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第5話 聖剣の主

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

最弱職【掃除士】、実は世界最強でした 第5話をお届けします。


アンデッドキングとの対決!

聖剣と浄化の力が共鳴する時、奇跡が起こる。

そして、ケンジたちとの関係にも変化が……


お楽しみください!

「お前が……聖剣エクスカリバーを?」


 ケンジの声が震えている。喉が渇いているのか、かすれた声だった。


 俺は黄金に輝く聖剣を肩に担ぎ、静かに頷いた。重さはあるが、不思議と手に馴染む。まるで最初から俺のものだったかのように、手のひらに吸い付くような感覚がある。


 聖剣の柄からは、温かい鼓動が伝わってくる。それは生きているかのような、優しい温もりだった。


「浄化したら、出てきた」


「浄化って……あのゴミの塊を!?」


 ユウキが信じられないという顔で、俺と聖剣を交互に見る。彼の目には、困惑と悔しさが入り混じっている。魔法剣士として自負を持っていた彼にとって、掃除士が聖剣を手にしたことは、常識の崩壊を意味する。


 古代王の墓所、最深部。


 つい先ほどまで山のようにそびえていたゴミは、今や整然と並ぶ宝物の山に変わっていた。古代王国の遺産が、千年の時を経て蘇った。金貨の山、宝石の輝き、伝説級の武具――それらが、まるで展示品のように美しく配置されている。


 そして俺の手には、伝説の聖剣。


 刀身から放たれる黄金の光が、暗い墓所を昼のように照らしている。


「でも、なんで掃除士が聖剣を……」


 ミカが困惑している。彼女の賢者の知識でも、この事態は理解できないらしい。古代の書物をめくるような仕草で、空中に魔法の文字を描きながら考え込む。


「聖剣は勇者か、せめて剣聖が持つものじゃ……歴史上、そうでない例は……」


 正直、俺にも分からない。


 ただ、聖剣を握った瞬間から、体中に力が満ちているのは確かだ。それは単なる力の増加じゃない。何か、もっと根本的な変化のような――魂そのものが浄化され、純化されたような感覚。


『警告:大型モンスター接近』

『脅威レベル:極大』

『推奨行動:即座に退避』


 システムメッセージが、赤い文字で警告を発する。


 地響きと共に、巨大な影が部屋に入ってきた。石造りの床が、その重みで軋み、蜘蛛の巣状にひびが入る。天井から、砂と小石がパラパラと落ちてくる。


════◆════


「アンデッドキング!?」


 ケンジが剣を構える。彼の顔が青ざめ、額に冷や汗が滲む。剣を握る手が、微かに震えているのが分かる。


 現れたのは、骸骨の王。上級ダンジョンのボスモンスターだ。


 身長3メートル。黒い瘴気を纏い、空洞の眼窩に紫の炎を宿している。朽ちた王冠は錆びつき、ぼろぼろのマントは所々が千切れて、風もないのに不気味になびいている。


 骨の関節からは、黒い液体が滴り落ちる。それが床に触れると、ジュッと音を立てて石を溶かす。強酸性の呪液だ。


 レベル60。俺たちが束になっても勝てる相手じゃない。その骸骨の身体からは、千年の怨念が瘴気のように立ち昇り、周囲の空気を腐らせていく。


「逃げるぞ!」


 ケンジが叫ぶが、振り返ると出口は黒い壁で塞がれている。触れたら即死級の呪いの壁だ。逃げ道はない。


 アンデッドキングが不気味に笑う。顎の骨がカタカタと音を立て、まるで嘲笑っているかのよう。


『我が宝物庫を荒らした者どもよ……』


 声は、直接頭の中に響く。千年分の怨念が込められた、呪詛のような声。耳を塞いでも無駄だ。魂に直接語りかけてくる。


 骨の指が俺たちを指差す。指先から、死の呪いが黒い霧となって滲み出る。


『その命、頂こう。我が永遠の孤独の、道連れとして』


 床に巨大な魔法陣が浮かび上がる。紫と黒の光が交互に明滅し、不吉な紋様が回転を始める。死の呪い。直撃すれば即死だ。いや、死ぬだけではない。魂ごと囚われ、永遠にアンデッドキングの奴隷となる。


「防御魔法!」


 ミカが結界を張る。青白い光の壁が、俺たちを包む。しかし、呪いの力に触れた瞬間、ひび割れていく。彼女の額に脂汗が滲み、杖を握る手が震える。


「持たない! 呪いが強すぎる! 千年分の怨念なんて……」


 ユウキが魔法剣士の結界を重ねる。氷と炎の二重結界。しかし、それも呪いの威力に押されている。


「くそっ、なんて威圧感だ。まるで死そのものが迫ってくるような……」


 このままじゃ、全員が――


「浄化」


 俺は前に出た。


 仲間の前に立ち、聖剣を構える。


 聖剣を通して、浄化の光を放つ。剣の柄が熱くなり、全身の魔力が聖剣に吸い込まれていく感覚。それは苦痛ではなく、むしろ心地よい一体感だった。俺と聖剣が、完全に同調している。


 聖剣が、俺の浄化と共鳴している。


 それは、千年前にも起きたこと。勇者王も、きっと同じように――


════◆════


 光と闇がぶつかり合う。


 純白の浄化の光と、漆黒の呪いの闇。


 空間が歪み、魔力の奔流が吹き荒れる。風もないのに、俺の髪と服が激しくなびく。周囲の宝物が、魔力の余波で吹き飛ばされる。


 しかし――


『無駄だ。我が呪いは千年の怨念。生前の恨み、死後の孤独、全てが込められている』


 アンデッドキングが嘲笑う。骸骨の顎が大きく開き、カタカタと音を立てる。


『小賢しい光など、この闇の前では塵に等しい。お前たちも、我が眷属となるがいい』


 呪いの力が増す。黒い霧が濃くなり、俺の浄化の光を押し返し始める。


 だが、次の瞬間。


 聖剣が、自ら輝き始めた。


 それは、俺の魔力とは別の、聖剣自身の意志による輝き。千年の封印から解放された喜びと、新たな主を得た歓喜の光。


『聖剣エクスカリバーの特殊効果:邪悪特効が発動します』

『浄化スキルとのシナジー効果を確認』

『出力300%増幅』

『更に――聖剣の記憶が解放されます』


 俺の浄化スキルと、聖剣の力が完全に共鳴する。


 それだけじゃない。聖剣に刻まれた、千年前の記憶が流れ込んでくる。


 ――勇者王が、同じようにアンデッドを浄化した記憶。

 ――聖剣が本来持つ、穢れを払う力の真髄。

 ――そして、浄化とは破壊ではなく、救済であるという真理。


 光が、爆発的に増幅された。


 部屋全体が、真昼の太陽の下にいるかのような輝きに包まれる。


「なっ……!?」


 アンデッドキングの呪いが、みるみる浄化されていく。


 黒い霧が白い靄に変わり、呪いの魔法陣が聖なる紋様に書き換わる。闇が晴れ、骨が白く輝き始める。千年の汚れが、層となって剥がれ落ちていく。


『馬鹿な……我が千年の怨念が……消えていく!?』


 アンデッドキングが後退る。初めて、恐怖の感情を見せた。空洞の眼窩の紫の炎が、激しく揺らめく。


「千年分の汚れってことか」


 俺は聖剣を振りかぶる。剣身が太陽のように輝き、周囲の空気が震える。聖剣の重さが、今は羽のように軽い。


 浄化レベル10。聖剣との完全同調。そして、聖剣に刻まれた千年の記憶。


 今の俺なら――いや、今の俺たちなら、できる。


「なら、綺麗にしてやる。お前の怨念も、孤独も、全部」


 心の中で、聖剣に語りかける。


 ――力を貸してくれ、エクスカリバー。


 聖剣が、応えるように強く輝いた。


 全力の浄化を、聖剣に込めて振り下ろした。


════◆════


 光の斬撃が、アンデッドキングを貫く。


 それは破壊ではなく、浄化だった。


 骸骨の体が、砕けるのではなく――浄化されていく。


 黒ずんでいた骨が純白になり、ひび割れていた部分が修復される。怨念が解け、呪いが消え、瘴気が晴れていく。千年の苦しみが、まるで朝露が太陽に晒されるように、消えていく。


 そして、骨の中から、一人の老人の霊が現れた。


 半透明の姿。豪華なローブを纏い、慈愛に満ちた顔をしている。これが、本来の古代王の姿。


『なんと……まぶしい光だ』


 老人――かつての古代王が、穏やかに微笑む。その顔には、もう苦しみの色はない。


『千年ぶりに、心が晴れた気がする。まるで、長い悪夢から覚めたような……』


「あなたは……」


『私は愚かな王だった。永遠の命を求め、禁断の術に手を出し、結果として永遠の苦しみを得た』


 老人の霊が、深々と頭を下げる。王としての威厳を保ちながらも、心からの感謝を示している。


『ありがとう、若き浄化の使い手よ。そして、聖剣の新たな主よ』


 彼は聖剣を見つめる。懐かしそうに、そして少し寂しそうに。


『その剣は、かつて私が封印したもの。自分には相応しくないと思って』


「なぜ?」


『聖剣は、清らかな心の持ち主にしか扱えない。欲にまみれた私には、触れることすらできなかった。触れた瞬間、激痛が走り、手が焼けたのを覚えている』


 老人が俺を見る。その瞳に、希望の光が宿る。


『だが、君は違う。掃除士として、純粋に世界を綺麗にしようとしている。その心が、聖剣を目覚めさせたのだ』


 彼の体が、光の粒子となって昇天し始める。足元から、ゆっくりと。


『最後に、一つ忠告を』


 老人が真剣な顔になる。


『この世界には、私のような存在がまだ大勢いる。呪われ、堕落し、苦しんでいる者たちが。彼らを救えるのは、君のような浄化の使い手だけだ』


『頼む。この世界を、穢れから守ってくれ』


 そして、完全に光となって消えた。


 最後に残した言葉は――『ありがとう』だった。


『アンデッドキングを浄化しました』

『経験値を10000獲得しました』

『レベルが40に上がりました』

『称号:亡者の解放者 を獲得しました』


 静寂が、部屋を包んだ。


 先ほどまでの激しい戦いが、嘘のように静まり返る。


════◆════


「嘘だろ……」


 ケンジが呆然と呟く。彼の手が震え、剣が地面に落ちる。カランという金属音が、静寂の中で響く。


「アンデッドキングを、一撃で?」


「いや、倒したんじゃない」


 ミカが震え声で言う。彼女の瞳には、理解を超えた現象を目撃した者特有の畏怖がある。


「浄化した。呪いごと、存在を浄化して、魂を解放したんだ。これは……もはや、戦闘とは別次元の力よ」


 三人が、俺を見る。


 もう、見下しの目じゃない。恐れと、驚愕と、そして――畏怖の目だ。


 まるで、人ならざる存在を見るような。


「翔太、お前……」


 ケンジが何か言いかけて、口を閉じる。しばらく葛藤した後、膝を突いて、深く頭を下げた。


「……悪かった」


 突然の謝罪に、俺は戸惑う。プライドの高いケンジが、膝を突いて謝罪するなんて。


「今までのこと、全部謝る。お前を見下してた。掃除士なんて役立たずだと思ってた」


 ケンジが顔を上げる。その目は真剣だった。涙すら滲んでいる。


「でも、違った。お前は……最弱なんかじゃない。俺たちには真似できない、特別な力を持ってる」


 彼は立ち上がり、俺の肩を掴む。


「中学の時から、お前を下に見てた。社会人になってからも、見下してた。召喚されてからも……本当に、すまなかった」


 ユウキとミカも頷く。


「本当にすまなかった」ユウキが言う。「お前の本質を、俺は見ていなかった」


「私も謝るわ」ミカが続ける。「偏見で判断してた。職業で人を判断するなんて、賢者として恥ずかしい」


 三人の謝罪は、本心からのものだった。


 俺は、複雑な気持ちだった。許すべきか、許さざるべきか。でも――


「いいよ」


 俺は答える。


「過去は過去だ。それに、俺も昔は、自分が最弱だと思ってた」


 聖剣を見つめる。


「でも、違った。誰にでも、それぞれの役割がある。戦う者、守る者、そして――浄化する者」


 三人が去り際、ケンジが振り返った。


「もし良かったら、また一緒に……いや、今は言うべきじゃないな」


 彼は苦笑する。


「でも、いつか、対等な仲間として、一緒に冒険できたらいいな」


 彼らは静かに去っていった。


 その背中は、どこか晴れやかだった。


════◆════


 三人が去った後、俺は聖剣を見つめた。


 エクスカリバー。かつて勇者王が魔王を倒したという伝説の剣。


 なぜ、こんなところにゴミとして埋もれていたのか。古代王の話から察するに、誰も扱えなかったから封印されたのだろう。清らかな心――それは、単純な正義感ではなく、純粋な願いを持つ心なのかもしれない。


 なぜ、俺の浄化に反応したのか。それは、俺の純粋な願い――世界を綺麗にしたいという想いに応えたから。


 聖剣の柄を握ると、温かい鼓動を感じる。まるで、生きているかのように。いや、実際に意志を持っているのかもしれない。


 この剣と、俺の浄化スキルは、相性がいい。いや、それ以上に、運命的な繋がりを感じる。


 邪悪を浄化する聖剣。穢れを浄化する掃除士。


 もしかしたら、これも運命なのかもしれない。俺が掃除士として召喚されたのも、この剣と出会うためだったのかも。


════◆════


 ギルドに戻ると、大騒ぎになっていた。


 まだ夜中だというのに、ギルドには人が溢れている。松明の灯りが煌々と灯され、まるで昼のような賑わいだ。


「聖剣エクスカリバーが発見された!?」

「しかも、掃除士が!?」

「アンデッドキングを浄化した!?」

「レベル60のボスを、一撃で!?」

「いや、戦ったんじゃない、救ったんだって!」


 噂は既に街中に広まっていた。どこからどう伝わったのか、尾ひれまで付いている。


 人々が道を開ける。畏怖と好奇心の入り混じった視線が、俺に注がれる。


 子供が母親の影に隠れながら、目を輝かせて俺を見ている。老人が、涙を流しながら手を合わせている。冒険者たちが、複雑な表情で俺を見つめている。


 ギルドマスターが俺の前に現れる。


 白髪の老戦士は、俺を値踏みするように見つめた。長年の経験で培われた眼力が、俺の実力を測っている。そして、腰の聖剣を見て、深く頷いた。


「佐藤翔太。君の功績を認め、特別にBランク冒険者に昇格させる」


 Bランク。召喚されて一週間で、ここまで来た。


 普通なら、何年もかかる道のりだ。いや、一生かかっても辿り着けない者の方が多い。


 でも、俺の目標はそんなものじゃない。


「ギルドマスター、提案があります」


「なんだね?」


 俺は、ずっと考えていたことを口にした。


「掃除士専門の部門を作りませんか?」


 ギルドマスターが目を丸くする。周囲がざわめく。


「ダンジョンの清掃、呪いの浄化、環境改善。戦闘だけが冒険じゃない」


 俺は聖剣を掲げる。金色の刃が、松明の光を反射して、ギルド全体を黄金に染める。


「この世界には、古代王のような呪われた存在が、まだたくさんいるはずです。彼らを倒すのではなく、浄化して救う。それが必要じゃないでしょうか」


 俺は周囲を見回す。


「汚れたダンジョンを綺麗にすれば、冒険者の死亡率も下がる。呪われた土地を浄化すれば、人々が安心して暮らせる。それも、立派な冒険だと思います」


 ギルドマスターは、しばらく考え込んでいた。


 その老いた顔に、様々な感情が浮かんでは消える。そして――


 にやりと笑った。


「面白い。君に任せよう、『聖剣の掃除士』」


 聖剣の掃除士。


 悪くない響きだ。最弱職と最強の剣。矛盾しているようで、妙にしっくりくる。


「ギルドは全面的に支援する。必要な人員も、資金も用意しよう」


 ギルドマスターが手を差し出す。


「この世界を、君の手で綺麗にしてくれ」


 俺はその手を握った。


 俺は、新たな一歩を踏み出した。


 この世界を、本当の意味で綺麗にするために。


 戦いではなく、浄化で。破壊ではなく、再生で。


 それが、掃除士としての、俺の道だ。


 聖剣エクスカリバーが、俺の決意に応えるように、優しく光った。

第5話、いかがでしたでしょうか?


レベル60のアンデッドキングを一撃で浄化!

それは破壊ではなく、魂の救済でした。

古代王の過去、聖剣が翔太を選んだ理由も明らかに。


そしてケンジたちからの謝罪。

最弱職と馬鹿にされた翔太が、今や「聖剣の掃除士」として認められました。


次回からは新章突入!

掃除士専門部門の立ち上げ、そして新たな出会いが待っています。


感想やご意見、いつでもお待ちしております。

評価・ブックマークもとても励みになります!


次回もお楽しみに!


X: https://x.com/yoimachi_akari

note: https://note.com/yoimachi_akari

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