虚ろなる者の時代

「大交差（ザ・グレート・コンバージェンス）」から214年。
かつて人類が謳歌した文明は崩壊し、地上は地獄と化した。次元の裂け目から溢れ出した暗黒の魔力は、テクノロジーと融合し、世界を異形の怪物「虚ろな者（ホロウズ）」が徘徊する死の大地へと変貌させた。生き残った人類は、強権的な軍事政権と狂信的な「鉄の教会」が支配する巨大防壁都市「城塞（バスティオン）」に閉じこもり、自由と引き換えにわずかな安全を貪っていた。
主人公、フォンは特殊部隊「デルタ-4」を率いる歴戦の兵士である。彼の心は、降り止まぬ酸性雨のように冷え切っていた。彼にとって、戦場とは任務を遂行するだけの場所であり、生きる意味などとうに失われていたからだ。その理由は、過去の悲劇にある。フォンにはかつて、心から愛した男性がいた。同じ部隊に所属し、背中を預け合い、この絶望的な世界で唯一の光となった恋人。しかし、彼は昨年の激戦「鉄の壁作戦」で、フォンの腕の中で息絶えたはずだった。
だが、運命は残酷な再会を用意していた。
ある雨の夜、廃棄された都市区画での極秘任務中、フォンは政府が隠蔽していたおぞましい真実を目撃する。「再生計画」――それは、戦死した兵士たちの肉体に魔獣の細胞を移植し、意志を持たない生体兵器へと作り変える禁断の実験だった。そして、その実験体の中には、死んだはずの最愛の人の面影があった。
「国のために死んだのではない。国によって怪物にされたのだ」
信じていた忠誠は砕け散り、愛は憎悪へと変わる。フォンは、彼を慕う若き女性隊員ランと共に、腐敗しきった城塞への反逆を決意する。
錆びついた鉄の匂いと、焼け焦げた肉の臭いが充満する戦場で、男たちの切なくも激しい感情が交錯する。それは、失われた愛を取り戻すための戦いであり、同時に、人間としての尊厳をかけた魂の叫びでもある。
圧倒的な筆致で描かれるミリタリーアクションの緊迫感。
正体不明の怪物や政治的陰謀が渦巻くミステリー。
そして、絶望の淵で揺れ動く、男と男の断ち切れぬ絆と悲劇的なロマンス。
全てを失った男が、世界を敵に回してでも守りたかったものとは何か。
虚無（ゼロ）から始まる、反逆の叙事詩が今、幕を開ける。