1:田舎ヤクザの組長が守護霊ってどうなんだ?
「――――店長っ! またラノベコーナー狭くなってるじゃないですか?!」
ある田舎の小さな市街地でもヤクザが存在することを青年が知ったのは、アルバイト先の小さな書店にあるライトノベルコーナーだった。
若年層向けの娯楽小説……通称ライトノベル。その言葉だけを聞くと低俗な小説にも聞こえかねないが、累計発行部数だけで見ても一般小説はその足元にも及ばない。
だが、ここは田舎の小さな本屋……雑誌やマンガの売上げ、学校への教科書の卸しがメインの収入源になることは紛れもない事実。
ただでさえ、陳列スペースの限られた本棚には売れ行きの悪い書籍をいつまでも残しておく余力はなく――――。
「おい……ヤス。お前……店、閉める気なのか?」
店長をヤスと呼ぶ大柄な男は、金のネックレスに捲ったワイシャツの剛腕には墨を覗かせている。
「ああん? ラノベを減らしたぐらいで店を閉めるかよ。それよりも、予約してた本届いてんぞ」
店長はヒョロガリだが、男への態度は対等そのもの。
男が新刊を手にし、店長のあとをついてレジへと向かおうとした時だった――。
「大石――――ッ」
その言葉と同時に数発の銃弾が放たれ、大石と呼ばれた大柄の男と流れ弾を受けた青年は帰らぬ人となった。
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青年が目を覚ましたのは埋葬中の死体の山の中――――。
彼が知るような異世界転生で赤ん坊や子供から始まるリスタートではなく、同年代ぐらいの屍に鼓動と魂を移すだけの簡易的なもの。
しかし、彼の記憶には神から言われた『ありがたく思え』が残っていた。
「――――くそがっ!」
埋葬の土をかける者たちが驚く中、青年は死体の山から這い上がり――――。
「ギルドはどこだ――ッ!?」
鬱憤を晴らすように発せられた言葉に、再び土をかける者は怯み。指差すことしかできなくなってしまった。
そして、彼は誰かと話すように埋葬場の城門外から城門の中へと向かって行ったという。