第53話 東の大陸からの使者
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
最弱職【掃除士】、実は世界最強でした 第53話をお届けします。
東の大陸・煌国から訪れた商人たちとの出会い。
文化の違いが生む笑いと、新たな交流の始まり。
お楽しみください!
朝の港に、いつもとは違う活気が満ちていた。
「東の商船が見えたぞ!」
見張り台からの声に、集まった人々がざわめく。翔太とエリーゼも、ゆっくりとした足取りで港へと向かっていた。
「無理しなくていいよ」
翔太が心配そうにエリーゼを見る。昨日、妊娠が判明したばかりだ。
「大丈夫。私も東の大陸の人たちに会ってみたいの」
エリーゼが微笑むと、その頭上に【体調:良好】という表示が一瞬現れて消えた。システムもまだ完全には落ち着いていないらしい。
港に着くと、すでに多くの人々が集まっていた。商人たちは興奮気味に話し合い、子供たちは初めて見る大型船に目を輝かせている。
「でかいなあ!」
リクも到着していた。隣にはミーナ、そしてカールやレオの姿もある。
「皆も来たのか」
「こんな機会、滅多にないだろ?」
確かに、東の大陸との交流は虚無王との戦いで長らく途絶えていた。平和が戻った今、ようやく海路も安全になったのだ。
◆
東の商船は、見慣れた帆船とは明らかに異なる造りをしていた。
船体には美しい龍の彫刻が施され、赤と金の鮮やかな帆が風を受けて膨らんでいる。マストの先端には、見たことのない形の旗がはためいていた。
「あれは……煌国の紋章だ」
王宮から派遣された外交官が説明する。
「煌国?」
「東の大陸にある大国です。我々とは異なるシステムで動いているという話ですが……」
船が接岸すると、タラップが降ろされた。
最初に降りてきたのは、絹のような光沢を持つ衣服を纏った中年の男性だった。長い髪を高く結い上げ、腰には見慣れない形の剣を帯びている。
男性は港に降り立つと、両手を前で組み、深々と頭を下げた。
「初めまして。私は煌国の交易商、リン・シャオと申します」
流暢な共通語だが、独特のイントネーションが混じっている。
《リン・シャオ 三段【交易商】》
翔太の頭上に、見慣れない表示が現れた。レベルではなく、「段」という単位らしい。
「ようこそ、ヴェリディアン王国へ。私は王国騎士団長のガイウスです」
ガイウスが前に出て挨拶を交わす。
リン・シャオは微笑みながら、後ろを振り返った。
「皆、降りてきなさい」
船から次々と人々が降りてくる。皆、色鮮やかな衣服を身に着け、大きな荷物を抱えていた。
「これは……」
荷物の中から、見たことのない品物が次々と取り出される。
透き通るような白い陶器、虹色に輝く絹織物、そして芳しい香りを放つ小さな木箱。
「これは我が国の特産品です。ぜひ、ご覧ください」
リン・シャオが木箱を開けると、濃厚な香りが広がった。
「香辛料?」
「はい。これは『天香』と呼ばれる香辛料です。料理に少し加えるだけで、驚くほど風味が豊かになります」
商人たちが興味深そうに品物を眺める中、リン・シャオは翔太たちに気付いた。
「おや、あなたは……」
彼の目が翔太のステータスを確認したらしい。驚きの表情を浮かべる。
「レベル200……いえ、この圧倒的な清浄な気……まさか、あの虚無王を倒したという?」
「ええ、まあ……」
翔太が照れくさそうに頷くと、リン・シャオは再び深々と頭を下げた。
「お会いできて光栄です。東の大陸にも、あなたの功績は伝わっています」
「そんな、大げさな……」
リン・シャオは顔を上げると、今度はエリーゼに目を向けた。その瞬間、彼の表情が柔らかくなる。
「奥様は……生命を宿しておられますね」
「え? わかるんですか?」
エリーゼが驚く。
「我が国には、気の流れを読む技術があります。新しい命の輝きは、特に美しく見えるものです」
リン・シャオは部下に何か指示すると、小さな袋を取り出させた。
「これを」
差し出された袋を開けると、中には美しい翡翠の腕輪が入っていた。
「これは?」
「煌国に伝わる安産のお守りです。母子の健康を願う気が込められています」
「でも、こんな高価そうなもの……」
エリーゼが遠慮すると、リン・シャオは首を横に振った。
「平和をもたらした英雄のお子様です。これくらいは、させていただきたい」
◆
港に仮設の交易所が設けられ、東の品物が並べられた。
「この布、すごく肌触りがいいわ!」
「この茶葉、初めての香りだ」
街の人々は、珍しい品物に夢中になっていた。
翔太たちは、リン・シャオから煌国について詳しく話を聞いていた。
「我が国は、あなた方とは異なるシステムで成り立っています」
「段位制、でしたっけ?」
ミーナが尋ねる。
「はい。レベルではなく、修行によって段位を上げていく。一段から始まり、最高位は九段です」
「へえ、面白いな」
リクが興味深そうに頷く。
「ただし」リン・シャオが続けた。「段位は単なる強さの指標ではありません。技術、知識、そして心の在り方すべてを総合したものです」
「心の在り方?」
「はい。いくら技術があっても、心が伴わなければ段位は上がりません」
その考え方は、どこか掃除士の理念に通じるものがあった。
リン・シャオは翔太を見つめた。
「実は、あなたにお願いがあります」
「何でしょう?」
「『掃除』という概念に、我々はとても興味があります」
意外な言葉に、翔太は目を丸くした。
「掃除に?」
「はい。聞くところによれば、単なる清掃ではなく、世界そのものを清める技術だとか」
リン・シャオの目が真剣な光を帯びる。
「我が国にも、邪気を払う術はあります。しかし、あなたの『掃除』は、それをはるかに超えた何かのようです」
カールが誇らしげに胸を張った。
「その通りです! 翔太様の掃除術は、世界を救った偉大な技術なのです」
「やはり……」リン・シャオが頷く。「もし可能なら、その技術を学ばせていただけないでしょうか」
翔太は少し考えてから答えた。
「掃除の技術自体は、誰でも学べます。ただ……」
「ただ?」
「本質を理解するには、時間がかかるかもしれません」
「時間なら、いくらでもかけます」
リン・シャオの真摯な態度に、翔太は微笑んだ。
「わかりました。でも、一人で教えるのは大変だな……」
ふと、翔太の脳裏にあるアイデアが浮かんだ。
「そうだ、いっそのこと……」
「翔太?」
エリーゼが不思議そうに見つめる。
「掃除を体系的に教える場所を作るのはどうだろう? 学校みたいな」
「学校?」
レオの目が輝いた。
「それいいですね! 掃除士学校!」
カールも興奮気味に同意する。
「素晴らしいアイデアです! 世界中から生徒が集まるかもしれません」
リン・シャオも期待に満ちた表情を見せた。
「それは素晴らしい。我が国からも、ぜひ留学生を送らせていただきたい」
◆
夕方になり、歓迎の宴が開かれることになった。
王宮から料理人が派遣され、港に大きなテーブルが並べられる。ヴェリディアン王国の料理と、煌国から持ち込まれた食材を使った料理が、次々と並んでいく。
「これは煌国の餃子という料理です」
リン・シャオが説明する、小麦粉の皮に包まれた料理を、翔太は興味深そうに口に運んだ。
「うまい!」
肉汁が口いっぱいに広がる。
「これは春巻き(はるまき)です」
パリパリとした食感が楽しい。
東西の料理が並ぶテーブルを囲んで、人々は楽しそうに語り合っていた。
文化の違いが、時に笑いを生む。
煌国の人々は、フォークとナイフの使い方に苦戦し、ヴェリディアンの人々は、箸の扱いに四苦八苦していた。
「こう持つんです」
「いや、難しい……」
言葉は通訳魔法でなんとか通じるものの、細かなニュアンスの違いで、おかしな会話になることもあった。
煌国の若者が、ヴェリディアンの女性に声をかける。
「あなたは月のように美しい」
それが「あなたは丸い」と誤訳されて、場が凍りついたり。
リン・シャオがガイウスに挨拶した時、煌国式のお辞儀をしたつもりが、通訳魔法が「あなたの前で地面に頭をつけます」と訳してしまい、ガイウスが慌てて止める一幕も。
「そ、そんな大それたことを!」
「いえ、これが我が国の礼儀ですから」
また、ヴェリディアンの商人が煌国の茶を一気に飲み干したところ、煌国の人々が驚愕した。
「その茶は、少しずつ味わうものです!」
「え? 嗉が渇いてたから……」
「いや、そういう意味では……」
でも、そんな失敗も、すぐに笑い話になった。
エリーゼは、煌国の女性商人と話をしていた。
「妊娠中は、温かいお茶がいいですよ」
女性は、香り高い茶葉を分けてくれた。
「これは安胎茶。母子ともに健康でいられるように」
「ありがとうございます」
異国の地にも、命を慈しむ心は同じようにあった。
◆
宴も終盤にさしかかった頃、リン・シャオが立ち上がった。
「皆様、本日は温かく迎えていただき、ありがとうございます」
彼は杯を掲げる。
「これを機に、煌国とヴェリディアン王国の間に、定期的な交易路を開きたいと思います」
歓声が上がる。
「月に一度、我々の船がこの港を訪れます。品物だけでなく、人の交流も深めていければ」
ガイウスが代表して答えた。
「我々も同じ思いです。平和だからこそできる、素晴らしい交流になるでしょう」
翔太も立ち上がった。
「掃除士学校の件も、本格的に考えてみます。東の技術と西の技術、お互いに学び合えることがたくさんありそうです」
「期待しています」
リン・シャオが微笑む。
宴が終わり、人々が帰路につき始めた頃、翔太とエリーゼは港に残って海を眺めていた。
「世界って、思っていたより広いのね」
エリーゼが呟く。
「ああ。まだまだ知らないことがたくさんある」
翔太は東の空を見つめた。
「この子が大きくなったら、一緒に煌国を訪ねてみたいな」
「そうね。きっと素敵な旅になるわ」
エリーゼがお腹をそっと撫でる。
リン・シャオがくれた翡翠の腕輪が、月明かりを受けて優しく輝いていた。
「掃除士学校か……」
翔太が考え込むように呟く。
「作るの?」
「うん。これまで、掃除の技術は個人個人で伝えてきたけど、体系的に教える場所があってもいいかもしれない」
「素敵なアイデアだと思うわ」
エリーゼが微笑む。
「子供たちが、掃除を通じて世界の大切さを学べる場所」
「そうだな。戦うためじゃなく、守り、育てるための技術として」
二人の前には、穏やかな海が広がっている。
東の大陸との新しい繋がりは、世界をより豊かにしていくだろう。
そして、掃除士学校という新しい夢も、形になろうとしていた。
平和な世界で、新たな交流が始まる。
それは、次の世代への素晴らしい贈り物になるはずだった。
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【ステータス】
翔太 Lv.200【創世の掃除士】
HP: 99999/99999
MP: 50000/50000
エリーゼ Lv.60【聖女・生命を宿す者】
HP: 8000/8000
MP: 5000/5000
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第53話、いかがでしたでしょうか?
煌国との交流が始まり、掃除士学校の構想も生まれました。
東西の文化が交わる宴会では、微笑ましい誤解もありましたね。
次回、いよいよ掃除士学校が形になります。
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次回もお楽しみに!
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