちは、城塞の核を叩いた。」カイトはフォンのベッドの横に立ち、落ち着いた声で報告した。「上層区は厳重な戒厳令下にある。教会はディン教授の死を**『異端者のテロ行為』**として報道管制を敷き、軍を動員した。我々の目論見通り、城塞の最高層部は今、大混乱だ。」

「それが復讐の代償だ。」フォンは冷たい瞳で答えた。個人的な憎悪を晴らしたにもかかわらず、彼の心には何の満足感もなかった。ただ、アンの魂を弄んだ者たちを排除したという、冷たい達成感だけが残った。

ランは隣のベッドで、静脈に栄養剤を注入されながら、依然としてデータパッドの解析作業を続けていた。彼女のプロとしての責任感が、肉体の限界を超えて彼女を突き動かしていた。

「ラン、無理をするな。休め。」フォンが弱々しく声をかけた。

ランは首を横に振った。「休めません、フォン兄さん。解析が終わりました。ディン教授の最後のデータは…私たちの知らなかった真実を示しています。」

ランが投影したホログラムは、アンの顔を映し出した。しかし、それは被験体A-1のデータではなく、彼が城塞の機密システムに埋め込んでいた、個人的なログだった。

「アンさんは…被害者であると同時に、私たちの味方だった。彼は『再生計画』が始まった時から、その倫理性に気づき、秘密裏に計画を妨害するためのデータと、**バックドア(裏口)**を仕込んでいたんです。」

ランは震える声で続けた。「彼があなたに教えたアクセスコードは、単なる愛の思い出ではない。それは、あなたが真実を知った時に、この地獄に帰還するための、希望の鍵だったんです。彼は、自分自身の犠牲を、後の反逆の種にするつもりだった。」

フォンは耳を疑った。アンは、彼が死んだ後も、この戦いを続けていた。彼の愛は、単なる個人的な絆ではなく、世界を変えるための、最も重要な戦術的資産だったのだ。フォンが感じていた個人的な悲劇は、より大きく、英雄的な犠牲へと昇華された。彼の心に渦巻いていた憎悪に、今や深い尊敬と、約束を果たさなければならないという重い使命感が加わった。

「アン…」フォンは、ただ一言、かすかに呟いた。復讐は終わったが、アンが託した希望はまだ果たされていない。

ランは最後の、最も重要な情報を伝えた。「枢機卿ヴォイは、ディン教授の死を受け、計画を加速させています。彼らの最終目標は、**『大地の傷痕』**と呼ばれるグレイゾーンの古代遺跡で、変異体の軍隊を一斉に起動させることです。その時期は、三日後です。」

三日後。時間がなかった。

カイトは分析結果を聞き、重い決断を下した。「ヴォイ枢機卿を止めるには、我々は『大地の傷痕』へ向かうしかない。だが、教会はすでに、あらゆる移動経路を封鎖し始めているだろう。これは、全面戦争だ。」

フォンはベッドから立ち上がった。彼の傷はまだ癒えていないが、目には新しい光が宿っていた。憎悪から生まれた炎は、今や、約束と革命を成し遂げるための、冷たい決意の光となった。

「アンが俺に託したものを、無駄にはしない。」フォンはライフルを手に取った。「カイト、お前たちの力を貸してくれ。俺は、ヴォイ枢機卿と、彼らが築いた腐敗した王冠を、根底から破壊する。」

彼の復讐は、今、個人的な嘆きから、人類の未来をかけた最終戦争へと変わった。

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