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最弱職【掃除士】が実は環境最強でした ~ダンジョンの浄化で世界を救う~  作者: 宵町あかり


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第45話 エリーゼの決断

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

最弱職【掃除士】、実は世界最強でした 第45話をお届けします。


エリーゼの存在が限界を迎え、新たな脅威「虚空の胎動」が現れる。

究極の選択を迫られたエリーゼが選んだ道とは——

朝。翔太が目覚めると、隣にいるはずのエリーゼの姿がなかった。


「エリーゼ?」


慌てて部屋を見回すが、彼女の姿はどこにもない。不安に駆られて寝室を飛び出すと、廊下でソフィアとぶつかった。


「翔太様!エリーゼ様が——」


ソフィアの顔は青ざめていた。その表情を見て、翔太の心臓が凍りつく。


「どこに!?」


「庭園です、急いで!」


二人は走った。朝の冷たい空気が肺を刺す。庭園に着くと、そこには——


エリーゼが倒れていた。


朝露に濡れた芝生の上で、彼女の体はほとんど透明になっていた。まるで朝靄のように、輪郭がぼやけて見える。


「エリーゼ!」


翔太が駆け寄り、彼女を抱き起こそうとする。しかし、手がすり抜けた。まるで幻を掴もうとしているかのように、彼女の体に触れることができない。


「ごめんなさい...」


エリーゼの声が、遠くから聞こえるように響いた。風に乗って消えていきそうな、か細い声。


「もう、限界みたい」


その言葉に、翔太の全身から血の気が引いた。



一時間後、王城の会議室には主要メンバーが集まっていた。リク、ミーナ、カール、ローラ、マルコ、レオ、そしてヴァルガス。誰もが深刻な表情で、ベッドに横たわるエリーゼを見つめていた。


彼女の体は、今やほとんど透けて見える。顔の輪郭がかろうじて分かる程度で、手足はもう見えなくなりかけていた。


「封印術の代償が...ついに限界に達したようです」


ソフィアが震える声で説明する。彼女の右腕も、相変わらず半透明のままだった。


「先日の虚無王との戦いの際、エリーゼ様は自分の存在を犠牲にして封印を強化されました。それ以来、体の実体化が困難になっていたのですが...」


「なんとかできないのか!」ミーナが叫ぶ。「私の魔法で、時間を巻き戻すとか——」


「無理です」カールが首を振る。「封印術の代償は、世界の理に刻まれたもの。それを覆せば、封印そのものが解けてしまう」


翔太は拳を握りしめた。爪が掌に食い込み、血が滲む。


「必ず...必ず方法を見つける」


その時、扉が開いた。


「失礼する」


現れたのは、長い白髭を蓄えた老人だった。深い青のローブに身を包み、古びた杖を手にしている。その瞳には、深い悲しみが宿っていた。


「私はオルディン。この世界の歴史を見守ってきた者だ」



オルディンは、エリーゼの様子を一瞥すると、深いため息をついた。


「やはり、そうなったか...」


「あなたは何か知っているのか!」翔太が詰め寄る。


オルディンは静かに頷いた。


「私には、かつて弟子がいた。300年前のことだ」


老人の目が、遠い過去を見つめる。その瞳の奥に、深い後悔の色が滲んでいた。


「彼の名はレイン。才能に溢れ、純粋で、誰よりも優しい青年だった。掃除士として、村々を巡り、人々を助けていた」


オルディンは杖を握りしめる。節くれだった手が、かすかに震えた。


「ある日、彼は虚無に侵された廃村を発見した。私は危険だから近づくなと警告したが、彼は『苦しんでいる人がいるかもしれない』と言って...」


老賢者の声が、一瞬途切れた。


「三日後、彼を見つけた時には、もう手遅れだった。虚無に侵食され、自我を保つのがやっとの状態で...最後に彼は言った。『先生、知識だけじゃ人は救えません。行動しなければ』と」


オルディンの手が、震えを止めようと杖を強く握る。


「私は知識ばかりを追い求め、実際に行動することを怠った。知識があっても、それを使う勇気がなければ、大切な人を守ることはできない」


彼は翔太を見つめた。その瞳に、何か懐かしいものを見出したかのように。


「君は...あの子に似ている。同じ眼差しをしている」


オルディンは杖で床を叩いた。すると、空中に古代の文字が浮かび上がった。


「今、この世界は新たな脅威に直面している。虚無王は倒されたが、それは『蓋』の役割も果たしていた。その消滅により、世界の外側から新たな存在が侵入しようとしている」


文字が形を変え、巨大な影を描き出す。


「『虚空の胎動』——この世界が本来、廃棄場として作られた時の、元の管理者だ」



エリーゼが目を覚ました。しかし、その姿はさらに薄くなっていた。


「翔太...」


彼女が手を伸ばす。翔太がその手を取ろうとすると、今度は触れることができた。二人の手が重なった瞬間だけ、彼女の体が少しだけ実体化する。


「ごめんなさい...こんな体になって」


「謝るな」翔太が優しく言う。「俺たちは一緒だ。ずっと」


エリーゼは微笑もうとしたが、涙が頬を伝った。その涙だけが、はっきりと見えた。


「私、カップも持てないの。ご飯も味がしない。でも...」


彼女は翔太の手を強く握った。


「あなたに触れている時だけ、私は私でいられる」


その時、エリーゼの腹部にある紋様が、激しく脈動し始めた。金色の光が部屋を満たす。


「これは...」オルディンが息を呑む。「封印紋様が暴走している!」


ソフィアが慌てて診断魔法を発動させる。


「このままでは、明日の朝には、エリーゼ様は完全に消失してしまいます!」


リクが剣を抜いた。


「なら、今すぐ虚空の胎動とやらを倒しに行く!」


リクが勢いよく立ち上がるが、剣を抜きかけた手が震えていることに気づく。


「待て」オルディンが制止する。老賢者の顔には、深い憂慮が浮かんでいた。「相手は測定不能の存在だ。虚無王以上の脅威と思え」


「じゃあどうしろって言うんだ!」


その時、エリーゼが静かに立ち上がった。彼女の体は幻のようだったが、その瞳には強い決意が宿っていた。


「私は...知っています」



深夜。エリーゼは一人、王城の地下にある封印の間にいた。


古代の封印術式を、自分の透けた体に刻んでいく。金色の線が、彼女の肌を這うように広がっていった。痛みで意識が遠のきそうになるが、彼女は歯を食いしばった。


「エリザベート様...」


彼女が先祖の名を呼ぶと、薄っすらと霊体が現れた。初代封印術師、エリザベート。


「その道を選ぶのね、エリーゼ」


「はい。これが私の使命です」


エリザベートの霊体は、悲しげに微笑んだ。


「私も、愛する騎士と共に命を捧げた。それが封印術師の宿命。でも、あなたには——」


「分かっています」エリーゼが遮る。「でも、翔太や、みんなを守れるなら」


術式が完成に近づく。エリーゼの体が、さらに透明になっていく。


「さようなら、翔太...」


翌朝、異変が起きた。


空に巨大な裂け目が現れた。まるで世界の布が裂けたかのように、黒い亀裂が広がっていく。そこから、おぞましい触手が這い出してきた。


「虚空の胎動だ!」オルディンが叫ぶ。


黒い触手が王都を襲う。建物が次々と飲み込まれ、人々の悲鳴が響き渡る。


強大な敵が、次から次へと出現した。騎士団も冒険者も、まったく歯が立たない。その圧倒的な力の前に、誰もが膝をつきそうになる。


「こんなの...勝てるわけない!」


レオが震えながらも、小さな浄化の杖を握りしめる。


その時、エリーゼが前に出た。


彼女の体は、もうほとんど見えない。朝日に照らされた霧のように、今にも消えてしまいそうだった。


「みんな、離れて」


彼女の声は、不思議なほど澄んでいた。


封印術式が発動を始める。金色の光が、エリーゼを中心に広がっていく。光の波紋が、虚空の触手を押し返していく。


「エリーゼ、やめろ!」


翔太が必死に止めようとする。しかし、見えない壁に阻まれて近づけない。


「ごめんなさい、翔太」


涙を流しながら、エリーゼは微笑んだ。透明な頬を、透明な涙が伝う。


「でも、これが私の選んだ道」


オルディンが叫ぶ。


「待て!別の方法がある!原初の鍵...世界の根源を書き換える力が!」


しかし、エリーゼは首を振った。


「それでは、犠牲が大きすぎる。世界そのものが変わってしまう」


彼女の体が、純粋な光になり始める。


「私一人の命で、みんなが救えるなら」


【究極封印・愛の結晶化】


エリーゼが最後の術を発動させた。彼女の存在すべてが、光に変換されていく。その光が、虚空の胎動を包み込んでいく。


愛の力が、世界を侵食しようとする闇を押し返していく。


「翔太...愛してる」


最後の言葉を残して、エリーゼは光となって散った。


金色の粒子が、風に乗って空へと昇っていく。まるで、星になるかのように。


虚空の胎動が封印される。裂け目が閉じ、黒い触手が消えていく。世界は、再び平和を取り戻した。


しかし、エリーゼの姿はもうどこにもなかった。


「エリーゼぇぇぇ!」


翔太の叫びが、空に響き渡る。


その声は悲痛で、聞く者全ての心を締め付けた。鳥たちが一斉に飛び立ち、風が急に止んだ。まるで世界そのものが、彼の悲しみに共鳴しているかのようだった。



封印は成功した。


虚空の胎動は、この世界から完全に追放された。人々は歓声を上げ、勝利を祝った。


しかし、翔太たちにとって、代償はあまりにも大きかった。


翔太の手に、小さな光の結晶が残されていた。温かい光を放つ、親指ほどの大きさの結晶。


「これは...」


結晶に触れると、エリーゼの温もりを感じた。まるで、彼女に抱きしめられているような、優しい温かさ。


「この光は...温かい」


涙が止まらなかった。悲しみと、それでも感じる彼女の存在に。


オルディンが静かに近づいてきた。老賢者の目にも、涙が浮かんでいた。


「彼女は完全に消えたわけではない」


翔太が顔を上げる。


「愛は、形を変えて残り続ける。この結晶は、エリーゼの愛そのものだ。彼女は、君の中で生き続ける」


オルディンは、300年前の弟子を思い出していた。あの時、自分に勇気があれば。知識を行動に移していれば。


「私の弟子も、最後まで世界を愛していた。その想いは、今も私の中にある」


太陽が沈み始めた。オレンジ色の光が、世界を優しく包む。


明日からの世界に、エリーゼはいない。


彼女の笑顔も、声も、温もりも、もう感じることはできない。


しかし——


「エリーゼの分まで、生きていく」


翔太は立ち上がった。光の結晶を胸に抱いて、前を向く。


仲間たちが、そっと寄り添ってきた。リク、ミーナ、カール、ローラ、マルコ、ソフィア、レオ。みんな、涙を流していた。


「エリーゼ様は、最後まで王女でした」ヴァルガスが敬礼する。「いえ、それ以上の存在でした」


「うん」レオが泣きながら頷く。「エリーゼお姉ちゃんは、世界一優しくて、強い人だった」


新たな戦いが、始まろうとしていた。


虚空の胎動は封印されたが、世界にはまだ多くの脅威が残っている。そして、エリーゼが命を賭けて守ったこの世界を、今度は翔太たちが守る番だった。


「行こう」


翔太が一歩を踏み出す。


光の結晶が、優しく脈動した。まるで、エリーゼが「頑張って」と言っているかのように。


そう、彼女はいつも一緒にいる。


形を変えて、永遠に。

第45話、いかがでしたでしょうか?


エリーゼが自らの存在を犠牲にして世界を守る、重要な転換点となる回でした。

光の結晶となったエリーゼの愛は、これからも翔太と共にあり続けます。


虚空の胎動は封印されましたが、世界にはまだ多くの謎と脅威が残されています。

次回は、消えたはずのエリーゼの意識が結晶に宿る奇跡、そして虚無王アルトゥールの真実が明かされます。


感想やご意見、いつでもお待ちしております。

評価・ブックマークもとても励みになります!


次回もお楽しみに!


X: https://x.com/yoimachi_akari

note: https://note.com/yoimachi_akari

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